一部は人間のものもありそう
休憩を挟んで、正人は『転移・改』を繰り返して安全な場所を見付けた。浅い洞窟で身を隠すにはちょうどよい。そこで一晩明かしてから、話し合ったとおり戦闘メンバーである正人、ユーリ、里香、冷夏、ヒナタ、レイアは三つ目に発見した食料庫の近くにまで転移した。
マザー討伐まで数時間ある。
送られてきた位置情報からして間に合う計算ではあるが、ゆっくりはしていられない。
物陰に隠れて蟻人族の姿を探すが誰もいなかった。
不気味なほど静かである。
「どうしていないんでしょうか?」
小さな声で冷夏がつぶやいた。同意するように里香、ヒナタもうなずく。
全員の視線が種族特性に詳しいレイアへ集まった。
「蟻人族が通常の行動を止める理由は一つだけです。マザーからの何らかの指令があったのでしょう」
「その何らかってのはわからないのか?」
「いくつか考えられますが、どれも推測の域を出ません。もう少し情報を集めませんか」
ユーリの質問に答えられないレイアが提案した。
リーダーである正人を見ているため、時計を確認してから口を開く。
「手分けして30分だけ調査をしましょう」
「りょーかいだ。レイアの嬢ちゃんは俺と一緒に行くぞ」
「はい!」
すぐに動き出したユーリは二人で近くの建物へ入ってしまった。
残された正人パーティは一緒に行動をして、第二食料庫の道を歩く。『索敵』スキルに赤いマーカーは浮かばない。大量にいた蟻人族は、どこかへ行ってしまったのは間違いない。
4人は近くにある大きな建物へ入った。そこには肉塊が山のようにあって、酷い臭いが漂っている。女性陣はとっさに鼻と口を腕で押さえ、数歩後ろへ下がる。
「うええええー! なにこれ! 臭いよー!」
ヒナタが涙目になりながら皆が思っていることを代表して言った。
「この肉は動物? それとも……」
「全部じゃないけど一部は人間のものもありそう」
冷静に周囲を見ていた里香が、冷夏が見えるように指をさした。そこには人間の手がいくつか転がっている。現地に住んでいた人たちが犠牲になった姿だ。
もし、この数が全員人間だった肉塊であれば、数百人は犠牲になったとわかる。
改めて蟻人族の被害が大きいことを実感し、同時に交渉の難しさを再認識した。
「ここには何もない。出よう」
眉間にシワを寄せて嫌悪感を出した正人の指示に従い、建物から出た。まだ時間に余裕があるため、続いて近くの家へ入ると、家具すらない部屋に藁が敷かれていた。
ここは一般兵が寝泊まりしていた場所だ。
食料庫から近いのは監視までも仕事に含まれていたからである。
近くには武器がいくつか転がっていて、その中には鹵獲された銃器や弾丸もあった。これらは蟻人族にとって貴重な物であるはずなのだが、放置されていることに正人は疑問を持つ。
「全てを捨ててでも急がなければ何かが……まさかっ!」
「どうしたんですか?」
「マザー討伐に問題が出ているかもしれない」
戦いが始まってから蟻人族が集まってくるのであれば、まだわかる。通常の行動範囲内だ。しかし今はマザー討伐開始前の時間である。
それなのに蟻人族が貴重な物品を置いてまでどこかへ行くのであれば、それ以上に大事な存在の危機が訪れていると気づいたからに他ならない。
「蟻人族はマザーが危ないって察したんですね」
正人に指摘されて里香、そして近くにいる冷夏やヒナタもようやく問題の重要性に気づいた。
オーストラリア大陸に上陸できた部隊はそう多くない。巣穴にいる蟻人族が殺到しただけで、物量で押しつぶされてしまうだろう。
「ユーリさんを呼んできて!」
「はい!」
里香が出て行っている間に正人は物色を続けたが、何も見つかることはなかった。
しばらくしてユーリが戻ってくる。
「マザー討伐隊が危ないってのはガチなのか?」
「私の推測が正しければ……」
「それなら正人さんの転移を連続使用してすぐに駆けつけなければいけません!」
レイアが焦った様子で言ったが、正人は首を横に振った。
「転移先がどうなっているかわかりません。もし、蟻人族の行列のど真ん中に出てしまえば、逆に危険です。時間はかかるかもしれませんが、歩いて移動をするべきです」
「……わかりました。それではすぐに行きましょう」
誰も反対する者はいなかった。第二食料庫の調査を打ち切って、正人たちは他国から送られてきたマザーの座標に向かって歩き出す。
危険な先頭は正人だ。その後に里香たちに囲まれたレイア、最後尾にユーリである。
敵は出てこない。曲がりくねった道を進んで行くこと数時間。ようやく戦闘音が聞こえてきた。
正人の脳内に浮かぶレーダーマップには赤い点が数え切れないほどある。範囲外ギリギリの所には青いマーカーがあって、人間が蟻人族と戦っていることがわかった。
「予想通りの展開ですね。他国の上陸部隊が襲われているようです」
「どうします?」
レイアはこの量を倒せるとは思っていない。一時撤退すると思って聞いてみた。
「倒しますよ」
だが正人の答えは逆だった。自信ありげに戦うことを選んでいる。
信じられないレイアはユーリを見るが、短槍を肩に乗せて笑っているだけ。里香たちも同様だ。正人なら出来ると信じて疑っていない。
そこまでしてようやく、疑っているのは自分自身……レイアだけだと気づいたのである。
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小説とは違う面白さがあると思うので、こちらも読んでもらえるとうれしいです!
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