その言葉、忘れるなよ?
烈火や春、サラたちはセーフハウスに置いてあった装備を身につけて、正人の力によってオーストラリア大陸へ転移をした。場所は最初に上陸した山の上である。
狙撃されないよう岩の影に隠れていて、正人が今後の予定を提案していた。
「マザーの討伐には参加しますが、全員で行くのは危険ですね。特にレイアさん、サラさんや美都さん、烈火、春は戦闘経験が少ないので足手まといになる。安全な場所を見つけて拠点を作り、討伐部隊と拠点防衛のグループに別けましょう」
「賛成だ。戦闘メンバーは俺、正人パーティだけで固めたいな」
提案に同意したのはユーリだ。特に美都を死なせたくないという気持ちが強いため、安全な場所に置いておきたいと考えている。
この場にいるほぼ全員が反対しない中、一人――レイアが異論を口にする。
「私は参加させてください」
「どうしてですか?」
「チャンスがあれば共存できる道がないか、会話を試みたいんです」
他の蟻人族と比べてマザーの知能は高い。異世界の共通言語を話せるため、挑戦したいと思っていた。
レイアは自分のように、蟻人族も人間と共存できるんじゃないかと淡い期待を抱いているのだ。
その可能性が低いことはわかっているが、だからといって挑戦しない理由にはならない。同郷ということもあって、種族の根絶だけは避けられるよう動きたいと考えている。
「そんな余裕はねーぞ」
「ですが!」
否定するユーリにレイアは非難の目を送った。
この発言に否定的な態度をあらわしたのは里香たちである。
「対話のチャンスがあるならするべきです。もしかしたら世界各地に広がっている一般兵を戻してくれるかもしれませんよ? 各地に点在するよりも被害は抑えられるはずです」
マザーを倒したところで世界中に広がった蟻人族が即座に消えるわけではない。あくまで新しく生まれなくなるだけだ。
数年もしかしたら数十年は地上に残り続けて、人々を襲い続ける可能性があるのだ。
だが交渉次第では被害を最小限に抑えられるかもしれない。そういった希望があると、里香はユーリに伝えたのである。
「だがよぉ。対話できたとしても相手が約束を守るとは限らねぇぞ?」
「全てを疑っていたら何も進みません」
「そりゃぁそうだがよ……」
言葉に詰まってユーリは冷夏とヒナタを見るが、里香の意見に同意している顔をしていたため、視線を正人にずらした。
「だとよ。どうする?」
「平和的に終わらすには、お互いに被害が出すぎてしまっています」
オーストラリア大陸はほぼ全域が蟻人族に支配され、海底に穴を作って世界中に被害を出している。また住む土地や大量の食料が必要とされる蟻人族の問題を解決する必要もある。交渉のハードルが高いのは間違いない。
「では共存は出来ないと、そう言いたいのですか?」
落胆したレイアに正人がフォローを入れる。
「難しいだけで不可能とは言っていません。相手に譲歩する意思があれば、落とし所はあるはずです」
「では交渉できるか挑戦はしていいと?」
「ええ。ですが、ただ話すだけではダメです。我々がマザーを脅かす存在だと証明する必要があるでしょう」
力なき言葉は無力であり、平和的な交渉をするにしても力を示す必要がある。
特に今は人類側が侵略されている立場であるため、互角以上の力があると相手に認めさせなければならない。そのためにマザーへたどり着き、蟻人族に危機感を覚えさせる必要があるのだ。
力の強いものが正しいという種族的な考え方にも合っているため、鬼人族のレイアも納得をした。
「わかりました。一戦を交えてから交渉をする流れですね」
話がまとまったとレイアが立ち上がった。
正人たちに付いていく気である。
「おいおい。マザーと戦うのは変わらないんだぞ? やめておけって」
「これでも鬼人族なんです。自分の身は守れますし、最悪の場合は見捨ててもいいですよ。恨みません」
揺るがない意思を伝えられてユーリはため息をついた。
「わかったよ。レイアの嬢ちゃんは許可する。それでいいよな?」
「仕方がありません」
呆れたような表情をしながら正人は残るメンバーを見た。
「協会のいざこざに巻き込んだうえに、こんな役目を押し付けて申し訳ないんだけど……守りの要は誠二君だ。弟とサラさんを頼んだよ」
今回において一番の被害者は間違いなく誠二だ。順調に探索者としてレベルアップしていたのに、探索協会と敵対したうえに日本での生活も難しくなってしまった。
蟻人族の問題が片付いても元の生活には戻れない。
普通であれば文句の一つでも言うべき所ではあるが、誠二は快く仕事を引き受ける。
「任せて下さい。必ず守ってみせます」
「……どうしてそこまで協力する?」
ほぼ初対面と言える相手を信じ切れないユーリは、殺気を放ちながら短槍を構えた。
回答次第では殺すという意志を見せているのである。正人が間に入ろうとするが、先に誠二が応える。
「借りがあるからですよ」
「それだけか?」
「ええ、それだけです」
ニコニコと笑みを浮かべた誠二と睨みつけるユーリは、しばらくお互いを見ている。
緊張感が高まり正人ですら動けないでいる。
時間の流れが遅く感じ、誰かが声を上げそうになると、ユーリが息を吐いた。
「義理や人情、貸し借りは命よりも重い。その言葉、忘れるなよ?」
「もちろんです」
ユーリは短槍を肩に乗せて構えるのを止め、緊張が一気に緩和された。
「あーー。疲れたー」
真面目な雰囲気に弱いヒナタが姉の冷夏に抱きついた。
頭をグリグリと胸に押しつけて遊んでいる。
他のメンバーも表には出していないが少しだけ疲れている様子が見て取れるため、正人は出発を少し遅らせると決めたのだった。
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小説とは違う面白さがあると思うので、こちらも読んでもらえるとうれしいです!
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