一人で来い
「取引に応じてくれてありがとう。早速だが美都をもらいたい」
「その前に数人でもいいから解放してもらえませんか?」
「……いいだろう。鬼人族を解放しろ」
戦力として最も低い二人であれば自由にしても問題ないと豪毅は判断した。
紅は言われたとおり手錠と足の鉄球を外すと、動けるようになったサラはレイアに抱きついて泣いている。子供には辛い経験だったのだ。
「さっさと向こうに行きな」
すぐに動かない二人を見て、紅は苛立った様子で言った。
サラを抱きしめながらレイアは立ち上がり、小走りで正人に変身したユーリの前に移動する。
「怪我はありませんか?」
「丁重に扱われたので大丈夫です」
「ではユーリさんの所へ行ってください」
「お気を付けて」
言われたとおりレイアは後方へ下がった。
倉庫の周りにいた拳銃を持つ探索者が入り口を塞いでいるので、逃げ道はない。
正人は冷静に周囲を観察する。
ノートパソコンを持っている探索者は隙が多い。脅威にはならないだろう。問題になるのは拳銃を持つ探索者と里香の近くにいる紅だ。正人が少しでも怪しい動きをすれば、すぐに攻撃できる距離にいる。
「そちらの要望には応えた。美都を渡してもらおう」
ユーリと美都が前に出た。
一緒に移動しているのを見て豪毅が止める。
「美都だけこい」
「あら? ユーリが怖いの?」
危険な場面だというのに美都はマイペースだ。
挑発をする態度を取ってしまう。
「くだらないことを言うなら、人質は無事じゃ済まないぞ?」
紅は上空に岩で作られた槍を数本浮かべた。『ストーンジャベリン』と呼ばれるスキルだ。物理的な重さすらあるため、頭上に落ちれば重傷は避けられない。脅しとしては十分であった。
美都の軽口は止まって、黙ってしまう。
「ようやく立場を理解したか。では改めて言おう。一人で来い」
ユーリは後ろに下がって正人の隣に立つと、美都は歩き出した。
ノートパソコンを持つ探索者の前に来ると、手錠を出される。レベルが一のままで強奪以外のスキルを覚えていない美都であれば、この程度の拘束でも問題ないと判断されたのである。
「つけるんだ」
美都は手を伸ばして手錠を持つと……口角を上げる。
変身のスキルを解除すると、胸に詰め物を入れた誠二の姿に変わった。
一瞬にして姿が変わったことで紅の思考が止まる。その隙にユーリが『復讐者』のスキルを発動させ、対象の組織に所属している相手にだけ、レベルを一つ上げるほどの効果を発揮する。
この場でユーリに地力で勝てる敵はいないだろう。
異変に気づいた紅が『ストーンジャベリン』を落とそうとするが、ユーリが発動させた『自動浮遊盾』によって防いでしまう。
「なっ!? 今度は入れ替わった!?」
変身を維持する必要がなくなったため、元の姿に戻ったユーリがパソコンを持った探索者を殴って気絶させ、続いて伊織に向かって蹴りを放つが、腕でガードされてしまい軽く吹き飛ばすだけで終わる。
レベル差があるのに対応されてしまった。
ユーリは相手の実力が高いと警戒心を持つ。すぐに攻撃へは移らず睨み合いをしている。
外にいる探索者が集まってきた。銃を正人とユーリに向けている。
「動けば殺す!」
「そんなことすれば人質の意味がなくなるよ?」
変身スキルを解いた正人が突っ込むと、探索者は一瞬だけ怯む。その瞬間を狙ってスキルを発動させた。
――水弾。
威力を抑えて無数の水の塊を探索者たちにぶつけた。一部の探索者はトリガーを引いて撃ったが、拳銃の弾は水で威力が落ちてしまい、正人やユーリの所にまで届かない。
遠距離攻撃はダメだと判断した一人が正人へ近づく。奇襲であれば力押しで勝てると、タックルをかまそうとするが、回し蹴りをくらって脳しんとうを起こして倒れてしまった。
「どうして……?」
「近距離戦闘も得意なんですよ」
元々はナイフ二本だけでモンスターと戦っていた男だ。接近戦の方が本領は発揮できる。
スキルを使わずとも、そこら辺にいる探索者に負けることはないのだ。
「美都はどこにいる!?」
床に転がったパソコンから豪毅の声がした。
画面越しから美都の姿が誠二にかわったことを見ていたため、焦っているのである。
「悪いな。ここに美都さんはいない」
胸に入れていた詰め物をとると、誠二は水弾でダメージを受けた探索者に攻撃をして、拳銃を取り上げていく。
正人は里香を助けるべく動いていたが、紅が『ストーンジャベリン』を放ってきた。
避ける時間がもったいない。『自動浮遊盾』を発動させると、半透明の盾で受け流す。走ったまま紅に接近するが、全身が痺れて動きが止まってしまった。
ユーリと対峙していた伊織が『電撃』のスキルを放ったのだ。元の攻撃力は低いのだが感電をして筋肉が痙攣してしまい、一時的に動きを止める効果がある。ユーリも同様に『電撃』を受けてしまったため、動きが止まっていてフォローには入れない。
伊織が里香の方を見たので、正人は『エネルギーボルト』を放ったが、『障壁』スキルによって阻まれてしまった。
このまま人質を回収して仕切り直そう。
伊藤が紅に指示を出そうとしたが、正人が立ち上がったのに気づいて中断する。
「しばらくは動けないはずなんだが……」
「残念だけど、私には通用しないよ」
『状態異常耐性』によって正人はすぐに復帰できたのだ。






