そこまで調べる必要はないだろ?
交換場所に指定されたのは港の倉庫街だった。
時刻は夜で人気はない。
この場にいるのは正人、ユーリ、美都だが変身スキルを使っているため、中身は別人になっている。
三人が歩いて指定された倉庫エリアに着くと、警備をしている二人の探索者が近づいてきた。
「武器のチェックをする」
「お好きにどうぞ」
探索者は手早くボディチェックをしていく。正人やユーリは体や足を叩いて確認するだけだったが、美都のときは胸や股を触ろうとしたので、警備の探索者は正人に変身しているユーリに股間を蹴られてしまった。
うずくまりながら睨みつけるようにして、見上げている。
「な、何をする!」
「そこまで調べる必要はないだろ?」
「反抗的なことをすると――」
文句を聞くつもりはない。ユーリは探索者のアゴを蹴り上げて股間を蹴り、気絶させてしまった。
残った探索者が拳銃を構える。
警告しようとして口を開きかけたが、続けて攻撃の態勢に入っていたユーリが鳩尾に蹴りを入れて咳き込んでしまう。
さらに顔を殴って気絶させてしまった。
探索協会に強い恨みを持っているユーリは、手下として働く人間にも容赦はしない。徹底的に叩きのめすという強い意志を持っている。
「嫉妬してくれたの~?」
騒動が収まると美都が正人に変身しているユーリへ抱きついた。
首筋にキスをしていて甘えているようにも見える。監視の目があるかもしれないと警戒しての行動なのだが、ユーリに変身している正人は非常に微妙な気持ちになった。
「大人しく従った方がよかったか?」
「美都さんが手に入るまで里香さんたちに手を出すことはないでしょうから、この程度なら問題ありません」
美都を手に入れ、正人のスキルを強奪すれば世界を牛耳ることだって不可能ではないだろう。地上にいるモンスターを一掃することも可能だ。
取引を絶対に成功させたいのは豪毅のほうで、正人の読み通り下手には動けない。
手下の探索者を痛めつけたぐらいで、正人の怒りを買ってしまうことはしないのだ。もっと慎重に動く。決定的な問題が起こるまで、里香たちの身柄は安全なのだった。
周囲を見るが他に探索者の姿は見えない。『索敵』スキルを使っても同様だ。近くに青いマーカーは浮かんでいない。近くに監視の目はないとわかった。
「行きましょうか」
気絶させた探索者を放置して倉庫街を歩く。『索敵』スキルに反応があった。すぐに青いマーカーが集まっていて、距離もそう離れていない。
「人が集まっている場所を見付けました」
「場所はどこだ? 様子を見てくる」
正人に変身しているユーリが、暗視スコープを付けて姿を消した。
教えてもらった倉庫の中を覗くと伊織、紅の姿を確認する。肩からアサルトライフルぶら下げていて、攻撃するとなればすぐに動けそうなほど警戒している。里香たちは手錠を付けられ、柱にくくりつけられていた。足にも鉄球がついていて、すぐに動けそうではない。
また倉庫の周りにも探索者が何名も潜んでいる。
持っている武器は視認できるだけで拳銃のみ。あとはダンジョン製の防具ぐらいだ。
豪毅の姿は見当たらない。
この場にはいないが必ずどこかで様子をうかがっているはずだ。覗き見はしていると、ユーリの中には確信があった。
配置の確認を終えるとユーリは正人の場所へ戻る。
「どうでしたか?」
「里香ちゃんたちの無事は確認した。敵は倉庫の周りと中にいる」
「レイアさんとサラさんもですか?」
「ああ、拘束されているがケガ一つなさそうだ」
人質に取られた仲間が無事だとわかり、正人はほっと胸をなで下ろした。
懸念点が一つ解消された。
あとは取引を無事に終わらせるだけである。
「行きましょうか」
「正面からか?」
「邪魔者を排除したら人質が危ないですからね」
「それもそうか。行こう」
倉庫街を歩いて目的の場所にたどり着くと、軽く手を挙げながら進んで行く。
既にボディチェックを受けている手はずであるため、誰も近寄ろうとはしない。むしろ距離を取って銃を向けている。
「ふつー、取引に来た相手に銃口を向けるのか?」
ユーリに変身した正人が不満を口にした。ふてぶてしい態度のみならず声も変えているため、誰も別人だとは思っていない。
偽装は完璧であった。
「下っ端に何を言っても無駄ですよ。先に行きましょう」
「そうすっか」
正人に変身しているユーリに声をかけられると、半歩後ろにいる美都と一緒に三人は倉庫へ入った。
中には伊織と紅、その他に探索者の男が一人いた。
ユーリが偵察してから時間は経っていないため、里香たちは全員拘束されている。足首につながっている鉄球も残っている。
「正人さん! 私たちのことは忘れて逃げてください!」
取引が成立したら強奪スキルによって正人が殺される。そんな未来は絶対に避けなければならないと、里香は魂を込めて大声で言ったのだ。
「気持ちは嬉しいけど見捨てるなんてできない」
「この人達は本気で殺しに来てるんですよ!?」
「知っている。でも逃げるなんてできない」
悔しそうな顔をして里香は黙ってしまった。
やりとりを見て伊織は満足そうにして、耳障りな拍手をしている。
「いやー、いいものを見せてもらったよ。友情は尊いね」
「豪毅さんは?」
探索者の男が伊織の隣に立つとノートパソコンを開いた。
画面の中に豪毅がいる。遠隔から監視をしていたのだ。






