疲労困憊ではマザーと戦えません
一騒動あったが、正人は無事に蟻人族の巣へ戻って来た。
周囲を見ると仮眠しているユーリの姿が見える。声をかけようと近づくと、すぐに目覚めて顔を上げた。
「家でゆっくり休めたか?」
「おかげさまで」
返事をしながら正人はユーリを見る。疲労の色が濃い。
ベッドで十分な睡眠を取り、里香手作りの料理まで食べられた自分とは大違いだ。どうにかして休めさせてあげられないだろうかと正人が気にしていると、ユーリは笑った。
「このぐらいどうってことないさ」
「でも、疲労困憊ではマザーと戦えません。どこかで休む必要があります」
「二つ目の食料庫を見つけたから、着いたら一旦日本へ戻る。それでいいか?」
「いいですね。賛成です」
新しい発見があったことに驚きながら、正人はユーリが休憩できるのであれば問題ないと納得した。
新しい食料庫への道は手書きの地図に残してある。運び屋を追跡する必要はないため、ユーリは紙を正人に渡すと姿を消さないまま二人は歩き出した。
今は正しい道を探すのではなく、敵に見つからないことが重要だ。さらに体力が温存できればなおよい。
適度に休憩を挟みながら、『索敵』スキルで蟻人族が近づいているとわかれば、隠れてやり過ごしていく。
時間はかかっているが順調に行程は消化できている。
戦わずに新しい食料庫へ到着できると思っていたのだが、目の前の天井に穴が空いて数十に及ぶ蟻人族が落ちてきて計画が狂ってしまう。
中には隊長級もいた。
『また侵入者を発見したぞ! 殺せ!』
指示が出ると一般級の蟻人族がスキルを発動させた。『エネルギーボルト』だ。数十の光る矢が浮かび、隊長級が覚えている『連鎖』のスキルによって重ねられ、束ねられていく。
バリスタの矢よりも大きい。まるで大砲のようだ。通路の横幅ギリギリまであるため回避も難しい。
奇襲を受けて数秒遅れて迎撃態勢をとった正人とユーリではあるが、攻撃を中断して守りを固めると決める。
――自動浮遊盾。
ユーリは譲り受けたユニークスキルを発動させ、盾を拡大し、縦に並べるのと同時に束ねられた巨大な光る矢が放たれた。
パリンとガラスの割れる音が次々として、半透明の盾が砕かれていく。
「もたねぇぞ!」
「任せて下さい!」
半透明の盾が完全に破壊される前に、ほぼ全力の魔力を込めて正人がスキルを発動させる。
――障壁。
透明の膜が正人を中心に発生してユーリまで包み込んだ。
直後、半透明の盾をすべて砕いた巨大な光る矢が『障壁』と衝突した。正人の膨大な魔力を注がれて強化されたスキルは、完全に受け止めている。
「はは……すげぇ光景だな」
個人ではなく軍隊とも戦えるほどの光景に、ユーリは自然と乾いた笑いが出た。
巨大な光る矢は『障壁』を突き破ることはできずに消滅する。
「次は俺の番だ」
タイミングを伺っていたユーリが飛び出した。『短槍術』を使っており、穂先がほんのりと光っている。
最初に狙ったのは隊長級の蟻人族だ。頭を貫き、即死させる。
これで『連鎖』スキルは封印できたので、先ほどのような強力な攻撃はできない。
隊長級が殺されて指示系統が乱れている蟻人族は動きが乱れている。
ユーリは短槍を振るい、数体まとめてなぎ倒していく。攪乱するように動いているため蟻人族は敵の姿を見失う個体も多く、さらに混乱して攻撃が止まる。
――エネルギーボルト。
そんな中、正人が遠距離からスキルを放った。
光の矢がマシンガンの弾丸のように次々と刺さっていき、蟻人族が倒れる。
反撃に出て一分ほどで奇襲をしかけてきた個体を全滅してしまった。
戦闘が終わるとユーリは力が抜けて壁に寄りかかる。
「どうしました?」
「悪い。少し疲れた」
「限界ですね。マンションに戻りましょう」
地図をもらえたので正人だけでも先には進める。
返事を聞くことなく、ユーリの体に触れると『転移・改』によって一度マンションに行き、『転移』によって正人は蟻人族の巣に戻った。
ここからは一人だ。
奇襲を受ければ負けることもあり得る。正人は休憩して魔力を回復させると、『隠密』スキルを発動させて慎重に歩き始めた。
地図に従って進んで数時間、目的地であった食料庫に着いた。
『索敵』スキルによって脳内に浮かぶマーカーは赤一色だ。人間の気配はない。建物の中や通路には蟻人族が溢れんばかりにいる。
いくら正人が『隠密』スキルが使えても、密集している集団の中にはいれば発見される危険性はあるのだ。これは『透明化』スキルも同様である。姿が消えているだけで実態は残っているため、ぶつかればそこに何かがあるとバレてしまう。
だがそんな状況でも建物の屋根には誰もいないため、正人は『短距離瞬間移動』で建物の上を移動していく。
むろん『隠密』スキルを使っているので気づかれることはない。
屋根の上から通路を監視していると、ロイヤルガードに守られた運び屋の集団を発見した。
マザーの所へ運びに行くのではないだろうか。
正人はそう直感すると、後を付けていくと決めた。
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