(日本)もうちょっと何かないの?
「入信して一年以上経過した信者の中から選ばれた人だけが、大教祖様からスキルを授けてもらえるらしんです」
「それがスキル恩寵会?」
「ですね。恐らく、我々が喜捨したスキルカードを渡しているのでしょう」
早川の説明は納得できる部分もあるが、伊織はコピーしたスキルカードを配っているのだと考えた。
幹部候補からスキルカードを徴収し、使える物をコピーして信者に渡すサイクルが出来ているのだ。さらにスキル恩寵会という名の下に、一部の狂信者に『召喚』といった危険なものを渡して、地上にモンスターを放つことによって文明を破壊していくのであれば、探索協会がスキルカードコピーの存在に気づけなかったのも理解できる。
伊織はラオキア教団の仕組みを正確に理解していった。
「それじゃ、僕はこれで……」
「ねぇ、それだけ? スキルカードを二枚も渡したんだから、もうちょっと何かないの?」
離れようとした早川を呼び止めたのは紅だ。
耳にある大量のピアスをイジりながら睨みつけている。スキル恩寵会の情報だけじゃ足りないと、態度や視線でも伝えているのだ。
取引は順調に終わったと思い込んでいた早川は、怯えたような表情をしながら口を開く。
「恩寵会を知っているメンバーは少ないんですよ? もし参加を希望されるなら開催日時と場所を教えられますし、エネルギーボルト2枚分の価値はあるかと思いますが?」
「私はそう思わないね。だってメリットがないもの」
お近づきの印としてスキルカードを一枚プレゼントできるほどの余裕があるのだ。スキル恩寵会に参加できたとしても、あまり価値を感じられないのも無理はない。だが早川にはこれ以上のとっておきの情報など持っていなかった。
「他に情報がないなら取引は不成立よ」
「ですがこれ以上は……」
「その辺にしておけ」
暴走しそうな紅を止めたのは伊織であった。
恋人にたしなめられたので大人しく引き下がり、腕を伊織の首に回して抱きついた。
「いい仕事したでしょ?」
「ああ、後は任せろ」
誰にも聞こえないよう小声で短く会話を終わらせると、伊織は早川に話しかける。
「俺はスキル恩寵会の情報で満足しています。我々でも参加できるのでしょうか?」
「招待された信者じゃないと参加できませんが、裏の方法があるんです」
「ほう、どのような方法ですか?」
「スキル恩寵会の存在を知っている幹部候補からの推薦です」
「それは期待してもよろしいのですよね」
「もちろんです。今晩中に紹介状をお渡ししましょう」
お互いに連絡先を交換すると、早川は紅が何かを言い出す前に逃げるように集会所から出て行ってしまった。
「罠って可能性もあるんじゃない?」
「だったら食い破るだけだ。何も問題ないだろ」
「ないわね」
修羅場なんて数え切れないほどくぐっている。罠であっても乗り越えられる自信があるのだ。
抱きついたままの紅はキスをしてから離れると、伊織と一緒に酒と食事を楽しむことにした。
◇ ◇ ◇
早川は約束通り、その日の夜にスキル恩寵会の招待状を伊織に送っていた。
メールに添付されている画像を見せれば参加できるとのことだ。ただ条件にレアなスキルカードを一枚持ってくることと記載されていたので、伊織は探索協会経由で『自己回復』を用意していた。
開催日になると伊織と紅はラフな格好でビルの一室へ入る。そこには暗い雰囲気をした男女が数人パイプ椅子に座っていた。幹部候補立ちが集まる集会所とは身なりが大違いだ。誰もがこの先に未来を感じていない。
二人は空いているパイプ椅子に座って待っていると、スーツを着た男が入ってきた。
ターゲットではない。
「みなさん、よくぞ来てくれました! 堅苦しい挨拶は抜きにして、求めている物をお渡ししましょう」
参加者の目がギラギラと光り出した。
それは決して明るい物ではない。暗く、深淵へ引きずり込みそうな怪しい光だ。
「今回皆さんにお渡しするのは召喚のスキルカードです。これはランダムのモンスターを目の前に呼ぶ能力です。これがあれば、憎い相手を殺すことも出来ますよ」
最悪の宣伝文句ではあるが、参加者は当然のように受け入れいていた。
明日を生きる金さえ稼ぐのが難しく、社会に搾取され続けていると思い込んでいるため、自分たちが道を踏み外すことを良しとしているのだ。
法が守ってくれないのであれば、こちらも守る必要はない。
そういった考えを持つ信者を集めたのがスキル恩寵会であった。
スキルカードを受け取っていくと、会場にいた人は外へ出て行く。すぐに伊織達の番が来た。
他社と同じくスキルカードをもらうとしたが、止められてしまった。
「たしか早川君の紹介でしたよね?」
「ああ、そうだが」
「でいしたら一つ上のフロアに移動してください」
疑問に思いながらも伊織と紅は素直に従うことにした。
階段を登って上の買いに来ると他の信者がいて、鉄製のドアを開いて会議室に通された。
数人が入れる程度の小さな場所だ。椅子は三脚しかなく、他には小さなテーブルと壁掛けのホワイトボードがあるだけ。そこにターゲットである男が座っていた。
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