(日本)事実だ
探索協会の豪毅は、裏の仕事を頼んでいる風見 伊織と早乙女 紅を副会長室に呼びつけていた。
革張りのオフィスチェアに座りながら足を組んで、二人を睨みつけている。
これから表では言えない重要な会議を行うのだ。
「ラオキア教団の信者に、スキルカードをコピーするスキルを覚えている人間が存在する」
「そいつはすげぇ話だ。本当なら是が非でも手に入れたいな」
そう言ったのは伊織だ。顔に刺青を入れている坊主頭の男である。豪毅に一般公開されていない『隷属』スキルを使われているため命令には絶対に逆らえないが、多数のスキルカードを優遇してもらっているため能力は非常に高い。
「実際に存在する。どこの組織よりも早く動いて俺の前に連れてこい」
「連れてきてどうするの? 例の大教祖みたいに洗脳でもさせる?」
疑問を口にしたのは紅だ。動きやすいように髪を短くしていて、耳や唇、鼻に大量のピアスを付けている。伊織とは恋人関係にあり、また同じく『隷属』スキルを使われているので自由はない。
「洗脳のスキルカードは持っていない」
「じゃあ、どうするの?」
「美都を捕まえて強奪スキルを使わせる」
「あの女はオーストラリアに行っているんでしょ? 蟻人族に殺されるんじゃない?」
「正人がいるのだ。そんなことはないだろう」
豪毅は正人が覚えている全てのスキルを把握しているわけではないが、通常の探索者の5倍はスキルを覚えているだろうと予想している。そのぐらいあればマザーの討伐はともかく、逃げる方法はいくつもあるだろうと予想していた。
また全員に渡している携帯電話にも仕込みをしているため、居場所がわからなくなるといったことはないだろう。
「仮に美都が生き残っても、カード化できるスキルはランダムでしょ?」
「いいや。実は狙って『強奪』する方法はある」
美都自身も知らないことだが、過去の傾向から奪いたいと強く願う気持ちと、対象のスキル理解度が高ければほぼ100%の確率でカード化できることがわかっている。
死ぬ間際だった川戸の『自動浮遊盾』を強奪できたのも、そういった理由があってこそだった。
「ふーん。それじゃ私たちがスキルカードコピー野郎を捕まえれば、協会はさらに力が付くんだね」
「男じゃないかもしれない。先入観は捨てろ」
「細かいジジィね」
紅が辛らつな言葉を吐いたことで、『隷属』スキルが発動した。
全身に痛みが襲ってくるが、覚悟していたことだったので表情一つ変えていない。ただ全くダメージがないというわけではなく、全身に汗を浮かべて耐えている。豪毅が許すまで激痛は続くだろう。
「いつまで我慢できるかね?」
「死ぬまでね」
失礼な物言いに腹を立てていた豪毅ではあったが、このようなところで手駒を失うわけにはいかない。
ため息をついてから、面倒くさそうに口を開く。
「…………先ほどの暴言は許す」
スキルによって紅に発生していた激痛が一瞬にして消えた。
「で、ターゲットはどこにいるんだ?」
先ほどのやりとりを無視して、伊織が聞いた。
ラオキア教団にいるという情報だけは、調べるのにも時間がかかる。正人がオーストラリアにいる間に確保したいのであれば、それなりの情報をよこせと伊織は思っていた。
「ラオキア教団に侵入させた配下からの情報だと、こいつが可能性として一番高い」
デスクに一枚の写真が置かれた。
元探索者で現在はラオキア教団に傾倒している中年の男性だ。異世界人ではない。
「根拠は?」
「彼は教団に入るとすぐに幹部になり、それと同時に戦闘員に配布されるスキルカードが増えたそうだ」
「分かり易い動きだな。どうして気づけなかったんだ?」
「普通、スキルカードをコピーするなんて想像しない。どこから資金提供があって、非合法で買い漁っていたと思ったんだよ」
同じカードが何枚も提供されていることまで把握していれば話は別だっただろうが、豪毅が受けた報告はスキルカードの提供量が増えたという事実のみであった。
そのためスキルカードコピーの存在に気づくどころか、そういったユニークスキルがあるという発想にすら至らなかったのである。
「そういうことね。言い訳にしては上手いな」
「事実だ」
反抗的な飼い犬にイラ立ちを見せている豪毅は、追加で二枚の紙をデスクに置いた。
「新しい身分だ。ラオキア教団の信者という設定になっている」
「毎回よく用意できるな」
感心しながら伊織は紙を受け取って内容を読む。
高校卒業後から探索者として活動していたが、探索協会の逆鱗に触れてしまい免許を剥奪され、その後は日銭を稼ぐ仕事をしながらラオキア教団の信者として活動していると書かれていた。
また身分とは別に教団のノルマや階級制度といった情報に加え、都内にあるラオキア教団の集会所が複数記載されているので、すぐに他のラオキア信者と接触もできるだろう。
「この探索協会ってのは、人の人生を狂わせる悪いやつだな」
「まったくだ」
実際に何人も破滅させた豪毅が同意すると、説得力があった。
「自分からイメージを悪くさせるなんてバカじゃないの」
「だがリアリティはあるだろ?」
「そうね。そこは認めてあげる」
スキルによって行動を縛られている紅は、認めるしかなかった。
二人とも内容を頭に叩き込むとライターで燃やしてゴミ箱へ捨てる。
「定時報告は忘れるなよ」
「わかってる。6時間ごとに秘書へ連絡するさ」
そう言ってから二人は副会長室から出て行き、ラオキア信者が集まるビルへ向かうことにした。






