近いが、正解じゃないな
夜になって活動している蟻人族が減った。
数人程度であれば、隠密スキルを使いながら移動しても存在に気づかれることはない。
――短距離瞬間移動。
何度か繰り返して使い、正人はユーリが入った通路に到着した。
ゴツゴツとした整備されていない床だ。洞窟のような中を歩いて行く。
運び屋の姿はないが、一般兵が地面で横になっている姿がある。夜になって寝ているのだ。
数体殺したところで意味は無いため、正人は無視して進む。
すぐに分岐点が見えてきた。視線の先には三つの通路がある。ユーリが残したはずの目印を探していると、左側の壁に小さく矢印が彫り込まれていた。
手がかりを追って歩いて数時間が経過したが、運び屋の姿は見えない。
夜が明けそうな時間になってきて眠気も襲ってきている。一度戻るべきか正人は検討していると、通路の奥から明かりが見えた。
立ち止まって隠れるが、明かりは近づいてこない。また遠ざかることもないため、『聴覚強化』を使って声を拾おうとしたが、何も聞こえてこなかった。
ユーリは先にいるのは間違いない。
情報は全くないが正人は進むと決めて歩くと、視界が急に広がった。
通路の奥に大きな空間があったのだ。
眼下には石を削り出して作った都市がある。
「蟻人族が住んでいるのか……?」
「近いが、正解じゃないな」
声がしたので両手に持ったナイフを構えながら振り返ると、『透明化』を解除したユーリの姿が視界に入った。
「だから、心臓に悪いと言ったじゃないですか」
「悪いな」
まったく思っていないだろう言葉を口に出すと、ユーリは自信ありげに調べたことを話し出す。
「どうやらここは、巨大な食料庫になっているみたいだ。肉塊が山のように保管されていたぞ」
「蟻人族もいるんですよね?」
「マザーへ献上する大切な場所だからな。隊長やエリート級も見かけた。恐らく数千はいるだろう」
建物は食料を保管する以外にも、防衛する兵の駐屯所でもあった。
里香たちを連れてきても敵を制圧できる人数ではない。戦うよりも調査を優先するべきだろう。
「他に情報はあります?」
「今のところはないな。運び屋たちも休んでいるようだし、朝までは様子を見た方がいいだろう」
休まず探索を続けていたので二人の体力は限界に近い。眠気も増していて、レベルアップで強化された肉体でも限界が近づいている。休憩は必須であった。
「交代で見張りをしましょうか」
「そうするか」
マンションに戻ればゆっくり休めるが、食料庫の変化に気づけなくなる。
少なくとも昼間にどのような動きをするのかわかるまで、情報を集めるべきだと二人は判断したのだ。
「それじゃ先に俺が休むぞ?」
姿を消して運び屋を監視し続けていたユーリは疲れていたため、宣言すると返事を待たず横になった。
正人は食料庫の様子を見ているが動きはない。『索敵』スキルにも大きな反応はないため、次第に集中力が低下していき瞼が落ちて、短い間ではあるが何度か意識を失う。
完全に眠気に負けてしまいそうだったので、立ち上がって体を伸ばすが、あまり効果はなかった。
さらに柔軟体操を続けながら眠気に耐えていると、遠くから爆発音が聞こえた。『索敵』の範囲外から攻撃が行われており、正人の脳内レーダーマップだけでは、何が起こっているかわからない。
目をこらして見るが、煙が上がっていて遠くからでは視認できなかった。
「何が起こった?」
爆発音で目を覚ましたユーリが質問をした。
「スキルの範囲外なので襲撃しているのがモンスターなのか、それとも人間なのかすらわかりません」
話している間にも寝ていた蟻人族が続々と建物から出てきた。
数が多く下手に動けば、数に押されて負けてしまうだろう。正人たちは動けない。
「しばらくは様子を見ましょう」
「いや、その前にアイツらを追うのはどうだ?」
ユーリが指さした場所には肉塊を背負っている運び屋がいた。
爆発があった場所から逃げるようにして、一つの通路に向かっている。
「別の食料庫か、またはマザーへ持って行くかもしれませんね」
「戦いに巻き込まれるよりか付いていった方がマシじゃないか?」
「そうですが…………!?」
悩んでいる間にも戦況が変わっていく。
一般兵よりも倍以上の大きさがあり、剣と盾を持ち、黒く光沢する鎧を着ている蟻人族がやってきたのだ。
マザーにつながる門を守っているはずのロイヤルガード級が現れたのである。
目立つ存在でもあるため複数のファイヤーボールが殺到するが、剣を振るって弾き飛ばしてしまった。
さらに銃弾を叩き込まれるが、鎧が弾いてしまってダメージにならない。
近代兵器を使用していることに気づき、正人はようやく蟻人族と戦っているのが人類だとわかった。
『全軍突撃!』
ロイヤルガードは正人の所まで届くほどの大声を出すと、煙の中へ入ってしまった。他の蟻人族も後に続き、周辺には敵がいなくなる。
「ロイヤルガードが来た道をたどりましょう。そこにマザーがいるはずです」
「助けなくていいのか?」
「目的は人助けではないので……」
「俺も同じ意見だ。先行するから後を付いてきてくれ」
ユーリは『透明化』のスキルを発動させると食料庫の中へ入っていった。
眠気が吹き飛んだ正人は後を追いかけていく。
ロイヤルガードがやってきた通路に入ると、痕跡を確認しながら走り続けるのだった。






