仲間を守れ! 敵を殺せ!
丸一日休まず蟻人族の巣を歩き続けているが、マザーにつながる手がかりは見つからなかった。
ここ数時間は戦闘もなく、静かな時間が過ぎている。マザーを守るため周辺には大勢の蟻人族がいると思っていたため、ユーリは自分たちが探索している場所に疑問を持った。
「蟻人族の巣にマザーがいるんだよな?」
「レイアさんの話が正しければ間違いありません。オーストラリアにゲートを作ってから、マザーは動いていないはずです」
蟻人族を唯一生み出せる個体であるマザーは、大量に子供を産む都合上、よほどのことがなければ動かない。
既に閉じてしまったゲートから来たのであれば、オーストラリア大陸のどこかにいる、というのがレイアの予想である。
この考えは正しい。間違いなくいるのだが、誤算があるとしたらオーストラリアは日本の約20倍もあることだろう。
索敵範囲外広すぎて数時間歩くぐらいでは見つけられない。
手がかりが必要であった。
「あの運び屋を殺すべきじゃなかったか……」
長い探索になりそうだと、ユーリは深いため息を吐いた。
「もしかしたら他の国が見つけるかもしれません。思いのほか早いかもですよ」
日本は少数精鋭だが、数千規模の人員を投入している国もある。人材は十分にあるのだ。
マザーの他にも通路を守るロイヤルガードを発見次第、衛星通信を使って共有される予定で、正人はそういった展開を期待しているのである。
「そうなるといいな……と、蟻人族を発見したぞ」
「あれは一般兵ですね」
「俺がヤるから、正人は周囲の警戒を頼む」
「わかりました」
戦闘を任せると決めた正人は脳内のレーダーに変化がでないか集中することにした。その間にユーリは『透明化』のスキルを発動させて姿を消す。『索敵』スキルにすら反応が出ないため、足音を殺していれば蟻人族は気づけない。
ユーリは接近すると『短槍術』を発動させてから、一匹目の頭を貫き、続いて二匹目も殺す。声を上げる余裕はなく、蟻人族は倒れてしまった。
倒した後も油断はせず、追加が来ないか警戒を続ける。
遠くから足音が聞こえてきた。正人の索敵スキルにも反応があるため、間違いではない。
「見てくる」
声を出したユーリは先行して様子を見に行くと、数十体の蟻人族の姿が視界に入った。見える範囲に運び屋はいない。
急いでいるようで走っていた。
すぐに近づいてきそうなため、ユーリは急いで正人の元へ戻る。
「蟻人族の団体が来ている。急いでいるみたいだから後を追えば、何か見つかるんじゃないか?」
「それはありそうですね。ここから離れてから、隠れてみましょう」
少し戻った場所に分岐点がある。二人は後退して来た道に戻るとユーリは『透明化』で姿を、正人は『隠密』スキルで気配を消した。
身動きをせずにじっと待っていると、蟻人族がやってきた。種族が違うため細かな表情の違いはわからないが、焦っているようにも見える。
仲間の死体を見つけると立ち止まって、簡単な調査を始めると会話を始めた。
『ここにも侵入者がいたみたいだ!』
『仲間を守れ! 敵を殺せ!』
『集まれ!』
『俺たちの住処を守るんだ!』
『行くぞ!』
正人が保有しているスキル『多言語理解』が発動して会話の一部が聞こえてきたが、短い言葉で会話をしているので詳細がわかりにくい。
蟻人族は立ち上がると、正人とは別の通路の方を選んで走って行く。
「彼らの会話が一部聞こえました。どこかの国が頑張って暴れているみたいですよ」
「俺にはギィとしか聞こえなかったが、理解できたのはスキルなんだよな?」
「前に教えた他言語理解のおかげですね。で、追いかけます?」
「もちろん。上手くすりゃぁ新しい情報が手に入るぞ」
他国の探索者と合流すれば情報の共有ができるため、マザーがいる場所を絞り込めるかもしれない。あてもなく歩き続けるよりも、可能性は高まるだろう。ユーリは期待しながら後を追うために走り出した。
正人は脳内のレーダーマップを確認するが、現れているのは赤いマーカーのみだ。人間を表す青はでていない。まだ距離があるのだろうと思いながら、置いていかれないように走り出した。
通路を進んでいると分岐が増えてきたが、『索敵』スキルのおかげで見失うことはない。
ユーリの姿は見えないが、一緒にいるだろうと信じて進んでいると、蟻人族の数が増えてきた。その数は百を超える。さらにその数は止まることがない。
見つかれば激戦は必至だろう。
危機感を覚えながらも走っていると、急に赤いマーカーが止まった。
正人は進むスピードを落として様子を見る。
蟻人族の姿しか見えない。
戦闘音は聞こえているが、誰が戦っているか不明であった。
「ユーリさんいます?」
「ああ」
正人の隣にユーリの姿が現れた。『透明化』のスキルを解除したのだ。
「蟻人族は何と戦っているのかわかります?」
「索敵に青いマーカーはあるか?」
「いいえ」
首を横に振りながら、正人はこの事実に答えを出した。
「もしかして、モンスターが襲ってきている?」
「多分な。どちらにしろ手は出せねぇ。隠れて様子を見るぞ」
ユーリは再び透明化のスキルを使い、正人は近くに転がっている蟻人族の死体に隠れて『隠密』スキルを発動させた。
後続が来たとしても気づくことは難しいだろう。






