今の俺でも役に立てているのか
「あいつ、本当に変わったんだな」
手に入れた暗視スコープを見ながら、烈火は誠二と自らを比べていた。
正人に守られているばかりで何も出来ていない。スキルを覚えてモンスターと戦ったこともあるが、探索者になることなく今は普通に学生をしている。
有名な探索者として忙しくしている正人を助けられていないのだ。
罪悪感を覚えることもある。だがそれよりもさらに強く、劣等感が烈火の全身を襲っていた。
例えば同級生である冷夏やヒナタは、蟻人族の拠点を襲撃するという重要な仕事をしている。
帰ってこれるかわからないのに探索者としての義務を全うしている一方で、烈火は安全なマンションで過ごし、学業に励めている。
同じ場所で住んで年齢も同じなのに、大きな差ができてしまった。
探索者になりたいと言っていた自分は口だけなのか。そう責めたくなることもあるほどだ。
「烈火~。何考えているの?」
気安く声をかけていたのは兄の春だった。
正人達が蟻人族の拠点を襲撃する話を聞いてから深刻な顔をすることが増えていたので、何に悩んでるかは察しが付いている。
聞き出すきっかけができたと話しかけたのだった。
「俺はこのままでいいのかなーって……」
「どうしてそう思うの?」
「戦う力があるのに何もしてねーんだ。春の兄貴だって、そう思うだろ」
「うーん。どうだろう。僕は違うかな」
意外な回答をされて、烈火は視線を春に向けた。
「授業を受けているときモンスターの襲撃があったよね? その時、僕たちが対峙したの覚えている?」
「もちろんだ。ちょうど冷夏やヒナタがいないときだったから、学校に持ってきた武器で応戦したよな」
敵はモンスターとして最も多いゴブリンであった。スキルがあれば容易に倒せる相手であるため、救援が来る前に二人はものの数分で倒してしまったのだ。
「あの時思ったんだよ。僕たちがいるってだけで、みんなが安心できるってね」
「だから何もしてねぇわけじゃないってことか」
「うん。僕たちが休むと、出席率が下がるぐらいには頼りにされているよ」
スキルまで持っている学生は二人しかいないので、クラスのグループチャットで出欠の確認をされることが多い。
過去に高熱を出した春が欠席すると連絡をしたら、クラスメイトの半数弱が同時に休むほど影響力は大きかった。
町を巡回してモンスターから守る警察や探索者もいるが、やはりすぐ隣にいるクラスメイトとは安心感が違う。学校の安心と安全を守る役割として、神宮系の弟も活躍しているのである。
「今の俺でも役に立てているのか」
「うん。兄さんは人類全体を、僕らは見知った人たちを助ける役割。それでいいじゃないか」
役割の違いだけで、誰かの役に立てている。
そういった実感を持てて、世界を救うほどの活躍をする正人に引け目を感じていた烈火は、春の言葉で救われたような気持ちになった。
「春の兄貴サンキューな」
「いいって」
手を振ってから春は部屋へ戻っていった。
残った烈火は暗視スコープを持って正人へ渡す。
これでユーリと二人で蟻人族の巣へ再侵入する準備は整った。
◇ ◇ ◇
誠二が来訪した翌日、正人の部屋にユーリが来ていた。
装備を身につけていて、頭には暗視スコープがある。正人も探索の準備は終わっていた。見送りは不要と伝えているため、パーティメンバーはこの場にはいない。美都を抜いた全員が、トレーニングルームで訓練をしている。
「俺はいけるぞ。正人は?」
「同じく。転移のスキルを使いますね」
「おう」
正人はユーリの肩に手を置いた。魔力を行き渡せて、蟻人族の巣をイメージする。あやふやな記憶でもスキルの補助によって場所は指定できた。
――転移・改。
マンションから二人の姿が消えて、蟻人族の巣に現れた。
ここは正人が見つけた横穴の近くだ。
蟻人族が一体いて、正人の姿を見て驚き、持っていた肉塊を落とす。
「ギィ――」
叫び声を上げようとしたところで、ユーリの短槍が脳天を貫いた。
二人は周囲を警戒するが追加の蟻人族は来ない。警戒のラインを一つ落とす。
「すまんな。運び屋をヤっちまった」
「仕方がありません。それより暗視スコープの調子は良さそうですね」
「ああ。突然、敵が現れても対応出来るぐらいは視界が確保できている」
転移直後の接敵でもいつも通りに動けたため、ユーリは暗視スコープへの信頼感を高めていた。
「では行きましょうか。後方をお願いします」
「任せろ」
正人は『地図』『索敵』スキルを使って歩き出す。
その際、運び屋が落とした肉塊を見ると、人の毛が混ざっていた。わかってはいたが、犠牲者が今も出ているのである。
「気にすると集中力が乱れるぞ」
「わかってます」
今は敵の拠点の中にいるのだ。見ず知らずの他人が殺されたぐらいで心を乱されてしまえば、隙が生まれて敵につけ込まれてしまう。
例えこの場で人が殺されようとしていても、冷静に動ける必要がある。
正人は気持ちを切り替えて歩き出す。
脳内に浮かぶレーダーには何も浮かばないが、警戒を緩めず進んでいると撤退した場所までたどり着いた。
横穴は残っているが蟻人族の姿はない。また戻ってくるとは思わず、警備は残していなかったのだ。
「どの道を選ぶ?」
「まっすぐ進みましょう」
「理由は?」
「ありません。勘ですよ」
「頼りがいがありそうだ」
男同士の気楽なやりとりをすると、二人は再び歩き出した。






