他国視点:運び屋ごと殺す
正人がオーストラリア大陸に着地した前日、他国も海上での襲撃をしのいで上陸していた。
海岸での襲撃は想定を上回る攻撃力だったが、同船していた探索者の『拡大障壁』によって守られていたため、一隻沈没するだけで済んだ。また反撃にレールガンを撃って地上の拠点を破壊したのも、上陸成功に大きく貢献していた。
上陸した人数は戦闘要員だけで100人を超える。補給用のメンバーも含めたら倍以上になるだろう。
地上に人類の拠点を構築すると、その後に精鋭の数名だけが衛星写真で事前に確認していた蟻人族の巣へ入った。
装備はマシンガンと予備弾、タクティカルベストやヘルメットだ。ダンジョン産の防具に比べて貧弱ではあるが、その代わりに軽量化されていて動きやすい。また急所の部分はアダマンタイトの合金を使っているので、致命傷は負いにくいだろう。
蟻人族の巣を進んでいる全員は『暗視』スキル持ちだ。ほんのりと光るライトだけで奥へ進んでいる。
「運び屋ってヤツを見つけて後をつければいいんだろ。簡単なミッションだな」
先頭を歩いている男が場を和ませるために言った。
本人含めて誰もが無事で終わる仕事ではないと思っている。ベテラン探索者でも緊張が隠せていないのだ。
「その後にロイヤルガードとマザーをぶち殺せば終了だ。ゴブリンを狩るよりも楽な上に、莫大な報酬と名誉が手に入る。断ったヤツらは失敗したな」
隊長が続けて気軽に言うと、小さな声で全員が笑った。
チームの緊張感がほどよく抜けている。急な戦闘になっても頭が真っ白になることなく、臨機応変に行動できるだろう。
音を立てずに進んでいた精鋭チームだったが、先頭の男が手を挙げると止まった。さらに後方へ向けて蟻人族の一般兵を発見したとハンドサインで送る。数秒後に隊長は殺害の許可を出した。
敵の距離は近く単体であるため、先頭の男はハンドガンを抜いてトリガーを引く。
三発の弾丸が頭部に当たると貫き、蟻人族は倒れた。サイレンサーをつけているため音は響いていない。
精鋭チームは増援が来ないか確認を行い安全を確認すると死体に集まる。
「銃を持っているな。地上で奪ってきたんだろう」
先ほど倒した蟻人族は、アサルトライフル型の銃を持っていたのだ。地上で人間を襲って奪い、使い方を学んでいる。弾薬を作る知識はないが、略奪しているので背負っているリュックに弾丸が入っていた。
都心に近い地域の蟻人族だったため、正人が遭遇した個体よりも装備は充実していたのである。
「他の近代兵器を使うかもしれない。足元にも気をつけろよ」
今までは蟻人族が罠を使った報告はないが、巣に設置されていても不思議ではない。
精鋭チームの隊長は地雷を警戒しているのだ。
気を引き締め直して移動を再開すると、何度か餌を運んできた一般兵と遭遇し、その度に音を立てずに殺してきた。移動は順調だ。『地図』スキルを覚えている仲間もいるため、道に迷う心配もないが、言ってみればそれだけだった。
運び屋には遭遇できず、またロイヤルガードが滞在している部屋も見つからない。
帰還予定の時間になってしまったが、隊長はチームに余裕を感じていた。しかし計画の遅滞は危険を伴う。
もう少し奥へ行くべきか隊長が悩んでいると、ついに運び屋の姿を見つけた。
武器は持たずに豚を担いでいる。
一般兵よりも一回り小さいので、見間違いではない。
「どうする?」
先頭を歩いていた男が隊長に聞いた。
後をつければロイヤルガードの部屋がわかるかもしれないが、侵入した場所から離れているようであれば、食料が持たない。また巣の中で泊まる危険も覚悟する必要が出てくるため、隊長は数秒悩んだが先に進む決断をした。
「一日も早くマザーを殺さなければ、人類に未来はない。行くぞ」
蟻人族を何度殺しても数は減らない。
むしろ増えている。
この圧倒的な個体数の背景には、大量に子供を産み出すマザーの存在がある。一日も早くマザーを討つ必要があった。
そういった焦りが精鋭チームの隊長を前に進めると決めさせたのである。
距離を取って運び屋の後をつけていく。分岐の多い道ではあるが、運び屋は迷うことがない。人間には分からない匂いでマーキングをしているため、目をつぶっていてもマザーにつながる道は分かるのだ。
30分も追跡していると、運び屋は一般兵とすれ違った。3人だ。精鋭チームの方へ向かっている。運悪く一本道で逃げ場がないため遭遇は避けられない。
「どうする?」
「運び屋ごと殺す。その後は撤退だ」
「了解」
隊員が持つ『地図』スキルによってマップは大きく埋まったので、次に繋がる。
帰還の予定が大幅に遅れていることもあって、精鋭チームの隊長は限界だと決断したのだ。
全員が同時にサイレンサーつきのマシンガンを放ち、蟻人族を蜂の巣にした。
死体は回収しない。
身軽なまま撤退を始めたが、硝煙の匂いに気づいた付近の蟻人族が近づいてきた。
「走れ!」
最後尾を担当している隊員がマシンガンを撃ち、蟻人族の足を止めながら走っている。
全員がレベル3にまで到達して肉体的に強化されていることもあり、長距離でも走り続けられているが、蟻人族も体力に特化した種族だ。追いかけっこは得意分野である。
精鋭チームは侵入した入り口まで逃げてきたが、大量の蟻人族を連れてくることになってしまった。
このままでは拠点を襲撃されてしまうが、蟻人族が地上に出ようとするのは予想済みだ。
精鋭チームは脱出すると、予め通路に取り付けていた爆弾が爆発した。落盤が発生して数キロにわたって通路が埋まってしまう。追いかけていた蟻人族は全滅してしまった。
「ふぅ~。助かったぜ」
「油断するな。修復に蟻人族がくるかもしれん。拠点に戻るまで警戒を続けるぞ」
緊張から解放されて座り込んだ隊員の頭を叩いた精鋭チームの隊長は、周囲に敵の影がないと確認してから歩き出した。
拠点に戻った後は交代制で24時間の厳戒態勢に入る。
もし蟻人族の再襲撃がなければ、別の穴を見つけて調査を継続し、ロイヤルガードへつながる道を探す予定だ。






