最低ですね。軽蔑します
豪毅からの指示を受けた添乗員は、何もなかったかのように定位置へ戻った。
ユーリからの鋭い視線を受けているが、涼しい顔をして受け流す。
彼女からすれば日本のためにやっていることだと思っているので、悪意をぶつけられたぐらいでは怯まないのだ。
タイミング良くパイロットから無線で連絡があったので、正人たちに業務連絡をする。
「目的地の半分まで来ました。昼食を用意しているのでお持ちします」
人数分の昼食を用意するため、添乗員はコックピットの方へ行ってしまった。
ユーリは後ろ姿を見送ると正人に話しかける。
「お前はあの女は、誰とつながっていると思うか?」
「少なくとも豪毅さんとはつながっていると思っています。洗脳はされてないようですし、ラオキア教団との関係は……流石にないでしょう」
「同意見だ」
そこからは言葉にしなかったが、二人はスキルカードコピーの能力について、探索協会へ伝わったと確信している。
蟻人族との戦いの最中に、スキル保有者を獲得をするため裏で動くはずだ。
「それでもユーリさんは日本に戻るんですか?」
「コピースキルがあるなら話は変わってくる。一度、海外へ撤退した方がいいかもしれない。美都もそう思うだろ?」
「そうねぇ……ラオキア教団の件が落ち着くまでは、流石に私も海外に避難しましょうか」
日本に戻ったら間違いなく美都の捕獲が本格的に動き出す。法律なんて関係なく、正人のマンションに踏み込むこともしてくるだろう。それほど『スキルカードコピー』と『強奪』スキルとの組み合わせは協力なのだ。
そのような予想ができたため、ユーリはともかく正人たちを巻き込むのは悪いと思った美都も、海外への逃亡を賛成したのである。
「それじゃ私も日本へ戻れませんね」
任務完了後に失踪すると宣言しているようなものだ。今の立場を捨てる行為にユーリは疑問を持つ。正人はともかく、他の仲間が納得すると思えなかったからだ。
「お前たちは無関係だろ? いいのか?」
ユーリはそう言うと里香と冷夏、ヒナタを見た。
彼女たちは探索者として活動している傍ら、高校生として学業にも勤しんでいる。
人間関係が完全に切れるどころか、駆け落ちなんて変な噂まで流れてしまうかもしれない。
プライベートのダメージが大きいからこそ確認されたのだ。
「ワタシは学校へ行っていませんし、家族も居ません。正人さんが行くならどこまでもついて行きます」
即答したのは里香であった。
救い主である正人を置いて自分だけ幸せになってよいとは思っていない。その先が地獄だとしても、答えは変わらないだろう。
「烈火君、春君はどうなるんですか?」
学校でも一緒になっている二人が気になったのは冷夏だ。
兄が突然消えたら生活面はともかく精神面では困るだろう。
「危ないから連れて行くよ」
弟を残せば人質として脅されるかもしれないのだ。
本当は学業に専念してもらいたいのだが、状況がそれを許してくれない。諦めるしかないだろう。
「一緒に行動するんですね。安心しました」
家族が蒸発するというのは、残された者にとって辛いことだ。
そうならないと分かっただけでも冷夏は安心した。
「でしたら、私もついていきますよ。学校には未練ありません」
「ヒナタもーー!」
「そう言うと思った。みんなと一緒がいいんでしょ?」
「うん!」
冷夏の突っ込みに全員が笑った。
何もかも全てを他人の判断に委ねるわけじゃないが、姉や友人と一緒にいたい気持ちが強いため、ヒナタはついていくと決めたのだ。
「二人はどうします?」
正人は黙って聞いていたレイアとサラに聞いた。
目立つ風貌をしており立場は不安定なため、残ると判断してもおかしくはないからだ。もし探索協会の元に行くと言えば行き先については秘密にしなければいけない。蟻人族の拠点襲撃が終わればお別れになる。
「皆さんにはお世話になったので正直にお話しします。できればサラには不自由な生活をして欲しくありませんので、すごく悩んでいます」
他国に行ったとして異世界人が受け入れられるとは限らない。嫌な話ではあるが、肌の色、人種で差別する人間がいるのだから、人間扱いされないパターンも考えなければならないのだ。
特に故郷では人間に絶滅寸前まで追い詰められたこともあるため、どうしても慎重になってしまうのである。
「探索協会を甘く見ない方がいい。アイツらはスキルの効果を確かめるために人体実験までする組織だぞ」
「そんなこともしているんですか!?」
驚きの声を上げたのは里香だ。探索者を使い捨てるような任務やダンジョン内の暗殺までは聞いたことあったが、まさかスキルの実験をしていたとは思わなかった。
「お前たちも経験はあると思うが、スキルを覚えたときに脳内で流れる説明は中途半端だ。リスクや別の使い方は教えてくれない。だから実験を選んだんだよ」
ユーリの言葉を聞いて、里香は探索協会からスキルカードを選ばせてもらったとき、説明が詳細に書いてあったことを思い出す。
あれは数々の犠牲の上に成り立った情報だったのだ。
「最低ですね。軽蔑します」
痛烈な言葉を放ったのは冷夏だ。ヒナタの手を握って怒りを抑えている。
叔母に搾取されてきた経験があるため、他人をオモチャのように扱う組織、そして豪毅へ強い嫌悪感が出たのだ。
これはヒナタも同じである。親しみやすいお爺ちゃんだと思っていたら、大悪党であった。常に明るい彼女でもさすがにショックを受けて表情が暗くなっている。
「鬼人族なんて研究対象としては最上だ。遺伝子検査から始まって、人間とのハーフを作る実験をするかもな」
「そんなことされるなら、死を選びます」
「サラは自由にするという条件を出されてもか?」
「それは……」
ユーリはレイアが自己犠牲の傾向が強いと知っているため、あえてサラを自由にすることを条件に実験台になるかどうかという、現実的な問いを投げかけたのだ。






