他国視点:冷却期間中です!
イグ=ヴァイアスに襲われた後の正人たちは順調であった。
代わりの護衛機がくると、速度を上げてオーストラリア大陸へ向かう。空路を選んだのは正解だった。出会うモンスターは少なく、いたとしても正人が転移系スキルで出動すると、即座に倒してしまう。
海中であれば呼吸の問題が解決できず、このような戦い方はできなかっただろう。
一方、船でオーストラリアへ向かう国もあった。
長期にわたる任務のため補給物資を大量に運ぶ必要があって、海上を選んだのだ。
正人たちよりも数日早く出発しており、現在は太平洋を進んでいる。
天気は良好で昼間なので視界に問題はない。
こちらも護衛艦を用意しており、レーダーによってモンスターの接近に気づき進路を変えて進んでいるが、すべてを回避できるわけではない。
特に蟻人族は人類を混乱させるために、異世界からモンスターを召喚して放った経緯もある。
海上にもイグ=ヴァイアスのような強力な個体もいるのだ。
◇ ◇ ◇
今まさに海上で戦っているのは、大きな亀のモンスターである。甲羅にはファイヤーボールを発射する砲台があり、数キロメートル先から砲撃している。護衛艦も反撃しているが、『障壁』スキルに阻まれて致命傷は与えられていない。
「魚雷を放てっ!」
艦長の命令によって数十に及ぶ魚雷が発射された。
水中を進み数発が『障壁』に衝突すると破壊、残りが甲羅に当たる。破片が吹き飛び、海上からでもダメージを与えたのがわかった。
「本体に命中! 敵モンスターの甲羅は半壊しております!」
歓声が上がったが、すぐに止まる。
『自己回復』スキルによって修復が始まったのだ。また破壊した『障壁』も発生していて生半可な攻撃では倒せない。
魚雷では火力不足なのは明白だ。
最大の火力を当てるべきである。
「レールガンの使用を許可する」
モンスターが地上に出る直前で実用化された武器だ。威力は申し分ないが、即座に発射できないデメリットがある。発射までに時間を要するのだ。
「充電率十……二十……四十……」
護衛艦に魚人のモンスターが乗り込んできた。甲板には探索者が出て撃退をしているが、敵の数があまりにも多い。倒しても次々と護衛艦に乗り込んできて何人も殺されている。
また船底には一本角のアザラシが突撃しており、数隻の護衛艦が沈没させられた。
海に投げ出された船員は、魚人や角アザラシに捕食されている。上陸部隊が乗っている大型船は無事であるが、足止めされたままでは沈没も時間の問題である。
「充電はまだか?」
「現在九十%です! あと数秒で発射できます!」
普段なら即座に過ぎ去る時間ではあるが、今は一秒が長い。
艦長は部下に必要以上な焦りを与えないよう、内心を押し殺して腕を組んで黙って待つ。
大きい亀が口を大きく開いた。
喉の奥から光が見える。ブレスを吐く予兆だ。当たれば護衛艦どころか、上陸する予定の探索者が乗っている大型船も撃沈されかねない。
「狙いを亀の喉へ変更! ぶちかませ!」
「充電率百%! 狙いを大亀の喉へ変更、発射します!」
砲台を微調整してからレールガンが発射された。電磁力で加速された大きな金属が真っ直ぐに進み、大亀のブレスを斬り裂いて喉に突き刺さった。
大亀は攻撃するために『障壁』を解除していたので無防備だ。体内をズタズタに斬り裂いて、金属の弾丸は背中から飛び出ていった。
「グォォォォオオオッン!」
顔を上げて痛みに悶えている。全身を海面に叩きつけて暴れており、大波が何度も船に押し寄せてくる。
狙いが定まらないので追撃は難しい。海に投げ出された人間は波に飲み込まれて沈んでいく。海中に集まっている角アザラシに食べられてしまい、生存は難しいだろう。
「レールガンの充電状況はどうなっている?」
「冷却期間中です! 再充電開始にあと三分!」
「もう一発は難しいか」
砲台を冷やさなければ二発目を放った瞬間に崩壊してしまう。
残っている魚雷を発射してはいるが、暴れる大亀を倒すまでには至らない。
被害を最小に留めるため、他に手がないか考える艦長の耳に朗報が入る。
「探索者の一人が大亀に乗り移りました!」
「なに!?」
館内に映っている映像を拡大すると、黒髪を束ねた男が光る腕を振り上げているところだった。ユニークスキル『光槍一線』だ。衝突と同時に槍のような光線を出し、直線上にいる敵を消滅させるほどの力がある。
蟻人族の拠点襲撃のために大船で待機していたが、危機的な状況を黙って見ているわけにはいかず、飛翔系のスキルを持つ仲間に運んでもらったのだ。
大亀は危険を察して甲羅に逃げ込もうとしていたが、レールガンによって半壊しているため頭は見えてしまっている。
「俺様のスキルからは逃げられねーぞ!」
叫びながら拳を振り下ろすと、光の槍が大亀の頭部を貫いた。即死である。舌をだらりと伸ばして全身から力が抜け、波も穏やかになる。
しばらくして黒い煙が出てきた。
「うぉーい! 助けてくれ!!」
大亀を光槍一線で倒した男が手を振っていると、円盤に乗った女性の探索者が現れた。彼女が大亀まで運んだのだ。
「捕まって!」
「助かる!」
円盤は小さいため一緒に乗ることはできないが、捕まることぐらいはできた。
逃げていく途中で足場にしていた大亀は霧に包まれて消えてしまう。残っていたら海に投げ出されて、魚人や一本角アザラシに襲われていたはずだ。
「危なかったな」
「蟻人族と戦う前に死なないでね」
「むろんだ。任せろって」
「信じられないわねぇ……」
無鉄砲な男だと分かっていて、女性の探索者は呆れた声を出した。
モンスターが襲ってきたらまた戦いに出るだろうという嫌な信頼感だけはある。その時は助けてあげないと。
そんなことを考えていた。






