でも、楽しかったよねー!
――ファイヤーボール。
正人が選んだのは初期に覚えたスキルであった。複数の火球が触手に接触すると爆発し、その衝撃で触手同士がぶつかり合う。
数秒だが余裕ができた。
半分ほど溶けている頭蓋骨に手をつけてスキルを使用。『毒霧』を発生させる。
「おおおぉぉぉぉっっっっ」
急所を突いたため、イグ=ヴァイアスは大きな叫び声を上げた。
衝撃波を伴っており、近くにいる飛行機は上下に激しく揺れる。里香たちがシートベルトをしていなければ、頭を打って怪我をしていたことだろう。
酸性の霧によって頭蓋骨に大穴が空いている。正人はそこへ『ファイヤーボール』を放つと頭部が爆発した。
「うぁぁっ!!」
火傷を負いながら正人は落下してしまう。回転しているため視界が定まらない。天使の羽によって皮膚は回復していくが、途中で触手に当たってしまい背骨まで痛めてしまった。『苦痛耐性』スキルが発動して意識は保てているが、スキルの維持は難しい。
正人はクルクルと体を回転させながら、イグ=ヴァイアスと落下していく。
海面に叩きつけられたらレベルで強化された肉体とはいえ、体はバラバラになってしまうだろう。視界が定まらず『短距離瞬間移動』は使えない。転移先をイメージする余裕もないため、正人は全力で『障壁』のスキルを使って魔力を込めていく。
触手に巻き込まれながら海面に衝突した。
激しい水しぶきを立てて水中へ入っていく。正人は『障壁』によって守られていたため無事だ。
深く沈んでしまったため、海面は見えず上下がわからない状況だ。どこに進めばいいかわからない正人だったが、黒い霧に包まれて消えながら沈んでいくイグ=ヴァイアスの姿が見えた。
魔石やスキルカードが残っている可能性もあるが、酸素が足りないため探している余裕なんてなかった。
方向がわかった正人は上に向かって泳いで、海面に顔を出す。
「ぷはぁ~」
新鮮な空気を吸って一息ついた正人が上を見ると、乗っていた飛行機の姿が見えた。
小さくなっているが、まだ間に合う。
――短距離瞬間移動。
スキルを何度も使い飛行機に近づくと、窓から内部を見て最後に『転移』して到着する。
「びしょ濡れですけど怪我はありませんか!?」
駆けつけた里香がハンカチで正人の顔を拭く。
回復系のスキルを覚えているので、生きていれば怪我なんて治ってしまうが、心配してしまう気持ちはどうしても残るのだ。
「ちょっと無茶したけど、元気だよ。それよりも飛行機にダメージはない?」
「ジェットコースターみたいな乗り心地でしたけど、機体は無事のようです」
触手を避けるために無茶な操作をしていたため、慣れていないサラやレイアは気分が悪く吐きそうになるほどであった。美都も具合が悪く、ユーリの膝を枕にして横になっている。
「でも、楽しかったよねー!」
乗っている全員が墜落するか緊張していた中、ヒナタだけはアトラクションに乗っているようなはしゃぎようであった。恐怖を感じるスイッチが壊れている。誰もが感じた瞬間だ。
特に少女のサラは信じられないといった視線を向けていた。
異世界人にもヒナタのパワーは驚異的であったようだ。
「楽しくないから。ヒナタは感覚がおかしいんじゃない?」
「お姉ちゃんがビビりなだけだよ。ねー、里香ちゃん」
「え、うん。どーだろう。ヒナタちゃんが変わっているのは確かだし……正人さんどう思います?」
「正人さんは、そんなこと思ってないよね!?」
大型のモンスターであるイグ=ヴァイアスを倒したばかりなのに、また難題を突きつけられている。
心情としては里香や冷夏寄りではあるが、キラキラと純粋な目でヒナタから見られて言葉に詰まる。
傷つけたくはないけど、嘘をつくのも違う。
誠実に対応してあげたい。
正人は悩みに悩んでいると、申し訳なさそうな声で添乗員が話しかけてきた。
「お取り込み中の所申し訳ないんですが、パイロットが話したいと連絡がありまして……」
「すぐに行きます!」
ずぶ濡れのままではあるが、正人は立ち上がるとコックピットへ入り、機長が歓迎してくれる。
「触手のモンスターに襲われたときは死を覚悟しました。噂以上の強さですね」
隣にいる副機長も首を何度も縦に振って肯定している。
全速力でも逃げ出せる相手ではなかったので、正人が倒してなければ墜落していただろう。
「一応は、国に選ばれていますからね。それで話とは?」
「護衛の戦闘機が帰還するとのことです。交替が来るまで速度を落として進みますがよろしいですか」
「予定より、どのぐらい遅れますか?」
「恐らく3時間ほどかと。オーストラリアに到着するのは夕方ぐらいになりそうです。最悪は深夜ですが問題ないでしょうか」
この計算は襲撃されない前提の話だ。イグ=ヴァイアスほどではないが、空を飛ぶモンスターは他にもいるので、もっと遅れる可能性はあるだろう。最悪、回避運動のために余計に燃料を使い続ければ、目的地へ到着する前に引き返さなければならない。
運の要素も強いため、正人は悩んでも仕方がないと割り切る。
モンスターの動きなど誰も予測できないので、臨機応変に対応するしかないのだ。
「いつでもかまいません。その時に応じて我々のほうで対策を練ります。お二人は無事に目的地へ到着することだけを考えてください」
「お任せください」
正人は、互いに専門領域を信じて任せることで、プロとしての責任を全うしてくれるはずだと信頼していた。






