ご武運を
今後のことを考えていると周囲が騒がしくなった。
窓に視線を向けると護衛の戦闘機がいなくなっている。
監視役も務めている添乗員は顔面蒼白になっており、外で予想外の事態が発生してるとわかった。
「何かに襲われているんですか?」
「わかりませんが、そらを飛ぶモンスターが火を噴いているみたいで……助けてください!」
耳につけている無線機から情報を得た添乗員は、質問をした里香へすがりついた。
探索協会側の人間が都合のいいときだけ守って欲しいと言ってくる。見捨てようかという感情すらわき上がってくるが、そう簡単には斬り捨てられない。冷酷な人間にはなれないのだ。
「状況が知りたいので、詳細をワタシたちに教えてください」
自信があるような声を聞いて冷静を取り戻した添乗員は、無線でパイロットに最新の状況を確認していく。
その間に何度か飛行機が揺れて、立っていたヒナタは転がってしまうが、ユーリが腕を掴んで助けた。美都は冷たい目で二人を見ている。
「この場合は助けるだろ?」
「ふん」
ユーリの言葉が正論だったこともあって、美都は何も言わずに視線を外した。
「目が飛び出した空を飛ぶタコ……ですか? はい、わかりました」
通話を終えると添乗員は正人達に話しかける。
「触手の塊が戦闘機を絡め取ろうとしたらしいです。パイロットから、モンスターの姿はタコとの報告がありました」
「レイラさん、正体を知っていますか?」
モンスターはダンジョンを経由して異世界からやってきた。
住民であった鬼人族の方が地球人よりも詳しいと思い、正人は聞いたのである。
「イグ=ヴァイアスですね。空の捕食者と呼ばれていて、カタツムリみたいに目が飛び出しています。再生能力のある触手でワイバーンすら捕食する恐ろしいモンスターです」
「弱点はありますか?」
「目の間に脳があるのでそこを攻撃すれば倒せますが、触手が邪魔をして辿り着けないことの方が多いです。通常は飽和攻撃を仕掛けて倒しますが……」
強力なモンスターは再生能力を持つことが多く、イグ=ヴァイアスも例に漏れない。しかも高速再生するため、ミサイルで破壊しても数秒後には元に戻っている。
レイアが言っていたとおり絶え間なく攻撃を続け、再生する魔力を削ってから倒すのが王道であるが、今回は少数で行動している定番の飽和攻撃は不可能だ。
「飽和攻撃ですか、戦闘機が一斉に攻撃すればいける?」
「もう、やったそうです……」
顔色が悪いままの添乗員は、無線機経由で戦闘状況を確認していた。
戦闘機は落とされてないがミサイルは全て打ち終わってしまっている。触手の半分ほど破壊できたが、正人たちが話している間に再生されている。
今は機首に備えている機関銃で、迫ってくる触手を破壊するぐらいしかできていない。
「囮になるから今のうちに逃げてくれと言っています」
探索協会は気に入らないが、現場で命を貼っている人たちは関係ない。正人は即座に助けると判断した。
「私が戦うので高度を落とせますか?」
海上からの攻撃を警戒して、高い場所にいるため酸素濃度や気温が低い。外へ飛び出したところで戦う前に倒れてしまうだろう。動く前に環境を整える必要があった。
「聞いてみます!」
この場で最も頼りになる男の依頼は断れない。添乗員はコクピットに入ってパイロットへ伝えることにした。
待っている間にユーリが正人へ話しかける。
「飛翔系のスキルを持っているのか?」
「なくはないですが、飛行機の速度には追いつけませんし、高くは飛べません」
「どうするつもりだ? 危険なら逃げるべきだと思うぞ」
「転移系のスキルで移動するから大丈夫ですよ」
声、表情から無理をしていないか、ユーリは正人の内心を読み取ろうとしている。
しばらくして、またお人好しが出ているとわかって小さなため息をはく。
「甘いのは悪くねぇが、相応の実力がなければ周りを巻き込んで自滅するだけだ。正人は分かっているよな?」
「誰にも迷惑かけません。必ず勝てますよ」
「添乗員の女は戦闘を見ないよう俺が注意を引いておく。スキル隠蔽なんて考えず全力で戦え。死ぬなよ」
正人の胸を軽く叩いたユーリは、信じ切った目をしていた。
美都を連れて座席に座ると、シートベルトをして作戦実行に備えている。
離れて見ていた里香、冷夏、ヒナタが集まってきた。
「ワタシたちも協力したいです」
「役に立って見せます!」
「ヒナタもー!」
断られると分かっていても参戦すると言っている。
上空で戦う手段を持っていない三人を巻き込むわけにはいかない。正人は首を横に振った。
「気持ちは嬉しいけど、席に座って待っててくれるかな」
「でも!」
「私を信じて」
そこまで言われてしまったら、里香は食い下がれず、口を閉じて諦める。隣にいる冷夏も同様で、ヒナタを連れて座席に腰を下ろした。
「ご武運を」
座っているレイアに言われた。隣でサラが笑顔で手を振っている。
これから戦う相手に負けるとは、微塵も思っていないようだ。信頼されていることが嬉しい。正人は軽く会釈をしてから、コックピットの中に入った。
「高度を落としている途中なんですが、モンスターは逃がすつもりはないようですね」
添乗員から話を聞いていたパイロットは、言われたとおりに飛行機の高度を落としている。眼下には海が見えるほどで、低空飛行をしているのだ。
「戦闘機はどうなりました?」
「全機無事です。今は警戒するだけに留めています」
誰も死んでないと知って、正人はほっと胸をなで下ろした。
いつどこで死ぬかわからない世界になったからこそ、救える命は救いたい。
正人にとって譲れない考えであった。






