元々、期待なんてしてねぇ
記者会見当日は、正人、里香、冷夏、ヒナタといった固定メンバーの他、ユーリ、美都、レイア、リサまでも参加した。
探索協会の豪毅はユーリの姿を見ると苦々しい顔をしたが、文句などは言わない。司会としての役目を果たし、蟻人族拠点襲撃計画を説明してから、集まってきた記者の質問をさばいていく。
集中的に聞かれたのは計画の詳細ではなく、鬼人族である二人に関連する話題だった。
人類に協力する理由から神津島襲撃事件に関する謝罪要求、プライベートの情報など多岐にわたる質問や要望が殺到した。
戸惑うサラの代わりにレイアが丁寧に話していくと、美貌に惑わされた一部の男性記者は籠絡される。最後は好意的な意見まで言う始末であった。
思っていたよりも日本の記者会見は穏やかに進んで、最後まで大きな波乱はなかった。
無事に収録を終えると、正人たちは装備を調える。
探索協会の力を借りて現状では最高のものを用意してもらった。
全員が耐久性の高いアダマンタイトとスキルの威力が上がるミスリル銀の合金を使った武器だ。防具は軽量で静音性が高く、丈夫で衝撃を吸収する水生ドラゴンの皮を使っている。
全員に支給されたリュックにはロープ、ピッケル、魔石ランタンなど探索で必要な物がそろっている。どれも高級品で簡単には壊れないだろう。
準備は整った。
記者会見の翌日になると飛行機に乗ってオーストラリアへ向かって旅立つ。約8時間ほどの移動だ。飛行型のモンスターに出会う可能性もあって、護衛の戦闘機もいる。衛星通信によってインターネット接続は可能だ。
席に座りながら正人はスマホを使って二人の弟とチャットをしていると、気になる連絡が入った。
『記者会見の動画が流れている』
『どうやら、早めに出した会社があったみたいだね』
烈火と春の二人に言われてチャットを中断した正人は、動画配信アプリを立ち上げる。
ホーム画面に記者会見のサムネイルが表示されていた。
事前の打ち合わせではオーストラリアへ上陸した後に公開されるはずだったのだが、目の前の利益に目がくらんで足並みを揃えなかった企業があったのだ。
出発までの時間がなかったので、正人達は編集後のデータを見ていない。
気になってサムネイルをタップする。
「本日お集まりいただきありがとうございます。現在、世界各地を荒らしている蟻人族への対応について――」
豪毅の顔が映っていて記者会見を開いた目的を説明している。
特に問題はなさそうだ。動画は順調に流れているので、正人はコメントを確認していく。
気になることが一つでてきた。
恩赦について指摘する内容がまったくないのだ。その代わりに鬼人族のレイアやサラの紹介が始まって、美貌を褒めるコメントが増えていく。
たまに人を殺した罪を償えと書き込んでいるアカウントもあるが少数で、彼女たちは誰も殺してないと反論されて終わっている。
「ユーリさんと美都さんの話がカットされている……」
気づいたとき、動画は全て終わっていた。
記者会見に出てはいたが、恩赦について説明が成されていない。現場ではあったのに、編集によって削除されてしまったのである。
国民は恩赦の存在を知らないままなので、約束を破られても日本中に訴えるのは難しい。
してやられた。
正人は編集前の動画が残っていないかパーティメンバーに確認するが、誰も持っていなかった。
油断したのは間違いないが、誰が決戦前にこのような汚い手を使うと思うだろうか。落ち度と言うには、少しばかり酷である。
スマホを取り出して豪毅へ連絡をすると、すぐにつながった。正人はスピーカーモードにして、全員が聞こえるようにすると話しかける。
「記者会見の動画を見ました。なぜ、恩赦の話をカットしたんですか?」
「申し訳ない。手違いだ。約束を破るつもりはない」
弁明をせずに謝罪されて、正人は出鼻を挫かれた。
「既に破っている人の話なんて信じられません」
「では、蟻人族の拠点襲撃を中止するか? 間違った編集動画を流してしまった責任はワシにある。許可するぞ」
さらに、とんでもない提案までされてしまった。
一人で判断するには重すぎる。正人はユーリを見た。
「元々、期待なんてしてねぇ。好きにしな」
「私もよ~」
最善を尽くした上で裏切られてしまったのであれば、もう諦めて別の方法を探すしかない。この程度でユーリは絶望なんてせず、蟻人族との戦いが終わった後、どうやって逃げるか計画を立てていた。
「放置してたら日本も危ないんです。ワタシは参加に一票です」
「私もですね。ヒナタは?」
「お姉ちゃんと同じ~!」
決して裏切りを許したわけではないが、里香、冷夏、ヒナタは同級生や烈火、春の顔が思い浮かび、大切な者を守るために参加を希望している。
「私とサラは正人さんに従います」
多数決で言えば賛成三票、棄権四票で、反対意見はなかったため予定通りオーストラリアに上陸して蟻人族と戦うことになるだろう。
「結論は出たかね?」
スマホから豪毅の声がした。
編集内容に重大な問題があったため、信頼は完全に損なわれている。蟻人族の拠点襲撃は継続していいが、同じことが繰り返されないよう何らかの条件は必要だろう。
「計画を続けるには条件があります。編集前の動画を改めて流してください」
約束を守るつもりがあれば受け入れるはずだ。
どのような回答をするのか、この場にいる全員が注目していた。






