私は人類を信じます
「やっぱり、サラもそう思うよね」
正人が覚えているスキルを知らずとも、鬼人族から神津島を解放した実力を知るレイアも同じ意見であった。
また蟻人族の拠点襲撃に参加せず日本に残ったところで、隠れてやれることはトレーニングぐらいである。人生を謳歌しているとは言いがたいだろう。
生き残ってしまったのであれば、死んでしまった同族の分まで限りある生を駆け抜けたい。
二人の共通する思いであり、自由を手に入れる対価として蟻人族の拠点に乗り込むのは悪くない賭けであった。
「正人さん、私たちは蟻人族の討伐に参加します」
「同郷との戦いになるけど、本当にいいの?」
「同じ異世界出身とはいっても鬼人族とは関係の薄い種族ですし、なにより助けてもらった恩がありますから」
『異世界接続』スキルの影響で死ぬ運命だったレイアが生きているのは、正人がいたからだ。『復元』と『魔力譲渡』のスキルがなければ、寿命ごと吸い取られて死亡していたはずだ。
敵だというのに大した対価を求めず、保護までするお人好しが正人である。
殺伐とした異世界で生きていた二人にとって、それは何よりも尊い精神だと感じていた。
「サラも同じ意見?」
「そうだけど、もし私が邪魔だったら残るよ」
成人した鬼人族のレイアとは違って、サラは成長途中だ。筋力は平均的な成人男性ぐらいしかない。また次期巫女として大切に育てられていたため、戦闘経験は少ないのだ。
戦闘時に動揺して動けなくなることだって想定できる。人質に取られたら最悪だ。
同行すれば足手まといになる自覚があるので、遠慮がちに言ったのである。
「二人には異世界人の知識を期待しているから邪魔になんてならないよ。戦闘は私たちに任せて」
正人たちが圧倒的に不足しているのは知識面だ。バックアップとして活躍してくれるのであれば、これほど心強い人員はいないだろう。
直接的な戦力として同行するわけではないと知って、サラだけではなくレイアもほっと胸をなで下ろした。
覚悟は決まっていても、無意識のうちに戦うのは怖いと思っていたのだ。
「そういうことでしたら、お力になれそうです」
微笑んだレイアは異邦人としての魅力があった。
女性になれていない正人は美しいと感じたが、それは人としてよりも美術品のような扱いである。触れてはいけない。侵しがたいと見蕩れてしまったのである。
ユーリに軽く背中を叩かれて意識を戻した正人は、今後の予定を告げる。
「蟻人族の拠点襲撃だけど、数日以内に記者会見をしてすぐ出発することになると思う。準備はできそう?」
「私物は少ないので問題ありません。それよりも、テレビで公開しても大丈夫なのでしょうか。蟻人族に情報が漏れませんか?」
「生放送じゃないから問題にはならない。私たちが侵入する直前で公開される計画なんだ」
蟻人族が日本語や、その他言語を取得している可能性は低いがゼロではない。
記者会見の情報が漏洩して警戒が厳重になることを考慮し、襲撃の直前に収録動画が放送される。これは日本だけでなく、世界中が足並みを揃えて対応することになっていた。
「ちゃんと考えられているんですね」
「お偉方も必死だから、今回に限っていえばすごく協力的だよ」
人間同士であれば利害関係の問題があって、一致団結して動くことは難しい。どこかで小さいながらも反対勢力は出るだろう。
しかし今は違う。交渉不可能の異世界の種族が敵で、人類は侵略されているのだ。
一部地域では虐殺された上に土地を支配までされており、次は自分の番だと怯えている。
今回の計画に対して誰も邪魔をする者はいない。
正人が要求すれば大抵のことは通る。
それこそユーリの罪を赦すぐらいには。
「では、私たちの自由も期待しても大丈夫ですね?」
「会見で公表すれば、さすがに嘘でした、なんてできないよ。安心して」
特に恩赦などは前言撤回は難しく、認めたなら実行しなければ相応のリスクを背負うことになる。劣勢になりつつある人類が反撃するタイミングでもあるため、正人は裏切られるとは思っていない。ある意味、人としての誠実性を信じているのだ。
「心配ばかりしていても動けませんしね。私は人類を信じます」
「私もー!」
異世界の人類に滅ぼされかけて地球まで逃げてきた二人にとって、先ほどの言葉は非常に重い。
そんな決断をさせたのは保護をしてくれた正人の存在が大きく、最初に出会ったのが豪毅だったら別の答えを出していただろう。
「協力ありがとう。今回の決断を絶対に後悔させないから」
「約束だよ」
インターネットで日本の文化を学んでいたサラが小指を出した。
随分と古い作法を仕入れたなと思いながら、正人も小指を出して絡める。
「約束を破ったら、大変なことになるでしょ」
「うん。そういった意味が含まれているよ」
「だって。レイアもやる?」
「サラが私の分もやってくれるから遠慮しておくね」
代々巫女はみだりに異性と接触してはいけないと教えられてきた。見習いのサラはともかく、レイアにとっては重要なことであり、破れない掟であったため断ったのだ。
「それじゃレイアの分も約束しないと」
小指を絡めたまま何度も上下に腕を動かし、最後に振り下ろすと同時に離れた。
指切りげんまんの歌はなかったが、正人はしっかりと重い気持ちを受け取るのと同時に、鬼人族もパーティメンバーに入ったのだ。
正人は、別行動をとる他国の仲間はともかく、いまここにいるメンバーだけは絶対に守り抜く。そう心の中で強く誓った。






