さっさと本人に聞いてみるか
「マンションにいたら、私が居ない間に攫われるかもしれません。最後は本人の決断次第になりますが、連れて行きたいと思います」
マンションの一棟買いは探索協会も知っている。何かを匿ってることも察しており、主力が不在の間に侵入する可能性は十分あった。またラオキア教団の襲撃もありえる。正人の動きは分かり易く、ファンクラブ経由でなぜか情報が漏れているため、マンションの場所すら特定されているのだ。
鬼人族だけで留守番はさせられない。
もし日本に残ると選択するのであれば、安全な場所へ住まいを移す必要がある。
「だが連れて行けば死ぬかもしれない。世間にも存在がバレるだろうし、悩ましいところだな」
当然ではあるが蟻人族の本拠地に乗り込むのだから、全滅すらも覚悟しなければならない。何日かかるか分からない。食料や水の現地補給も必要になる。さらに少数で行くのだから勝率も低いだろう。
参加したメンバーのうち、生き残り一人か二人。それぐらいいれば上等だとユーリは考えている。
実際、各国の選抜メンバーも同じ結果を想定していて死ぬ覚悟はできているが、正人だけは違った。
「集団転移できるようになったので、死ぬ確率は高くないですよ」
「そんなスキルまで持っているのか!?」
準備の時間は必要だが、自身の魔力で他者を包めば転移は可能だ。寝るときにだけ日本に戻って安心して休めるのも、正人がいればこそ。食料の不安もない。
しかも回復スキルまで持っているのだから、他国に比べて圧倒的に有利である。
スキルの情報は探索者の生命線であるため、パーティメンバー以外には教えていなかったが、蟻人族のマザーを倒すのであれば共有は必須だ。正人は誰にも言わないで欲しいと前置きしたうえで、ユーリに覚えているスキルをすべて伝えた。
話を聞き終わったユーリは、呆れながらも喜びのあまり口元が緩んでいた。
「スキル昇華か。美都よりも危険なユニークスキルだな。協会に隠していて正解だぞ。もし情報が漏れていたら、裏の仕事をさせられていただろうな」
多彩なスキルを使える正人であれば、相手が誰でも対等以上に戦える。探索協会は反抗的な人間をダンジョンで抹殺する刺客として、弟を人質にとって使いつぶそうとしただろう。
「そうですよね。私もそう思ったので、黙っていました」
「私とは違って賢明な判断ね~~」
強奪スキルによって軟禁されていた美都は、自虐的な笑みを浮かべた。
ユーリは慰めの言葉をかける代わりに抱きしめる。無言の優しさによって、ささくれだった美都の心は癒やされ、そして正人は目の前の甘い空間にひっそりと傷つく。
蟻人族拠点襲撃計画が終わったら仕事を休んで恋人を作ろう、なんて実現できない妄想を描いていた。
「ですから、目の前でいちゃつくのは止めてもらえますか?」
「すまんな。気をつける」
本当に悪いと思ったユーリは、美都を体から離してから口を開く。
「レイアたちには、スキルを教えるのか?」
「一緒に行くのであれば」
情報格差は致命的なミスを生むかもしれない。
異世界から来た鬼人族を無条件では信じられないが、一緒に戦うのであればスキルを教える必要はあるだろう。
「だったら、さっさと本人に聞いてみるか」
正人とユーリは移動するために立ち上がったが、美都は座ったままだ。
口を尖らせて拗ねているようにも見える。
「来ないのか?」
「うん」
レイアとユーリは体力や筋力の勝負を通じて仲が良くなった。
本当は一緒に行きたい美都だったが、他の女と楽しそうにしている姿を見たくはないため断ったのだ。
苦い経験を多くしていることもあり、ねじ曲がった性格になってしまっている。素直になれない女であった。
「すぐ戻ってくるから、大人しくしているんだぞ」
「約束よ?」
「ああ、約束だ」
同行しない理由を察しているユーリは、詳細を聞かずに正人と部屋を出て行った。
上の階に移動してトレーニングルームへ入る。
100kg以上もあるバーベルを上げているレイアの姿が見えた。肌に張り付くトレーニングウェアを着ていて、胸や尻の形がハッキリと分かる。髪は邪魔にならないようポニーテールにしていて、全身から汗を流していた。
離れた場所にあるランニングマシンでは、少女のサラがジョギングをしている。彼女もまたトレーニングウェアを着ているが、どことは言わないが平坦であった。
「おーい。少し話さないか?」
ユーリが声をかけると二人が気づく。バーベルを下ろしたレイアは、トレーニングマシンにかけていたタオルで汗を拭きながら歩いてきた。
体から発せられる熱気が色気を醸し出しているが、二人とも気にはしておらず、レイアはそれが心地よかった。
「ユーリから来るなんて珍しいですね。何かあったんでしょうか……あ、また勝負したいとかですか?」
鬼人族は力比べが好きだ。二人となら良い勝負ができることもあって、楽しそうに笑っていたが、ユーリから落ち着いた雰囲気を感じ取ったので、すぐ真顔に戻る。
「違うみたいですね」
「まーな」
三人はしばらく無言になる。重い空気だ。
ランニングマシンを止めてサラが来ると、正人は蟻人族の拠点を攻める話を伝えた。
「残ったら人間に攫われる可能性があって、行けば死ぬかもしれないということですね」
ある意味、究極の選択だ。
どちらも安全ではない。
答えを出せずに悩んだレイアはサラを見る。自分はともかく彼女だけは守りたいと思っていた。
「サラの考えを聞かせてもらえない?」
「うーん。そうだね。正人さんと一緒ならいいと思うよ」
9/28にコミカライズがスタートしました!
原作を読んでいる人も楽しめる内容になっていると思うので、是非読んでください!
https://comics.manga-bang.com/series/4044b2e40439b






