大教祖を追い詰めたその能力、俺に見せてみろ!
「断る」
たとえ大金を積まれようとも、多大な権力を約束されようとも、正人はラオアキ教団と手を組むことはない。谷口が殺されたことも理由の一つではあるが、そもそも思想が違うのだ。
親の借金を肩代わりして弟を養うために自ら道を切り拓いた正人、他責思考から社会の崩壊を狙う教団では相性が悪すぎる。
「即答か。少しは考えて見ないかね?」
「時間の無駄だ」
腰を落とすと、右手を前、左手を後ろにして両手に持ったナイフを構える。
既に『身体能力強化』『怪力』『短剣術』のスキルは発動させている。必要であれば他のスキルも遠慮なく使って戦う計画だ。
異世界人であれば地球よりも進んだスキル能力を持っていておかしくはないと考えた正人は、生きて捕まえることを諦めている。全力で殺しに行こうと覚悟を決めていた。
「交渉は決裂か……」
さして残念には思っていない態度で、エトス枢機卿は両手を上げた。
「大教祖を追い詰めたその能力、俺に見せてみろ!」
周囲の死体から苦悶の顔を浮かべた人魂が抜け出て、空中を飛び回っている。
至る所で怨嗟の声が響き渡り、精神を侵していく。『状態異常耐性』のスキルが発動して守ってくれるが、余裕はない。ギリギリ耐えている。
「この声に耐えるか! 面白い!」
大量の人魂はエトス枢機卿の周りに集まってきた。
何かをするつもりなのは明白だ。
近づくと怨嗟の声が強くなって『状態異常耐性』を突破される可能性があり、接近戦は分が悪い。様子見をする時間はないため、初手は全力の遠距離攻撃だ。
――ファイヤーボール。
大量の魔力を注ぎ込み、通常の数倍もの高温になった。それを二つ作り出し、一つ目をエトス枢機卿に向けて放つ。
「これほどの魔力、我々の世界でも扱える者はいないぞ! 地球人のクセにやるな!」
純粋無垢な笑顔をしながら、エトス枢機卿は全ての人魂を取り込んでいく。
数秒後、『ファイヤーボール』が直撃して爆発を起こした。
黒い煙が立ち上り視界は悪くなる。
――索敵。
正人の脳内に出現したレーダーマップを見る。エトス枢機卿がいた場所に赤いマーカーが表示された。
移動をしてないのであれば防御系のスキルを使ったはずだ。そう予想した正人は、すかさずもう一つの『ファイヤーボール』をぶつける。先ほどと同じ規模の爆発は起こったが、赤いマーカーは消えていない。倒せてないのだ。
警戒を続ける正人は『自動浮遊盾』を使って守りを固め、反撃に備える。
煙がはれてきた。
エトス枢機卿は攻撃される前と変わらず立ったままだ。傷の一つも負っていない。防御系のスキルを使った様子もなく、ただ単純に頑丈な体で耐えたようにも見える。
「大教祖を追い詰めた力はこの程度か?」
落胆する感情が含まれていた。
地球人の底力を見せろと言わんばかりの態度に、正人は全身に寒気が走り、危機感を覚える。大教祖は大して強くなかった。『精神支配』のスキルさえなければ、里香たちだけでも倒せた可能性は十分にある。
だが目の前にいる男は違う。
体から発している魔力、自信に満ちた表情、立っているだけなのに正人は強いプレッシャーを感じる。久々に経験する絶対的な力の差は、蛇神と戦った時を上回っていた。
「最強レベルのスキルを見せてやる」
先ほど体内に取り込んだ人魂が、エトス枢機卿に力を与える。肉体はレベル五~六近くまで跳ね上がり、取り込んだ魂分の魔力が加わってスキルはほぼ制限なく使えるようになった。
元となる肉体と魔力の強化。それが『怨讐』スキルがもつ一つ目の効果だ。
単純であるが故に隙はない。
真っ向正面から叩き潰すしかないのだ。
「戦わないのか?」
どうすれば倒せるか分からず、正人は動けない。
「では俺から行く」
目の前からエトス枢機卿の姿が消えたのと同時に、周囲に浮かべた半透明の盾が背後に回った。
ガラスの割れる音が何枚もする。振り返りながら正人はスキルを発動させた。
――高速思考。
エトス枢機卿は背後から殴りかかろうとしている。『自動浮遊盾』を破壊した拳は正人の目前まで迫っていて、スキル発動が一秒でも遅ければ頭を吹き飛ばすほどの衝撃を受けていただろう。
通常の数十倍もの速さで次の動きを考えた正人は、『短距離瞬間移動』によって上空へ避難。眼下にいるエトス枢機卿へ全力で攻撃をする。
――氷結結界。
どんなに強化された体でも凍傷にはなる、と考えての選択だ。さらにエトス枢機卿の足を氷で覆い動けないようにする。
これで少しは時間が稼げた。
攻撃の手を止める事はなく、地面から氷の槍を作り出して腹や腕、頭にぶつけていく。肉体を強化したとはいえ正人の全力であれば傷はつく。頭部に穴が空き、心臓は貫かれたが、エトス枢機卿は倒れない。
「いいぞ! これだこれを待っていた!」
氷の槍を抜き取ると、空いていた穴が塞がる。
攻撃が失敗したとわかり、正人は『短距離瞬間移動』で近くに生えていた木の裏へ隠れる。
致命傷を与えたのに死ななかった。『自己回復』や『復元』は生きていなければ使えない。脳を破壊された時点で終わりなのだが、エトス枢機卿は何事もなかったかのうように振る舞っている。
「不死身なのか?」
思わず口から漏れ出した言葉だが、ユーリと戦った辰巳が不死身と呼ばれていたことを考えれば、可能性は十分にあった。






