どうして救わない! 裏切り者!
一人になった正人は現代兵器を装備した人間と戦っていた。
札幌襲撃時に鹵獲された武器は多く、ラオアキ教団の信者に行き届いている。サブマシンガン、ロケットランチャー、スナイパーライフルといった武器のほか、教団で作成した自爆用のドローンまである。
それらは、たった一人の探索者に向けて使われているが、倒すどころか足を止めることすらできていない。『短距離転移』で居場所はすぐに変わってしまい狙いは定められず、攻撃が当たったとしても『自動浮遊盾』『障壁』の二重防御が突破できずにいた。
――氷結結界。
全力で放ったスキルによって、正人を中心にして広範囲の人たちが凍りつく。地面には氷が出現していて、槍の形になると近づいてきたドローンに向かって飛び、貫くと、次々と落としていく。中には衝撃によって爆発し、ラオキア教団の信者は巻き込まれることまであった。
攻撃は当たらず、味方は瞬く間に倒されてしまい、盲目的な信者たちも勢いは落ちる。
武器を持ったまま正人から距離をとって動かなくなった。
銃口は向いているが、死の恐怖によって銃身は震えて狙いは定まっていない。撃っても当たらないだろう。
「大教祖様……お助けください」
戦っている最中だというのに、一人の信者が武器を落とすと膝をついて祈りを始めた。
それを見た他の信者たちも後に続き、助けを求める声を上げる。
困難に直面するたびに他人の力を借りてきた人々は戦いを放棄してしまったのだ。
頑張っても無駄だ。
できるやつにやらせればいい。
そういった身勝手な考えこそ、自分たちが嫌っていた理不尽だと気づけていない。結局のところ、都合の悪いことは全て他人に押し付け、楽に生きようとした人たちの精神は最後の瞬間まで変わらなかった。
「どうして助けにきてくれないのですか!」
「早く腐った社会を滅ぼしてください!」
「私の代わりに敵を殺して!」
「どうして救わない! 裏切り者!」
罵倒し、叫んだとしても教祖は現れない。
十分もすれば信者たちも現実を直視するしかなく、誰もが黙って正人を見る。
顔にべったりと返り血がついていて、冷たい目をしていた。瞳には同じ人間ではなく、憎き仇と出会った時の顔をしている。
まるで罪がないような振る舞いをしているラオアキ教団の信者に対して、今の正人は強い嫌悪感と敵意を見せいてたのだ。
「ヒィ……ッ」
殺気に当てられて助けを求めていた信者の一人が腰を抜かした。
心は折れて、戦意は消失している。
歯はガチガチと音を立てて止められない。
そして恐怖は伝播していく。
「こんなの勝てねぇ! 話が違うじゃねぇか!」
安全で楽に社会へ復讐できますよ、と甘い言葉に誘われて信者になった男は、武器を捨てて背を向けて逃げ出す。走り始めて数歩進むと胸に『エネルギーボルト』が突き刺さって死亡した。
「テメェら。逃げずに戦えよ」
殺したのはスキンヘッドの男だ。極薄い緑の肌をしていて、顔中には刺青がある。明らかに地球人には見えない。異世界人であることは、出会ったばかりの正人にもわかった。
「エトス枢機卿! なぜ我々を殺すのですか!?」
突如として現れた異世界人は大教祖直下の枢機卿であり、ラオアキ教団内の地位は上から二番目だ。ただ同列はあと三人もいるので、彼を殺しても枢機卿が全滅するわけじゃない。
「大教祖が言ってただろ。死んでも殺せって。こんな簡単な命令ぐらい、ごっちゃゴチャ言わずに実行しろや!」
叫びながらエトス枢機卿は『衝撃波』のスキルを使った。自身を中心に不可視の空気の塊を叩きつけ、逃げだそうとしていた信者を圧殺、全滅させた。
大教祖の命令に従えない信者は不要と判断されたのである。
「よう、待たせたな。お前が正人か?」
「そうだよ。私と戦うか? 異世界からの侵略者」
「侵略者ってのは、地球人を殺しまくっている蟻のことじゃねぇのか? 俺らは平和的に仲間集めをしていただけだぞ」
「一般人を使って社会を混乱に陥れる行為も侵略になる。鳥人族やラオアキ教団を使って何をするつもりだ?」
出会った教団関係者の上位役職は、異世界人がほとんどだ。
自分たちを見捨てた社会に復讐するためだけに動いているとは思えず、正人は真の目的を理解するべく質問した。
「さぁねぇ。なんだと思う? 当てて見ろよ」
正解だったとしても素直に教えてくれるとは思えないが、反応を確かめる価値はあるだろう。今まで馬鹿馬鹿しいと思っていた考えを、正人は口にだす。
「なぜ大教祖と呼んでいるのかずっと考えていたが、複数の世界に作った教団と教祖を取りまとめる存在だと思えば納得がいく」
世界に教祖は一人。だが複数の世界をまたがった宗教であれば、それらを取りまとめる代表者が必要だ。正人はそれを複数世界でラオキア教団を立ち上げた存在――大教祖という役職にしたのだと推察したのだ。
「時間をかけてラオアキ教団の支配力を強め、複数の世界を支配するつもりじゃないのか?」
言い終わると正人は黙った。
エトス枢機卿の言葉を待つが、口角を上げて笑顔を作る以外の反応がない。
情報は何も手に入らなかったかと、諦めの空気が漂い始めた時、意外な言葉が飛び出す。
「お前、俺たちの仲間にならないか?」
敵だというのに勧誘したのだ。
裏があるようには思えず、正人は一瞬だけ敵意を忘れて呆気に取られてしまったが、答えは決まっていた。
Kindleにて電子書籍版1~7巻が発売中です!
購入してもらえると更新を続けるモチベーションになります!
(Unlimitedユーザーなら無料で読めます)






