呪いかな?
「これは何のスキルだろう?」
見たことのない絵柄だ。スキルカードを拾い上げながら、正人はいくつか予想をしているが、人と黒い霧だけではわからない。レアドロップであるスキルカードに興味津々の三人が寄ってきた。
女性が三人も近くにいる。
それだけで心臓の鼓動は早まるが、正人は異性として意識してしまったと思われたくはない。あくまでパーティメンバーであり保護者としての立ち位置を崩そうとしないため、恋愛感情が湧かないように抑制しているのだ。
それが今のほどよい距離感を作れていることは、里香や冷夏も理解しているので、もう一歩を踏み出そうとはしない。肩を軽く押し合って少しでも正人に近いポジションを手に入れようとするぐらいだ。
「黒い霧が人にまとわりついているね! スキルを使って攻撃しているのかな!」
二人がポジション争いしている間にするりと入り込んだヒナタは、腕を組みながら密着して絵柄を確認していた。抜け駆けされた。ハッとした冷夏は、妹の顔を手で押して無理やり空間を作ると覗き込む。
「倒れそうだけど、倒れてない……呪いかな?」
言われてみれば黒い霧は不吉な雰囲気がある。
人に対して良からぬ影響があるという予想は当たっていそうだ。
「なるほどねぇ……呪いとは断定できないけど、近しいものな気がする」
正人が同意している間に、里香は冷夏の頭を押して圧力をかけながら顔を乗せる。おんぶをしているような体勢になって、仲が良さそうにも見えるが、実際は静かな争いをしているだけ。冷夏が振り下ろそうと小刻みに触れているのが良い証拠だった。
「冷夏ちゃんが言うとおり呪いにも見えるけど、ワタシは人が立っているのが気になるかな。呪いのスキルを意味するなら、もっと苦しんでいるような絵柄になると思わない?」
「その意見は説得力あるね。里香さんナイスだ。きっと攻撃じゃなく防御系のスキルだよ!」
絵柄を見ただけで能力の一端がわかり、正人はやや興奮していた。大教祖たちとの戦いでは里香たちが怪我をすることも多かったので、防御系スキルは歓迎である。どのようなものでも覚える価値はあった。
「誰かに使います? それとも協会に調べてもらいます?」
「うーーーん。悩ましいね」
防御系スキルであれば誰が覚えてもよいが、貴重なものであるため慎重に選びたい。効果次第では、今回見つけたスキルカードと市場に出回っている汎用的な防御スキルカードと交換する、といった方法も取れるため安易に決めてしまうのは悪手である。
また探索協会に見せて、ゆずってくれと強引なお願いをされてしまったら面倒だ。似たような絵柄を調べるぐらいで留めた方が良いだろう。
ダンジョン探索中に結論を出す必要もないため、正人は後回しにすると決めた。
「他の人の意見も聞きたいからマンションに持って帰ろう」
反対はなかったので正人はポケットにスキルカードをしまうと、四人は床に残った大量の魔石を拾ってから探索を再開する。
部屋の奥にある通路を進み。何度も行き止まりに遭遇しては別の道を探していく。その間にスケルトンやミイラの他、ゴーレムといった無機物系のモンスターも出現したが、危なげなく倒した。
四階層、五階層も出現するモンスターの種類や地形は同じだった。時間はかかっているが脳内の地図は埋まっていき順調に進んでいきボス部屋の前までだとりついたが、鳥人族が見当たらない。滞在していたという痕跡すら残っていないので三階層には拠点を作っていなかったかもしれないと四人は思い始めている。
「スキルを使った探索に切り替えよう。みんな私に触れて」
モンスターの種類は把握できたため、正人は『短距離瞬間移動』を繰り返す探索方法に切り替えると決めた。里香と冷夏は左右の手を握り、ヒナタは背中に抱きつくが、二人に引き剥がされてしまった。
「女子なんだからダメ!」
「危ないよ!」
友達から叱られて、しゅんとしてしまったヒナタは仕方なく鎧の一部を触るだけにした。
「それじゃ行くよ」
――短距離瞬間移動。
数十メートル先まで転移した。敵の姿はない。瞬時に安全を確認してからさらにスキルを連続で使用し、移動を繰り返す。歩いていたときとは比較できないほど早く地図は埋まっていく。
たった二時間ですべてが五回層の地図が埋まってしまった。未開拓なのはボス部屋のみ。他の部屋はすべて確認していて鳥人族がいないと判明しており、これより下を探す意味はあまりない。ダンジョンに潜んでいた鳥人族は全滅したと判断して、地上に戻る頃合いだろう。
探索によって減った魔力を回復させてから、正人は『転移・改』を使って放置していた装甲車へ戻る。
ビックエイプの動向が気になるため、正人はスマホを取り出して豪毅に報告がてら状況を確認しようとする。
「ねぇ。上……あれって」
里香の声を聞いて顔を上げると猛スピードで近寄ってくる存在に気づく。尾から白い煙が吹き出しており、炎がちらついている。ロケット弾だと気づくのに時間はかからなかった。狙いは装甲車。数秒で着弾する。警告しても意味はなく、逃げるにしては時間が足りない。
――自動浮遊盾。
半透明の盾を五つ出現させると正人たちから遠ざけて、ロケット弾に当てる。次の瞬間、轟音がすべてを飲み込んだ。着弾が離れていたことによって直撃は避けられたが、巨大な火柱が発生して灼熱の爆風が発生して正人たちに向かう。
――障壁。
魔力を込めて範囲を拡大し、装甲車ごと包み込む。熱風は正人たちを傷つけることなく通り過ぎていった。






