甘い考えは今すぐ捨てろ
「蟻地獄!?」
叫びながらも必死に体を動かしてヒナタは抜け出そうとしているが、足場が沈むため動けない。里香、冷夏も飲み込まれそうになっていて似たような状況である。唯一、正人は『天使の羽』スキルを使って一メートルほど浮かんだため無事であった。生き残りのサソリを『エネルギーボルト』で消滅させると、ナイフを突き出して急降下する。
――突進。
スキルの効果によって威力が強化され、全身が一つの武器になる。流砂の中心にいるモンスターの顎を破壊して刀身が頭部に侵入しても勢いは止まらず、突き抜ける。体ごとモンスターの体内に入って倒してしまった。
黒い霧に包まれて魔石は残ったが拾う余裕はない。流砂が正人を飲み込もうとしているのだ。
モンスターを倒しても地形は元に戻らない。
死後も続く呪いのように地中へ引きずり込む。
砂は重く足を引き抜くなんてできない。じわじわと沈んでいく中、正人は冷静に周囲を見る。近くにモンスターはいない。空に鳥人族の影はなく、索敵スキルで確認しても赤いマーカーは消えたまま。
敵はいない。ダンジョン内ではあるが一時的に安全な状況だ。救出に専念しても問題はないだろう。
――転移。
空中に移動すると、白い羽を羽ばたかせて流砂の中心に近い里香から順番に拾い上げていく。無防備な姿をさらしているため攻撃されたら避けられないが、安全は確認しているため不測の事態は起こらない。
無事に全員を救出すると穴は埋まってしまい元通りになった。
「周囲を見てくるから少し待ってて」
鳥人族の拠点に近づいているため戦闘を避けたい正人は、『短距離瞬間移動』を連続使用して近場にモンスターがいないか調べに行ってしまった。
残された三人は太陽の陽差しに晒されながら待つしかない。
「モンスターを倒したから地面は戻ったのかな?」
「どうなんだろう? 消滅した後も流砂はしばらく残ってたからトラップだったのかも?」
ヒナタの疑問に推測を交えつつ里香は答えたが、確信はもてていない。未知のエリア、モンスターであるため情報は全くないのだ。
「そんなこと後で考えれば良くない? それよりも同じミスを繰り返さない方が重要だよ。流砂対策だけど――」
二人の会話に冷夏が入り込んで、先ほどの戦いについて振り返りが始まる。モンスターの強さは問題にはならないが、今までのダンジョンと違って足場が不安定で戦いにくい。予想外の攻撃も多そうだから慎重に行動しようとお互いに結論を出す。
初めての場所だからこそ、すぐに動かずに状況を整理している姿は頼もしい。ベテラン探索者としての安定感があった。
会話が一段落すると正人が『短距離瞬間移動』で戻ってくる。モンスターの姿をいくつか確認したため、移動コースは修正済みだ。『索敵』の範囲外にいる敵と出会わなければ戦闘せずに進めるだろう。
「休憩できた?」
「うん!」
「よかった。それじゃ移動を再開しよう」
「はーーーーい」
三人を代表してヒナタが返事すると正人を先頭にして歩き出す。
砂を踏んだ跡は風が吹くとすぐに消えてしまう。サボテンすらなく生命が消えてしまったような光景だ。日本が滅亡した後は、こういった景色になってしまうのだろうかと、種族の存亡を賭けて戦っている正人たちは自然と考えてしまう。
平和や安全とは、待っていれば手に入るものではない。
自らが勝ち取らなければいけないと改めて意識して力強い足取りで砂漠を進む。
水分を補給しながら予定通りのコースを進むと、時間にして一時間ほどで鳥人族の拠点付近に着いた。
前に確認したときと変わらず、オアシスの近くに土で作られた建物が二つある。外には誰もいない。
「みんな出払っているのでしょうか?」
「ううん。多分違う。少なくとも一人はいるとおもうよ」
拠点を無人にしてダンジョン内を巡回するとは考えにくく、生き残りが建物内にいると考えて動いた方が良いだろうと、正人は判断している。
「私が先行して様子を見てくる。里香さんたちは周囲の警戒を頼めるかな?」
「任せてください。ね、冷夏ちゃん?」
「うん」
ぽんと胸を叩いて自信ありげな態度を見せると、ヒナタもマネをした。
双子らしいシンクロした動きに場の空気が和む。
「それじゃ、行ってくる」
手を軽く上げてから正人は一人で歩き出し、『短距離瞬間移動』で建物の近くに移動した。すぐさま『隠密』のスキルを発動させて存在感を薄くさせる。目視されなければ気づかれる可能性は大きく減り、目を閉じてから耳に手を当てて音がしないか聞き取ろうとする。
『聴覚強化、小さい音も聞こえるようになる』
新しいスキルを覚えたので使用すると建物内部から寝息が聞こえた。呼吸音だというのにはっきりと聞こえるほど強力な効果を発揮しているが、大きな音までも増幅して聞こえてしまうため、使いどころを間違えてしまうと耳が破壊される恐れはあった。
銃声や爆発音が絶え間なく続くような戦場だと長時間使うことは難しいだろう。
再び『短距離瞬間移動』を使って、もう一つの建物の近くに移動して音を確認する。
『定刻になったが偵察隊は戻ってこないのか?』
『また寄り道でもしているんでしょう。気にする必要はありませんよ』
『人類への攻撃を始めたのだ。甘い考えは今すぐ捨てろ。異常事態が発生しているかもしれないんだぞ』
『隊長~気にしすぎですって。仲間が手を打っているので、ここまで手は回りませんって』
『だからといってな――』
会話はしばらく続きそうだったので盗み聞きを打ち切る。
離れた場所にいる里香たちには、もう一方の建物を任せるとハンドサインを送ってから突入することにした。
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