どこに行ったのかな
谷口をアンデッド化させて逃げ出したラオキア教団の信者は数時間後、銃で頭を撃たれた死体として発見された。銃弾は自衛隊のものだが、調査しても撃った人は判明せず、犯人は不明のままである。
鳥人族の襲撃がいつ再開してもおかしくはないので、防衛準備に時間を割かれていて徹底した調査は不可能だ。
探索者たちも地元を守るために活躍しており、戦場の熱気は高まっているため谷口の死を気にする人は誰もいなかった。
そういった事情もありラオキア教団の捜査は一時中断となってしまったので、正人たちは当初の予定通り鳥人族の調査を優先することになる。武具を装備して長期活動できるよう食料と水を装甲車に積み込むと、札幌を出て北海道の中心部にまで移動した。
ここは鳥人族たちが最初に目撃された場所だ。拠点があると思われるため、どこまでも続く草原の中に作られた道路を進んでいる。避難が進んでいるため他の車両はない。いるとしたら動物たちぐらいだろう。
運転は正人、助手席や後部座席にいる里香たちは窓を開けて空を見ている。鳥人族を警戒しているのだが、今のところ姿は見えないので上空から襲撃される気配はない。平和そのものだったのだが、道路に巨大な人影が見えたので正人はブレーキを踏む。装甲車が停止するのと同時に里香が飛び降りて走り出し、ヒナタと冷夏は後方を警戒する。
里香が近づくと姿が見えてきた。灰色の肌を持つ巨人の身長は五メートル近い。体毛は一切なく、筋肉は盛り上がっていて全裸であった。当然、股間にぶら下がっているブツも丸見えで、内心で「また、これ……」とため息を吐く。
人食い村で遭遇したトロールであった。
再生能力の高いモンスターではあるが、首を切り落とせば死ぬ。
接近してきた里香を叩き潰そうとしてトロールが拳を振り上げると、手に『エネルギーボルト』、頭に『ファイヤーボール』が直撃した。正人が援護したのだ。動きが止まった隙に懐まで入った里香は、足を斬り飛ばして転倒させると体に飛び乗り、首を切断する。血を吹き出しながら黒い霧に包まれて消えていった。
「死体が残らなかった……近くにダンジョンがあるの?」
周囲を見るが何もない。草原だけ。しかし受肉していないモンスターの出現する場所が近くにある可能性は残る。
「かもしれないね。探してみよう」
運転席から降りて現場に駆けつけた正人は、里香の独り言に返事をした。
「鳥人族を優先しなくていいんですか?」
「未発見のダンジョンは把握しておきたいし、もしかしたら最下層に鳥人族がいるかもしれない。探す価値はあるよ」
後方を向いて正人が叫ぶ。
「私と里香さんは周囲を調べてきます! 二人は装甲車の守りをお願いしますね!」
「はーーーーい!」
手を振りながらヒナタが元気よく返事をすると、装甲車の上に登って座る。高いところから周囲の監視を始めた。先ほどのトロールを除けば敵の影は見えない。空に不審な鳥もいないため安全そうだ。正人の『索敵』スキルも反応していないため、近くにモンスターが潜んでいる事はなさそうである。
先頭が正人、後ろを里香という隊列で道路を外れて草原へ進む。
地面はぬかるんでいて足跡がくっきりと残る。草の踏まれた箇所もあったので、トロールが来た場所を探すことは容易そうだ。痕跡を追って警戒しながら歩いて行く。装甲車とは数百メートルぐらい離れたがトロールの大きな足跡は、まだ続いている。周囲にモンスターの影はないため、正人はさらに進もうと判断。草原の中を進む。
天気は曇り。体力に余裕はある。どこまでも行けそうだ。
装甲車の姿見えないぐらいの距離まで進むと、正人のレイダーマップに赤いマーカーが浮かんだ。数は一つだったが、すぐに消えてしまった。スキルが不具合を起こしたわけではない。範囲外に移動したのだ。
「敵が近くに居るかもしれない注意――」
「正人さん! 上!」
モンスターの存在を教えようとしたら、里香の方が先に気づいた。顔を上げると大きな羽が目に入った。二本の足があって体は人間のように見える。
「鳥人族だね。こっちには気づいていない?」
装甲車がある方角とは別に向かってゆっくりと飛んでいった。
もし正人たちに気づいていたら、そのような行動は取らない。攻撃をするか、急いで逃げようとするだろう。
「どこに行ったのかな」
「偵察なら札幌だけど……距離があるし別かな。考えてもわからない。鳥人族が飛び立った場所に行ってみようか」
「はい」
再び移動を再開する。近づけば赤いマーカーが出てくるかもしれないと警戒していた正人だったが、予想に反して何も起こらない。鳥人族がいたと思われる周辺にまで、誰とも遭遇せずに着いてしまった。
周囲を見渡すが何もない。
「どこから、どこから出てきたんだ?」
独り言をつぶやきつつ空を見上げる。鳥人族はいない。遠くに敵の姿もなく、不気味なほど静かだ。
里香は地面をじっと見つめ、トロールの足跡を追い続けている。正人から少し離れた場所で立ち止まった。
「正人さん。ここからかもしれません」
発見したのは大きな穴だ。緩やかな下り坂になっていて降りられるようになっている。トロールの足跡は、ここから来たようであった。
少し中に入ってみると空気が変わる。魔力の濃度が濃いのだ。
「ここってダンジョンですよね」
「うん。間違いない。鳥人族が拠点として使っている可能性が高いから調査しよう」
無線で冷夏にダンジョンの入り口発見報告をすると、正人たちはダンジョンへ入っていた。
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