心配してくれるの?
勝負に関係ないサラと一緒に休憩用のベンチに座った。
足をブラブラとさせながらポッキーを食べて、勝負をしている二人を見ている。
表情は明るい。口角が上がっていて笑っている。
「見てて楽しい?」
正人が声をかけるとサラは勝負を見ながら口を開く。
「ずっと暗い顔してたから、あんなにはしゃいでいる姿見るの久々なの。だから楽しいじゃなく、嬉しいかな」
地球に来る前から世界間を移動して日本語を学んでいたサラは、ニュアンスの違いまでもしっかりと理解している。
鬼人族の男性は脳筋ぎみなのだが女性は筋力が劣る分、知能はやや高い。その気になれば数カ国語の言語も操れるようになるし、現に今は英語を覚えつつあった。
「こんな平和な時間が過ごせるなんて思わなかった。正人さん、ありがとう」
元の世界では人間に襲われることも多く戦いの日々だった。明日、隣にいる友人が死ぬかもしれない。そんな状態が続いていたこともあって、混乱している日本でおいてさえ平和だといえる。
安心して寝られる、友人と競い合う、そんな日常が長く続けば良いとサラは思っていた。
「お礼を言われるまでもないよ。これは取引した対価だから。当然だと思って受け取ればいい」
「あはは、本当にいい人だ。ありがとう!」
無邪気にサラは腕に抱きついた。
正人はドキッとするが表には出さない。子供あいてに動揺しているとは思われたくなかったのだ。
控えめな胸が当たっていることを忘れるために、意識は肉体勝負をしている二人に向ける。
「バーベル勝負は私の勝ちですね」
レベルで強化されていても種族の壁を越えることはできなかった。バーベルの持ち上げ勝負は鬼族のレイアに軍配が上がったのである。ただ圧倒的な差があったわけではなく、ほぼ互角であったため肉体の強さでいえばレベル四と同等だ。
それはレベル一や二程度の人間だと腕力では勝てないことになり、彼女たちを捕まえるのであれば相応の戦力が必要となるだろう。
「次はランニングだ。持久力なら負けねぇ」
「いいでしょう」
女性に負けてプライドを傷つけられたユーリはランニングマシーンに乗ると、隣の台にレイアも立って走り出し、第二ラウンドが始まる。
一定のテンポを維持しながら足を動かし、競い合う。
「鬼族って筋力はすごいけど体力はどうなの?」
観戦している正人はふと気になって聞いてみた。
「うーん。ダメなわけじゃないけど苦手かなぁ」
「何でもできるわけじゃないんだ」
「そうだね。蟻人族は体力お化けで長期間の活動は得意だけど知能が低いし、鳥人族は空を飛べて頭も良い、補助系のスキルも沢山覚えていて気温差もものともしないけど体は脆いんだよね。人間みたいにバランスが良い種族って少ないんだよ」
人間が地球、そして異世界でも地上の支配者になった理由は、大きな欠点がないことにある。
どの種族に対しても柔軟に対応できる上に大義名分さえあれば、高度な知能を使ってどこまでも冷酷になれることもあって、サラたちにとって悪魔の様な種族であった。
「ちなみに鬼族は戦いが好きで単純な思考をしているところが欠点かな。罠にはまりやすいんだよ」
神島での戦いでは、真っ正面から戦うばかりで搦め手がなかった。
また目の前でユーリとレイアが競い合っている姿を見ていても、競い合うという行為自体を楽しんでいるように感じる。サラの言葉には説得力があった。
「息が上がってきたんじゃねぇか?」
「まだ…………大丈夫…………で、す」
走っているレイアは全身から汗が出ていてトレーニングウェアはびっしょりと湿っている。顔は赤くなっていて肩で息をしており限界が近そうだ。
その点、ユーリは余力を残している。
そろそろ持久力勝負は終わりそうだ。
「あっ」
ついにレイアの足がとまり、ランニングマシーンで転倒すると、バランスを崩して弾き出された。
「お前! なにしてるんだ!」
走るの止めて駆けつけたユーリが状態を確認している。
鬼族はこの程度ではケガなんてしないのだが気づいていない。
「心配してくれるの?」
「当たり前だろ。頭とか痛くねぇか」
恩に着せようとしているわけではない。そうすることが自然で考えるまでもないという態度にレイアは驚き、目を見開く。
「当然、ですか」
「ケガがないなら、さっさと立ち上がれよ」
手を前に出されたのでレイアは握って立ち上がる。
息は乱れて体は熱いが、これはランニングによる結果なのだろうか。
それは本人にもわからなかった。
「一勝一敗の同点だ。次で勝負を決めよう」
「絶対に勝ちますからね」
競い合っている中で友情が芽生えたのか笑いながら次の競技を話し合っているが、種族として不利がでないよう配慮しているのでなかなか決まらない。
二人でアイデアを出しながら楽しそうに談笑している。
平和なやりとりだ。
蟻人族のことなんて忘れられそうだなと思っていた正人のスマホが震えた。
ポケットから取り出してディスプレイを見ると、豪毅と書かれていた。
副会長からの連絡に嫌な予感を覚える。出たくはない。そんな気持ちを反映したのか、眺めるだけで動けなかった。
「出ないと着信が切れちゃうよ」
「そうだね」
サラに言われて仕方なく通話ボタンをタップしてスマホを耳に付ける。
「緊急事態だ! 今すぐ渋谷の探索協会のビルにきてくれ!」
切迫した声だ。
予想通り悪い知らせだった。






