逃がさねぇぞ
――エネルギーボルト。
意識を取り戻した里香が空中にいるボダルへ向けて光の矢を放った。狙いは眼球だ。『鬼人』を使っていたとしても急所ではあるため、直撃したら重傷は避けられない。腕で顔を守ってから温泉に向けて拳を突き出す。
衝撃波が発生して水が吹き飛びクレーターが発生する。
ユーリはボダルが防御に使った僅かな時間で逃げ出していたため、軽く吹き飛ばされる程度で済んでいた。里香と合流すると話しかける。
「助かったぜ」
「どうも」
モンスターを地上にはなった張本人であるため、里香は素っ気ない返事をした。
半目になって警戒しており、決して心を許さないというメッセージを伝えている。
「何でいるんですか?」
「お嬢ちゃんが大好きな正人と会いたくてな。ここまできた」
「なっ、なななにを言って!?」
直球でからかわれることに慣れていないため、里香の顔は真っ赤になって目が左右に泳いでいる。戦いの最中だというのに隙だらけだ。
「おいおい。落ち着けよ」
「ユーリさんのせいですからね!」
「悪かったって……」
年下の扱いは難しいと小さくため息を吐いてから、クレータを指さす。
「言いたいことは色々あると思うが、おしゃべりはアレを倒してからにしようぜ」
着地したボダルがゆっくりと近づいていた。相変わらず全裸で股間の一物がブラブラと揺れている。
非常に不愉快な気持ちになった里香は、ユーリの意見に同意する。
「わかりました。一時共闘しましょう」
「よしきた」
二人が武器を構えるとボダルは笑顔になった。
「話し合いは終わったみたいだな。時間がない。さっさと再戦するぞ」
ボダルはユーリの背後に回った。里香よりも驚異だと感じているため、先に倒そうと思っての行動である。
――アラクネの糸。
背中から糸が放出されてボダルに絡まる。体の一部であれば、発生場所はどこでも良いのだ。
多少動きにくくなったが、攻撃を中断するほどではない。糸を引きちぎりながら殴りつけようとする。
――剣術。
刀身を淡く光らせると、里香は最速の突きを放つ。
向かう先は顔だったのだが途中で軌道が変わって下に向かう。糸とフェイントの組み合わせによって防御が間に合わず、切っ先が股間に当たった。
皮膚は貫けなかったが強い衝撃を受け、たまらずボダルは下がろうとする。
「逃がさねぇぞ」
黒い短槍を突き出した。左目に当たって眼球を潰す。さらに毒まで流れ込み激痛が全身を襲った。
「やるなッ!」
ユーリが腕を引く前にボダルが柄を握った。里香が追撃をするため飛び出す。
――咆吼。
全方位に衝撃波が放たれ里香は吹き飛んだ。ユーリは耐えているが体内は傷だらけになる。口や目、耳から血が垂れ落ちるほどであった。
ボダルは膝蹴りを放ったため、短槍を手放して後ろに下がる。
目から引き抜くと黒い短槍を一度振ってから構えた。
強い恐怖を覚えるが、ユーリは負ける気が一切しない。
頼もしい仲間がいるからだ。
――槍術。
――怪力。
――身体能力強化。
意識を取り戻した傷だらけの冷夏が背後から薙刀を振り下ろす。ボダルは振り返りながら短槍で受け止めた。『鬼人』スキルで筋肉が強化されていても、簡単に跳ね返せるほど軽い攻撃ではない。力を溜めて押し返そうとする。
――縮地。
――細剣術。
一瞬で距離を詰めたヒナタがレイピアを突き出す。回避しようとするが片目が潰れていることで距離感を見誤ってしまい、ボダルの額に当たった。衝撃によって脳は揺さぶられてしまい足下がふらつく。
――格闘術。
探索協会から盗み出したスキルカードを使って覚えたユーリは、しゃがみながら横に回転して足払いをする。耐えきれず、ボダルは仰向けに倒れて持っていた短槍を手放してしまう。
駆け寄った里香が片手剣を振り下ろすが、刀身を掴まれてしまって止まる。
「惜しかったな」
仰向けになりながらも、里香ごと片手剣を投げ捨てる。冷夏が受け止めたので無事ではあるが、ボダルは立ち上がってしまった。
ヒナタは動けない二人のために連続の突きを放つが、ボダルにダメージを与えられない。片目の状態にも慣れてしまい、途中で刀身を拳で叩き折られてしまう。
「高かったのにーーーーっ!!」
武器を失って危険な状態だというのに、真っ先に思いついたのは修理費のことだった。お金に困る生活を続けていたため、どうしても気になってしまうのだ。
三人をまとめて倒そうとしてボダルは腰を落として構える。
首筋に黒い短槍が刺さった。
『透明化』スキルで姿を隠しながら、動きが止まるチャンスをうかがっていたのだ。狙いは悪くなかったのだが、ボダルを殺すには足りない。
「邪魔だ」
周し蹴りをまともに受けてしまい内臓が破裂する。ボダルは殺したと確信してユーリから意識が離れる。僅かではあるが明確な隙だ。
――自己回復。
ずっと使用を控えていたスキルを使い、傷を癒やしたユーリは攻撃を耐えた。
短槍を手放すと右手の指をまっすぐ伸ばし、ボダルの残った目を突き刺す。『格闘術』の発動をつづけていたこともあって、眼球を潰すことに成功した。
すぐさま後ろに下がってユーリは距離を取る。
視界を失ったボダルは立ったまま動かないでいた。






