そうなるぐらいだったら死ぬわ~
「どういうこと? 詳しく教えて」
「神津島に鬼のモンスターが出現したみたいです。気づいた時には誰とも連絡が取れず、今どうなっているか分かりません!」
東京から約170キロメートルほど離れた小さな島だ。伊豆七島の一つであり東京都に含まれる。透明度の高い綺麗な海に囲まれていて、小さめな飛行機やフェリーで訪れることができる。人口は二千人弱と少ない。離島であるため地上に出てきたモンスターが侵入してくることはなく、今までは平和だった。
「上空から偵察した映像は?」
「あります。鬼のモンスターが少なくとも千は確認できています。谷口さんは最低でも三千程度はいると言ってました」
「多すぎる。島はモンスターに支配されたと考えるべきか……」
「はい。私もそう思います」
住民よりモンスターの数が多いのだから、誰でも同じ結論を出すだろう。孤島なので討伐隊を派遣するにしても時間がかかる。また上陸する際に大きな被害が出るかもしれないため、作戦は慎重に進めなければならない。
誰も口に出してまで言わないが、神津島に住んでいる人々が無事で過ごせているとは思えなかった。
「断片的に聞こえたんだが、日本でも侵略が始まったのか?」
焦っている里香が大声で話していたため、隣にいたユーリにまで聞こえていた。
「みたいですね」
会話が聞こえるように、正人はスピーカーボタンを押す。
人類共通の敵が動き出した今、例えモンスターを地上にはなった重犯罪者でも力を借りる必要があると判断したのだ。
「協会から神津島奪還作戦の参加要請が来ています。どうします?」
「参加はする予定だけど、計画内容次第では辞退することもあるから。それだけは覚悟しておいて」
できれば助けたい。けど、無茶な作戦に巻き込まれて大切な仲間が死んでしまうのは拒否したい。
そういった葛藤があるなか、正人が出した結論だった。
「わかりました。冷夏ちゃん、ヒナタちゃんにも伝えておきます」
「頼んだよ。私はこれから渋谷の探索協会に行って話を聞いてくるね」
「あ、ワタシたちも呼ばれているので、ビルの一階で合流してから行きませんか?」
「いいよ。先に到着すると思うから待っている」
「はい!」
通話終了ボタンをタップすると正人はユーリを見た。
「ということで、私たちは協会がまともな作戦を提示したら、神津島を奪還する予定です。ユーリさんはどうします?」
「俺の計画に侵略者は不要だ。手伝うぞ」
人類が支配されてしまえば探索者がまともに評価される時代は遠のくどころか、永遠に訪れないかもしれないのだ。お互いに相容れない考えをしているとは分かっていても、この瞬間は手を組む選択しか出来なかった。
「でも、どうやって?」
「俺は姿を消して勝手に付いていくさ」
『透明化』を持っているユーリにとって、船や飛行機に忍び込むのは難しくない。
今回のように大がかりな人数を動員するような作戦であれば、失敗する方が難しいだろう。
「美都さんは?」
「問題はそこだよな。隠れ家を潰されたから住む場所がない」
強力なユニークスキルを持っているが、戦いや逃走、潜伏には向いていない。一人では探索協会やラオキア教団の包囲網をくぐり抜けて生きていくことはできないのだ。
ユーリは何とかしてくれないかと、正人に無言の圧力をかける。
「協会に保護してもらっ――」
「そうなるぐらいだったら死ぬわ~」
会話に割り込んだ美都は、自由がなくなるぐらいなら自ら命を絶つと宣言した。
間延びした声だったが、本気だと感じた正人は反論できない。
「とういわけだが、優しい正人は見殺しにするか?」
「嫌な言い方しますね……」
性格を見抜いた言葉に心がぐらつく。
美都を守る理由なんて全くないのだが、モンスターと戦っている最中、探索協会に捕われ、死なれても気分は良くない。
また助力してくれるユーリだって、気になって本領が発揮できずに負ける可能性だってある。絶対に勝ちたい戦いだからこそ、僅かな可能性でも潰しておきたいと思ってしまうのは当然のことだ。
正人は悩んだものの結論を出す。
「誰にも教えていないセーフティハウスが一つあります。道を教えるので、そこに向かってください」
モンスターによって都内が崩壊したときに備えて、海沿いに一軒家を購入していた。近くの港には購入したクルーザーも用意されており、海に逃げ出せるようにもなっている。
「この借りは戦場で返すぜ」
「期待してますよ」
軽い口調で返事した正人は、運転している美都に指示を出す。車は当初の目的地から大きく外れて一時間ほど道を走り、目的地の近くに着く。
正人は家の鍵を手渡すとドアを開けて車から降りた。
「次に会うときは神津島ですね」
手を振るとスキルを使う。
――転移。
その場から正人の姿が消えた。
残された二人は車をセーフティハウスの駐車場に入れると、ユーリは『透明化』のスキルによって姿を隠し、美都は帽子とマスク、メガネで素顔を隠して外に出た。
近くに監視カメラはない。ほどよく人が多い街であるため、近隣の住民に対してあまり興味を持っていない。
しばらくの間、身を隠すにはほどよい環境であった。






