ラオキア教団はやり過ぎたな
スーパーの騒動から数日が経った。
捕まえたラオキア信者の尋問は順調に進んでいる。教団の中でも下っ端として扱われているため、大した情報は持っていなかったが、重要なことが一つだけ判明した。
スキルカードの複製。
それが可能であるかもしれない、という事実である。
誰かがスキルカードの複製現場を見たわけではないが、貴重であるはずの召還スキルカードが数十枚もあったことが確認できたため、探索協会はそのような結論をくだしたのである。
また都市に出現しているモンスターの一部がスキルカードによる召還である可能性が浮上し、警戒態勢の見直しが行われている。具体的にはAIによる顔やスキルカードの認識機能を実装した監視カメラの大量設置計画だ。
プライバシーの問題があって今まで進めることは難しかったが、モンスターという脅威を前にして反対派はいなくなった。設置は順調に進んでいる。
残念なことに地方にまで予算は回っていないため、人口密度の高い都市圏だけを安全地帯とする計画でしかないが。
◇ ◇ ◇
都市に大きな動きがあったことに、ユニークスキル『透明化』を使って諜報活動をしていたユーリも気づいている。
「ラオキア教団はやり過ぎたな」
モンスターの襲撃によって放棄された村にある古民家に隠れ住んでいるユーリは、召還のスキルカードを手でいじりながらつぶやいた。
昭和初期に建てられており設備は古い。目の前には囲炉裏がある。向かい側には仲間の川戸、美都が座っていて、車で一時間ほど離れたスーパーから盗み出した菓子パンを食べている。
『透明化』のスキルによって必要な物資は全て無料で手に入り、モンスター被害によって放棄された村はいくつもあるので、金がなくても長期間の逃亡生活が続けられているのだ。
「何が気に入らないの~?」
のんびりとした声で美都が聞いた。
以前よりも自由な生活が出来るようになったので、人生を諦めるような感情は薄れているが、指名手配されているため街を自由に歩ける状況ではない。以前よりマシというだけで、完全な自由からは遠く、社会に対する不満は強く残っている。
「俺は日本が一度ぶっ壊れればいいと思っていた。少し前のラオキア教団も同じ思想だったからお互いに協力していたが、例のスキルを手に入れてから人類の破滅まで求めるようになっちまったんだよ。俺はそれが気に入らない」
探索協会の施設を襲ってモンスターを地上に解放させた後、ラオキア教団の存在を知ったユーリは、教団関係者として活動をしていた時期もあった。
違法な手段で危険なスキルカードを手に入れ、渡したこともある。
逃走資金やセーフハウスを用意してもらいながら共に行動していたのだ。
しかしその共生関係は長く続かず、より大きな力を手に入れたラオキア教団は世界の破滅までも目論むようになった。
「例のってスキルカード複製だっけ? 確かに~、あんな能力を手に入れたら世界制覇とかしたくなる気持ちはわかるよね~~。ユーリはそれに反対なの~? 嫉妬かなぁ~?」
「バカ言うな。嫉妬なんかするわけないだろ。少数で動く俺には不要なスキルだ」
スキルカード複製の真価は、大量のスキルを覚えた兵隊を作ることにある。数万人が民間人を装い、覚えたスキルでテロ活動を行う。これほど防ぎぎにくい事件はないだろう。
社会そして人類を憎む人々にとっては救いとなる能力だ。
さらにユーリが渡した『精神支配』のスキルと組み合わされば、裏切りの心配すらない。
「だがあれも無条件でコピーできるわけじゃない。クールタイムが必要だし、何よりもコピーしたスキルカードが存在できる時間は決まっている」
「無敵じゃないんだね~」
「そうだ。だからこそ、だれにも気づかれることなく兵士を強化していけばよかったのに、あいつらはそれをしないで、世界中にモンスターを放つようなことをしているんだ。強大な力を手に入れて現実が見えなくなっている。そんな馬鹿どもと行動すれば、破滅するだけだ」
「だから手を切るの~~?」
言葉にはせず、ユーリは首を縦に振って意思を表明した。
「ふーーーん。ま、私はどっちでもいいけど~」
興味がなくなったのか、美都は食事を終えると鉄の爪やすりを使い、光沢が出るよう丁寧に表面を削っていく。
ユーリが指示した通り『強奪』のスキルを使っていけばいい。後は愚かな男どもが勝手に争い、奪い合って、社会は混乱していく。私は背中を軽く押せばいいだけ、などと考えていた。
「ラオキア教団とは敵対するのか?」
ずっと静かに話を聞いていた川戸が今後の方針を確認した。
「それじゃダメだ。俺たちは直接、手は出さない。情報をリークして協会や政府側のヤツらに戦わせる。お互い疲弊したところで、次の一手を打てば秩序の維持なんて出来なくなるだろうよ」
敵対する組織をぶつけさせ、漁夫の利を狙っているのだ。
計画が上手く進めばユーリの狙い通りの未来が来るだろう。
「本当に裏切るつもりか?」
古民家の中から声が響き渡った。
ユーリは側に置いていた短槍を持ち、川戸は美都を抱きしめると『自動浮遊盾』を周囲に浮かべる。守りの姿勢だ。
「大教祖様からは裏切りが発覚したら、すぐに殺せと言われている」
周囲を観察していたユーリは、天井に小さな目玉があることに気づく。あれはスキルで作られた存在だ。監視と伝達ができる効果をもっている。
裏切りの兆候を感じ取っていたラオキア教団が、ユーリの動向をずっと監視していていたのでであった。






