それだけ世界が危険になっているんだよね
豪毅と会談が終わってから数ヶ月経過した。
世間の話題は渋谷の事件から、世界中で発見されたモンスターに移っている。地上を跋扈し、人を襲い、町を破壊する。そんな姿がネットを中心に拡散されていた。
当然ではあるが、日本の失敗を参考にして各国は対処しているため、大きな被害は出ていない。だがそれも長くは持たないだろう。
人が訪れないような場所でひっそりとモンスターは繁殖しており、討伐する数より増える方が多いのだ。
もう少しすれば資金もしくは物資が不足して、各国の都市でもモンスターを見かけるようになる。
一方の日本も暗い話題は続く。
特に体力の劣る老人はモンスターに殺されることが多く、人口は大幅に減っている。若干ではあるが超高齢化社会が改善されるほどである。総人口が減っているので、国が衰退していることには変わりないが。
またモンスターの被害を押さえるために地方の村は放棄、全員が都市部に引っ越す施策が実施された。人口密集度が高まっている。
自然と地価や賃料は上がり続け、生活に苦しむ人たちも出てくるが、誰も助ける余裕はない。また輸送手段も限られているため物価も上昇の一途を辿っている。
帰る家や食べる物がなく路上で生活する国民も増え、さらに一部はスラム化までしていた。
大昔は一億総中流社会と呼ばれ、ゆるやかに格差社会へ移っていった日本だが、モンスターの出現によって格差が諸外国並みになったのだ。
持たざる者は全てを奪われ、壊され、死んでいく。
そんな空気感が醸成されていき、一発逆転を狙う人々はこぞって探索者になり、力を付ける方法が選ばれる。
その結果どうなったか。
正人が見ているテレビに映し出されていた。
「探索者による強盗事件の現場です!」
レポーターの背後には壁に囲まれた豪邸が映っており、一部は破壊されている。白昼堂々とスキルを使って侵入したのだ。
金目の物を奪うだけでなく、運悪く家にいた家族も殺されている。体中が斬り刻まれており、深い怨みを感じる死体だった。
「犯人は山の奥に逃げ込んでおり、現在は警察が追跡をしていますが、まだ見つかっていないようです」
都市を少しでも離れるとモンスターが徘徊している危険なエリアとなる。無理をして調査すれば逆に被害が出てしまう。
警察などは複数のグループに分かれて慎重に山狩りをするしかなく、平和な時代よりも時間と費用がかかっていた。
「モンスターがウヨウヨしている山に逃げるねぇ。なんだかファンタジー小説に登場する山賊みたいだ」
家で一緒にテレビを見ている春がつぶやくと、烈火が激しく頷く。
どうやら二人とも同じことを思っていたようだ。
「公的機関だと討伐に金がかかりすぎるから、一部業務を民間に委託するとこまで似ているよね」
レベル持ちの犯罪者が逃亡するケースは増え、また公務員が負傷・死亡した際の手当を考えると、捕獲までの業務を探索者に委託したほうが良いと判断され、モンスターが住んでいるような僻地に逃げた場合は探索協会へ委託することも増えてきた。
逮捕権などないし、犯人を殺してはいけないといった制限はあるが、誰も見てないので抜け道もある。
例えば探索者が殺した後にモンスターに食べさせる、などだ。
証拠や証言はなく、また死体の損傷が激しければ死因の特定は難しくなるので、うっかり犯人を殺してしまった場合に使われることが多い。
「探索者は、モンスターだけじゃなく犯罪者も捕獲しろってこと? 仕事多すぎだろー!」
「それだけ世界が危険になっているんだよね。大学行くのやめて戦闘技術磨いた方がいいかも?」
学歴よりも戦闘経験。社会が個人に対して求めるスキルが移り変わっているのを、春は感じ取っていた。
世界情勢が不安定で五年、十年どころか一年後すらどうなるかわからない今、どういった技術を身に付けるか若い人ほど悩むことが多い。
時代が移り変わりゆくのを肌で感じながら、進学するべきか、それとも探索者として専念するべきか、決断する時間が近づいている。
「探索者の仕事はいつでも教えられるから、二人には大学へ行ってほしいと思うけど……」
弟を大学に行かせるため探索者となった正人は、進学にこだわっていた。
戦う力をつけてもらったが、かといって積極的に危険な場所に入ってほしくない。命を懸けるのは自分だけで良いという、思いが強いのだ。
春と烈火もそれは分かっている。
だから面と向かって否定せず、かといって肯定するのも難しいため、黙ってテレビを見続けることにした。
「山から人が戻ってきました! ケガをしているようです! あ、モンスターまで出てきました。逃げないと――」
この後、カメラが投げ捨てられてしまい地面だけを映してしまう。
悲鳴や怒号が響き渡り、レポーターの声が聞こえなくなる。
しばらくして静かになると、コンクリートの地面を赤く染める血がテレビに映し出された。
「……これってだれか死んだのかな?」
春の質問に誰も答えない。
正人はテレビの画面をじっと見ながら、どうか被害は最小であってくれと祈っていた。






