原因は分かっている
「早速だが、今日は内密に伝えたいことがあって来てもらった」
「なんでしょう?」
豪毅が数枚の写真がテーブルに置いた。
森林にモンスターが映っている。現在の日本だと特に珍しい光景ではない。
「今度は森にいるモンスターの退治が仕事でしょうか?」
大きな戦いが終わった直後だというのに、また新しい依頼がきたのかと勘違いしていた。
たまには他の探索者を使ってくれと、抗議の視線を送る。
副会長に対して強気な態度に出ているが、豪毅の機嫌は良い。笑顔を浮かべるほどである。
「これはアメリカ、ロシア、イタリアで撮影されたものだ」
「まさか大陸にもモンスターが!?」
予想していたとおりに驚いている正人たちを見て、豪毅は笑みを深める。
「これってピンチじゃないの!?」
ヒナタが驚きの声を上げていると、隣で里香が写真の一枚を手に取る。
鬱蒼と木々が生い茂る森の中に緑色の肌をした巨人がいた。肌は岩のような質感をしており、所々、苔も生えている。大きな口には牙があって鹿をくわえていた。
「日本にはいないモンスターですね」
「本当だ。里香ちゃん、名前は知ってる?」
「うーん。確かフォレストジャイアントだった気が……」
「正解だ。里香君は物知りだね」
控えめな音を出しながら豪毅が拍手した。
話を遮ったことに気づいた三人は軽く頭を下げる。
「気にはしてないよ。最近の若い子は元気があっていいねぇ」
軽く手を上げて問題ではないと伝えつつ、本題に戻る。
「大陸にもモンスターが地上進出したことは非公開になっているが、SNSで話題になるのも時間の問題だな。日本だけじゃなく世界中が牧場になる日が来るようだ」
世界中から馬鹿にされ続けてきたこともあって、豪毅は笑い声を上げて現状を楽しんでいた。
モンスターの襲撃によって街が滅び、多くの人が死ねば良い。
日本が味わった苦痛を世界も味わえ。
歪んだ憎しみが積み重なっていた。
「でも、どうしてモンスターが地上へ?」
ダンジョンは徹底的に管理されている。
特に日本が今のような現状になってからは特に厳しい。
国によっては一般人の立ち入りを禁止して、レベル持ちの軍人がモンスターと戦って素材を持ち帰る対策もしているほどだ。疑問に思うのも当然だろう。
「原因は分かっている」
「誰がやったんですか? もしかして自然災害で?」
今まで一度も発生したことはなかったが、災害によってダンジョンの内部が外に出てしまった、といった不測の事態が発生したのであれば納得できる。
しかし現代社会において自然災害よりも、もっと恐ろしいことがある。
それは――。
「原因はラオキア教の奴らだ。世界中に拠点があり、渋谷でやったことを人里離れた場所で行っている」
人間同士の対立、もしくは憎しみといった感情そのものだ。
表向きは権利の保障、平等などと言われているが、個人の努力では覆せない。見えない壁があるのだ。
それを乗り越えるのは不可能とまでは言わないが、生まれた場所、時代、才能、遺伝、性別、容姿、その他何かが優れている必要があり、さらに人生をなげうってチャレンジしなければいけない。
それも成功する確率は低い。
全てに恵まれなかった人、敗者となって再起不能な人、そんな人々が最後に求めるのは社会の変革である。
しかも政権が交代するレベルでは足りない。
世界中の常識が変わるぐらいの影響を求める。
だからだろうか、ラオキア教の信者は日本だけでなく世界中に広がっており、特に貧富の差が大きい国だと顕著であった。
「そんな危険な宗教を野放しにしていたんですか?」
「ずっと地下にもぐって誰も把握できてなかったのだ。表に出たのは最近らしい。知っていれば潰していた」
怒りよりも後悔が含まれた声だった。
それほど、豪毅はラオキア教の発見が遅れたことを悔やんでいるのだ。
「やつらの目的は現代社会の破壊だ。誰かに似ていると思わないか?」
「ユーリさんですね」
「そうだ。あいつと動きが似ている。ワシは裏でつながっているのではないかと睨んでいるのだが、どう思う?」
この場に正人を呼んだ理由の一つである。
ユーリとラオキア教とのつながりを確認したいため、両者との関わりが深い彼に聞いてみたのだ。
また日本最強の探索者が、実は裏切り者になる可能性があるかもしれないため、見極めるつもりである。
「行動は似ていますが目的は違うので、繋がってないと思います。もしくは関わっていても一時的かと」
「理由を教えてくれ」
「……言っても気分を害さないで欲しいのですが」
「大丈夫だ。約束しよう」
「では」
と、一呼吸置いてから正人は目を閉じユーリの思考をトレースしようと試みる。
「彼、武田ユーリは探索者として活躍し、仲間と出会えた。そのことを何よりも大切にする男です」
わかりにくい部分はあったが、彼は仲間に優しかった。
焼き肉を食べながら、正人にアドバイスしたこともある。そういった面倒見のよい一面もあったのだ。
決してユーリは言葉にしなかったが、態度から「探索者であれば、みんな仲間だ」と考えているように、見えていたのである。






