お前、俺の言葉がわかるのか?
「あの蛇、会話できる知能はあるが、賢くはないみたいだ。空を飛んだぐらいで逃げられると思うなよ」
――槍術。
――転移。
ワイバーンの頭上に移動すると槍を突き刺す。スキルの効果もあって鱗を容易に貫き、脳まで破壊された。
翼の動きが止まり、落下していく。
「なぜ、ここに!?」
驚愕している蛇人を見て、正人の心は冷めてしまった。
殺し合いをしているというのに、自分が殺されることを全く考えてないような顔をしているからだ。
安全な場所から一方的に攻撃できる優位な立場ではないことをわからせなければと、静かに殺意を高めている。
「なぜだろうな」
相手には伝わらないと分かって発言した正人だが、蛇人は日本語を理解していた。言葉が通じてしまう。
「お前、俺の言っていることがわかるのか?」
「それは私のセリフだ」
落下しながら槍を蛇人の頭に向けて突き出す。
また柄を握られそうになったので、『短距離瞬間移動』で背後に回った。
「学習能力がないやヤツだな」
槍が背中に突き刺さった。穂先は胸から突き出ている。
正人は蛇人を蹴って距離を取ると、空いた穴から緑色の血が吹き出た。
「許さねえぇぇ!!」
クルリと首を半回転させた蛇人が正人の姿を捉えた。口を開くと長い舌を伸ばして体に巻き付ける。
スキルを使って逃げることもできたが、正人はあえて捕まったのだ。
舌の力は強力で骨がミシミシとなっている。腕の力だけで抜け出すのは不可能だ。
「力が強いだけで、それ以外の能力はたいしたことないな」
「うるさい――ぎゃぁぁぁあああ!!」
突然、自慢の舌が紫の霧に包まれると消失した。
正人が『毒霧』を発動させて溶かしたのだ。痛みによって悶えている蛇人を槍で四肢を斬り落とす。
失った部位の再生には時間がかかるので、今回の戦いで回復はできないだろう。
「蛇だった頃の方が強かったんじゃないか?」
周囲の気温が一気に下がる。気のせいではない。『氷結結界』によって地面が凍り付いているのだ。
すぐにトドメを刺したい気持ちを抑えて、正人は目の前でしゃがむ。蛇人の顔を手で持ち上げた。
「お前達はどこから来た?」
「知らない……助けてくれ……」
正人は返事せずに蛇人の頭を掴んだまま立ち上がる。手足を失った体がブラブラと揺れていた。
「質問に答えたら考えてやる」
「こことは別の世界だ」
「どんなところだ?」
「人間を牧場で飼い、食うようなところで、我々は神だった」
「だから私たちを無力なエサだと思ったわけか」
家畜として飼われていたのであれば、蛇人たちに反抗するようなことはなかったはず。
安全な場所で大人まで成長させてもらえる代わりに、死ぬ年齢が決まっている。それが運命だ、なんて受け入れて、自由という言葉すら知らなかったんだろうと、正人はその世界にいる人々のことを想った。
「他の世界からも、こっちに来ているのか?」
「知らない……ガフッ」
隠したのかと思い、正人は腹を殴った。
重傷を負っているためダメージは大きい。蛇人は口から大量の血を吐き出した。
「ほ、本当だ。俺みたいな下っ端には何も教えてくれないんだ。もっと偉いヤツなら」
生き残りたいと強い感情が出ており、正人は本当のことを言っていると思う。
こいつから、何も情報が得られないと理解した。
「もう話せることはないと?」
「そうだ。もうない」
「では死ね」
――毒霧。
正人から紫色の霧が出てきた。威力を弱めたたため、すぐには蛇人の体は溶けない。
「なぜ……助けてくれるんじゃ?」
「お前は私を満足させるような情報を持っていなかった。予想できていた範囲だけ。約束を守る必要はないな」
「まって。他にも情報がある……」
「なら溶けて死ぬ前にしゃべるんだ」
「考えたいから攻撃を止めてくれ!」
蛇人の懇願を無視した正人は口を閉じたままだ。
スキルの発動を維持する。
「そ、そうだ。実はこの世界に来る方法は限られているんだ」
「ダンジョンを経由してきてるんだろ」
「知っていたのか!?」
「ダンジョンが発生する規則は知っているのか?」
「……知っている」
蛇の顔色なんて分からないが、真偽を確認しようとじっくりと観察する。
『尋問、取り調べが得意になる。嘘も見抜きやすくなる』
覚えたスキルを即座に発動させた。
視覚的な変化は一切ないが、正人は蛇人が嘘をついていると確信した。
先ほどのような曖昧な感覚ではない。
スキルと先ほどの言葉、どちらを信じるかなんて考えるまでもなく、『毒霧』の効果を高めて体を溶かす速度を速める。
「な……んで……」
神として崇められた自分が人間に殺されなければいけないのか。そんな疑問をもったまま蛇人は骨ごと溶けてしまう。
死体は残らなかった。
次の瞬間、周囲の景色が一気に変わる。
空は青く、コンクリートの地面がある。渋谷に戻ったのだ。
「皆と合流しないと」
地上に里香の姿は見えない。探すのは後回しにして、居場所が分かっている冷夏たちがいるであろう地下駐車場に向かって、正人は走りだした。






