うーーん。美味しい!
「大司教はどうやってスキルカードを手に入れた?」
ダンジョンで手に入る全ての物は探索協会が管理しており独占しているため、莫大な利益を生み出している。
特にスキルカードは世界的に供給が足りておらず欲しがる人は多いた。探索協会は徹底的に管理して、最大の利益が生み出せるよう販売する人を選んでいるのだ。
闇取引に関しては徹底的に監視しており、特に貴重なスキルカードはどんな手段を使ってでも探索協会が回収するように動いている。
そんな状況下において、大司教と呼ばれる存在がスキルカードを手に入れられたのだ。
マジックミラー越しに話を聞いている豪毅の受けた衝撃は大きかった。
「わかりません! 大司教の遣いと名乗った方にいただいただけなので!」
そんな説明では納得できない。尋問をしている男は伊月の顔面を殴る。
「嘘を言うな! 知っていることを全て話せ!」
「神様に嘘などつくはずはございませんッ!」
自白剤の影響で尋問している男を神だと錯覚している伊月は、真実しか語っていない。
だが、目の前の神は何を言っても信じてくれそうにない。
崇拝している存在に否定されることほど、辛いことはないだろう。絶望にも似た感情が伊月の心を締め付け、どうにかしたいという衝動に駆られる。
「我が命をもって真実だと証明いたしますッ!」
伊月は舌を思いっきりかみ切った。
躊躇など一切ないため血が吹き出てくる。切断までには至らなかったが、放置しすれば死ぬだろう。
当然の行動に理解が追いつかない。
尋問をしている男の動きは止まっている。
「何をしている! さっさと拘束を解け!」
「は、はい!」
スピーカーから豪毅の声が聞こえると、体がビクンと反応して動き出す。
尋問をしている男が縄を切っている間に、マジックミラー越しで様子を観察していた医者が慌てて席を立つ。
「ゴフッ、ガハッ」
伊月は口から血を流しながら咳き込んでいる。
拘束が緩んだ瞬間、立ち上がって尋問していた男に抱き付く。
「神よ! どうかこの地を破壊し、新しい世界を創造してください!」
最後の力を振尻彫り、叫びながら、もう一度舌を噛む。
今度はかみ切って切断できた。
短くなった舌が喉にピッタリと張り付き、呼吸ができない。
息苦しさを感じているのにもかかわらず、伊月は恍惚の笑みを浮かべている。
目の前にいる神が願いを叶えてくれると確信しているからだ。
涙や涎を垂れ流しながら痙攣し、そのまま命が消える。
「患者はどこですか!?」
尋問室のドアが開くと、全てが終わった後に医者が入る。
計画は中途半端な情報までしか引き出せず、探索協会は対応に追われることとなった。
* * *
授業が終わった後、冷夏、ヒナタ、烈火、春の四人は、渋谷のショッピングモールに来ている。
制服を着たままだ。
春が親交を深めようと誘って実現した買い物なので、特に目的はない。一通りの店を回ると飽きてしまった烈火を気づかってカフェに入る。
テーブル席に座ると、ケーキやジュースを楽しみながら学校での出来事を話し出した。
「冷夏とヒナタはすげー人気だよな。毎日、告白されてるって噂だぜ」
「烈火君もそんなこと言うの? 面倒なことばかりで、良いことなんて一つもないよ」
ストローから口を離した冷夏はため息を吐きながら言った。
うんざりとしている表情から、噂が本当だというのがわかる。
「みんなが褒めてくれるから、ヒナタはうれしいよー!」
「じゃあ、誰かと付き合うの?」
「今はお姉ちゃんや烈火君、春君と一緒に居る方が楽しいからいらないかなぁ」
冷夏の疑問にヒナタは素直に答えると、フォークでケーキ刺してパクリと食べた。
「うーーん。美味しい!」
恋愛には疎いため、近寄ってくる男よりも友達や家族の方が優先度は高い。
今日、告白された男のことなんか既に忘れていた。
「そうはいっても正直、モテるのは羨ましいぜ。なぁ、春の兄貴もそう思わねぇか?」
「全然」
あっさりと否定されてしまい、烈火は春も女子生徒から人気があることを思い出す。
この場にモテない人の気持ちが分かる存在はいない。
そう気づいた烈火は、椅子の背もたれに体重を預け、足を伸ばしてだらしのない姿勢になった。
誰が見ても拗ねていると感じられる態度だ。
冷夏は呆れながら話かける。
「言っておくけど、私とヒナタが告白されているのは有名な探索者、という理由だけだからね。恋人になればモンスターに守ってもらえるかもしれない、有名な女を彼女にしたい、そんな下心しかない男たちに言い寄られても嬉しくないよ。むしろ列火君のように無視されたいぐらい」
「いや、無視って……」
「でも事実だよね」
「うっ」
鋭い突っ込みに烈火は言葉が詰まる。
次は男どもに反撃だ。冷夏はターゲットを春に決めた。
「私たちの話はこのぐらいで良いでしょ。それより私は春君のモテ具合の方が気になるよ。いったい、何人の女の子に手を出したの?」
「それは何か勘違いされてません? 僕は女の子に手を出したことないですよ」
「嘘だぁ。転校したばかりの私ですら、何人もの女の子を泣かせたって噂を耳にしたいんだから」
半目になった冷夏が春を見る。
もし事実なら根性をたたき直すしかない、なんて考えていた。
「事実無根だよ。僕は特定の女性と付き合ったことはないんだから」
「え! 春の兄貴、それマジなの?」
「マジ、マジ。彼女なんて作ったら他の子と遊べなくなるからね」
「…………」
なんて贅沢な話なんだと思わずには居られない。少しは分けて欲しいと思いながら、烈火はまた黙り込んでしまった。






