お前が計画していることを全て話せ
教祖の捕獲と風華の死によって、村の占拠事件は終わった。
残っていたモンスターは正人の『索敵』スキルでほぼ全て発見され、殺されている。
安全の確保が確認できると探索協会に電話をして援軍を送ってもらい、教祖の引き渡し、未発見のダンジョンの調査などを頼む。
自宅に戻った影倉はすぐに撮影した映像を編集。数日後には探索協会の手によってインターネット及びテレビに映像が公開され、大きな反響となる。
『モンスターが一瞬で死んだんだけど! 探索者ってあんな動きできるの!?』
『探索者がいれば地上のモンスターは怖くない!』
『私も明日から探索者になる!』
『人間がモンスターの味方をするなんてあり得ない! 何考えているの!』
『人類に対するテロ行為だよ! 見つけたら通報しよう!』
探索者に好意的な意見が多く、また今回初めて発表されたラオキア教の存在に怒りを覚える人たちも出てくる。モンスターによって恐怖や苦しみを感じている人々の矛先が向くことになり、探索協会の批判は減っていく。
共通の敵を作ることによって、地上に出たモンスターを倒しきれない探索協会に対する否定的な意見を減らしたのだ。
影倉の映像は予定した通りに世論を動かせ、豪毅は満足していた。
* * *
探索協会本部の地下に、重要人物を監禁する部屋がある。
机と椅子しかない簡素な室内に教祖と呼ばれていた男――伊月がいた。ロープで足と腕を椅子に縛りつけられており、身動きが取れない状態だ。壁にはマジックミラーが取り付けられ、尋問をしている姿を豪毅を含めた探索協会のお偉方が監視している。
ガチャリとドアノブが回ると、一人の男性が入ってきた。
彼は伊月の前で立ち止まる。
「お前が計画していることを全て話せ」
村を調査した結果、モンスターを使ったテロ活動計画があると判明している。襲撃場所は都内の商業施設、日時は不明。モンスターを使う以上の情報は得られなかったので、伊月を尋問しようとしているのだ。
今日の午後には身柄を警察に引き渡さなければいけないため、すぐにでも情報を手に入れたい。
それはテロ活動を未然に防ぐという使命感で動いているわけではなく、テロ自体は起こしつつも被害を最小限に抑えることで、探索者と協会の評判を上げようとしてのだ。
テロを未然に防げなかったのは警察の責任、被害を抑えたのは探索協会の功績と見せるためにも、伊月の身柄は早めに警察へ渡したかった。
「断る」
正人との戦いを経て初心を思い出した伊月は、確固たる気持ちを以て拒否した。
「だったら喋りたくなるようにしてやるよ」
注射器を取り出した男は、伊月の服を破ると肩に突き刺す。液体を注入した。
これは探索協会がモンスターの素材を混ぜて作った自白剤である。違法ではあるが痕跡は残らないので調べても何も出てこない。
打たれた前後の記憶がなくなるため、伊月が訴えることは不可能だろう。
「何をした!?」
「ちょーーっと元気になるクスリだ。ハイになれるぜ」
「おまえ! なにを……」
自白剤の効果はすぐに発揮された。伊月の口からは涎が出て奇怪な笑い声を上げる。
「うひゃはやははは」
まともな判断ができないようにも見えるが、しばらくすれば落ち着く。自白剤を打った男は注射器をテーブルに置くと、伊月の正面に置かれた椅子へ座る。
「あはひゃひゃひゃ……」
笑い声を上げていた伊月が急に黙り込む。理性を取り戻したわけではない。ふわふわとした高揚感と目の前に居る男が神のごとく見える幻覚が出てきたのだ。
なんども自白剤を使ったことのある男は尋問の準備ができたと分かり、ようやく質問をした。
「お前たちのテロ計画について全を話せ」
神ごとき存在に言われてしまえば、伊月は拒否できない。
教祖という立場もあって、知っていることを全て話し出す。
「かしこまりましたッ!! 本日、渋谷のショッピングモールを襲う予定です!」
マジックミラー越しで話を聞いていた豪毅が立ち上がった。
まさかテロ活動が本日行われるとは、誰も予想していなかったのだ。
「時間は?」
「昼です! 二度も渋谷がモンスターに襲われれば、愚かな民衆も現代社会は脆いことに気づくことでしょうっ!!」
聞いてもないのに勝手に話すのは自白剤の影響だ。
神という存在に自らの存在をアピールするため、伊月は口を動かし続ける。
「風華が死んでモンスターは支配できておりませんが、モンスターを利用する方法はいくつもありますっ! 今回はビルの一室で教団を派遣して準備を進めております!」
「準備だと? そんなことでモンスターが呼び寄せられるのか?」
「はて? この方法は神様もご存じでは?」
「お前を試しているのだ。さっさと答えろ」
「はいッ! 召喚のスキルです! 大教祖がからいただいたスキルカードを手に入れて教団の一人に覚えさせました!」
スキルカードの中には危険すぎて覚えることすら禁止されているものがある。そのうちの一つが召喚のスキルだ。
これはモンスターをその場に呼び出すだけのスキルで、使役などはできない。使用者よりも強いモンスターが呼び出されるため、ほぼ間違いなく殺される。その後は、暴走したモンスターが暴れて被害が拡大してしまうのだ。
知能の高いモンスターが出てくるのであれば交渉の真似事ぐらいはできるだろうが、成功した事例はない。






