ユニークスキルですよ
「普通、炎の精霊に攻撃されたら消し炭になるんですがねぇ……」
楽しそうにしながら影と呼ばれた男が両手に持つ斧を構える。一方の風華は炎の精霊の背後に隠れて守ってもらう姿勢を見せていた。
彼女が武器を持っていなかった理由、それは戦う能力がないからだと察する。
素人が武器を持っても自分を傷つけてしまうケースもあるので、頼れる護衛がいるのであれば悪くない判断だ。
「なぜモンスターを従えられている? お前たちは何者だ?」
にらみ合っている間に呼吸を整えた正人が疑問をぶつけた。
この場ですべてを聞くことはできないので、どうしても知りたいことだけに絞っている。
「察しはついてるんじゃないですか。ユニークスキルですよ。そして我々は、そういった特殊な人材を作る組織、とでも思ってください」
「組織ではなく、宗教団体だろ?」
「……ほう。下調べはちゃんとしているようですね」
確信めいた言葉に、ごまかしはできないと判断して素直に認めた。
大した情報は与えてないだろうと影は思っているが、正人は探索協会の副会長が発していた言葉から正体に気づく。
「世界の破滅を願う宗教団体、それがお前たちの正体だ」
モンスターに現在の文明を破壊してもらいたい願うこと。それが彼らの生きる目的となっている。
恵まれない環境下で過ごし、将来に希望を見いだせない人々がお互いを慰めることで始まった集団だ。本来であれば社会のセーフティネットによって救われるべきではあったが、高齢化社会に伴い医療費や年金等が高まり財政が圧迫された結果、切り捨てられてしまう。どの世界でも最初に見捨てられるのは弱者なのだ。
未来に希望が持てず、力を持てない彼らは集団で自殺することも多かったが、たった一人の男の誕生によって風向きが変わる。
見捨てた社会を破壊し、新しい社会を創造せよ。
私たちには、その権利がある。
などと触れ回っていた。
モンスターが地上に出たことで、終末が近いかもしれないという空気感が醸成されていたこともあり、次々と信者を獲得。急成長している。
復讐のためであれば何でもする。そんな集団はユニークスキルを獲得するためなら犠牲になるのも厭わず、現在も世界を終わらせるために活動を続けている。
「あたりですが、だから何? という感じですねぇ。あなたじゃ我々は止められませんよ」
「そんなことない! 止めて見せる!」
今の生活が維持できるという希望を壊すのであれば、有名な探索者を殺した方が効率は良い。里香や冷夏、ヒナタ、そして正人は常に狙われ続けるだろう。だからこそこの場で仕留めたいと思い、正人は行動に移る。
――身体能力強化。
――格闘術。
――怪力。
――探検術。
レベル四にも匹敵するほどの強化を行い、正人は前に飛び出る。右に持つナイフで腹を突き刺そうとするが、斧に当たって止められてしまう。強い反発するような衝撃が手から腕、肩にまで伝わるが『怪力』『身体能力強化』の効果を最大限引き出し、耐える。その場に踏みとどまって、左手に持つナイフで腹を突き刺す。
ずぶりと皮膚を裂き、肉を突き破り、内臓にまで到達する。
防具を着けてなかったため抵抗なんてない。致命傷だ。
「ゴフッ……捕まえたよ」
血を吐き出しながら影と呼ばれた男は、持っていた斧を手放すと正人を抱きしめる。
「俺ごと焼き尽くしなさいッ!!」
動きを見て勝てないと悟り、共倒れを狙ったのだ。
瞬時に死ぬ覚悟を決めるなんて普通の精神をしていたら無理だ。破滅を願う宗教にハマっていたとしても同様だろう。死とはそれほど重く、恐ろしいのに、そこに悲痛さは感じない。死に対して興味が無いように見える。
「全力でやってっ!」
風華が命令を下すと炎の精霊が真っ白い火の玉を上空に作り出した。近づくだけで肉まで焼けるほどの高温である……が、それだけだ。先ほどのように『氷結結界』で防ぐこともできれば、『短距離瞬間移動』などで逃げることも可能だ。仮に追跡機能があっても『転移』で遠くに移動すればよい。相手は勝手に見失う。
要はこの程度の攻撃、正人一人であればなんとでもなる。
「死ぬのは怖くないのか?」
「もちろんですよ。あなたとは違って、俺は何度も蘇れますからねぇ」
「死者蘇生のスキル持ちなのか?」
「かもしれません、とだけ答えてあげましょう」
勝ちを確信しているのか、影と呼ばれた男はベラベラとしゃべる。
死者蘇生のスキルを思っているのであれば、里香たちを襲った犯人と同じ顔をしているのも納得できる部分もあるが、疑問は完全に解消はしていない。
もし生き返ったのであれば死体が消えているはずだ。
もしそうなったら探索協会から連絡はあっただろうから、死体は今も適切に保管されているはず。すると新しく肉――。
「消えてーーーっ!」
白い火の玉が落下してきたので、正人は思考を中断した。
――短距離瞬間移動。
数十メートル後方に移動すると、じゅわっと音が聞こえ、肉の焦げる臭いが漂ってくる。影と呼ばれた男は跡形もなく消えており、地面には小さなクレーターが発生してた。完全な自滅である。






