人を食べるモンスターが集まっているなんて危険すぎます
村には多種多様なモンスターが住んでいる。カメラにはトロールが三体、グリーンウルフは数十頭、その他ゴブリンの集団までが映っている。殺し合うことはなく共存しているように見えるが、だからといって仲が良いというわけでもなさそうだ。
先ほど正人たちが追跡していたトロールのように、グリーンウルフを飼っているような動きも見せているが、同じ種族同士での交流がほぼないのだ。ゴブリンは集団行動することによって外敵から身を守るタイプであるにもかかわらず、ほとんどが単独もしくは二~三の小グループで行動している。
そのことに気づいた影倉は正人に報告すると、肩から降りてドローンの映像を見せることにした。
「確かに。不思議な光景ですね。同じ場所にいるのにお互い距離がある。モンスターは本来こういった性格なんでしょうか?」
首をかしげながら里香が疑問を口にした。
答えは誰にも分からない。モンスターの生態研究は始まったばかりで、詳しい人がいないからだ。
ダンジョンから地上に出てさまざまな経験を経たモンスターがどのように進化するのか。その答えはもっと先の未来にある。
「モンスターの生態は学者に任せれば良いし、村をこのままにはできないのも確か。結局、私たちのやることは変わらないよ」
村を占拠された状態が続きモンスターが順調に増えてしまえば、周辺地域の被害はさらに拡大して、一般人も襲われることになるだろう。今なら数も少ない。被害が拡大する前の最後のチャンスかもしれないと、正人はうっすらと予感していた。
「正人さんの意見にワタシは賛成です。人を食べるモンスターが集まっているなんて危険すぎます」
口には出さなかったが、里香は一般の人たちがこの事実を知ったときの反応も心配していた。モンスターが単体もしくは少数のグループで襲ってくるだけでも大きな混乱が発生しているのに、村で共同生活しているとわかったら酷い拒否反応が出るだろう。
爆撃して山を焼き尽くしてでも殺せ。
なんて世論になるかもしれない。
一度、大きな引き金を引いてしまえば、二度目、三度目は軽くなるだろう。日本の至る所で爆撃が始まれば今の日常は戻ってこないかもしれないと、里香は危惧していた。
「じゃあ、どうするんですか? まさか二人だけで、あの数のモンスターと戦うつもりですか?」
たった二人で数十もいるモンスターと戦えるはずがない。しかも相手はトロールという強い個体までいるのだ。撤退して報告するべきだと、影倉は考えていて完全に怯えていた。
「もちろんです。トロールと戦うのは初めてですが、警戒するのが再生能力だけであれば何とかなりますよ」
自信ありげに言っている正人の姿を、影倉は信じられないという目で見ている。
探索協会との契約がなければ正人の言葉を無視して一人で逃げていた。だが今回の仕事は隼人に代わる新しいスターを作ることであり、探索協会から必ず成功させろと厳命されている。
途中で逃げ出してしまえば、影倉の人生は終わるほどの制裁が下るだろう。
「モンスターの相手は私がするので、影倉さんは里香さんの近くにいてください。大丈夫です。絶対に守りますから」
笑顔で言い放った正人の言葉を聞いて、影倉は少し思い直した。経験豊富な探索者が守ると断言するのであれば、信じるしかない。
現場のリーダーは正人である。
状況が撤退を許さないのであれば、覚悟を決めるしかないのだ。
不安を押し込めて影倉は笑顔を作る。
「……分かりました。私の命は正人さんと里香さんに預けます」
「ありがとうございます」
三人の意志と目的がまとまったので、正人は改めてドローンの映像を見る。
コントローラーに付いていた液晶は真っ暗になっていた。
「電池切れですか?」
追跡に時間をかけていたので、里香がそう思うのも不義ではないのだが、影倉が持ってきたドローンは魔石で動作する最新機種だ。数十分程度で電池切れしてしまう旧式とは全く違うのでありえない。
「あと一時間は動作するはずでした。電池切れはあり得ません。ドローンが故障したか、もしくは墜落したんだと思います。まぁ、故障したと考えるのは楽観的すぎでしょうね。モンスターが墜落させたと考えた方が良さそうです」
冷静に分析する影倉の話を途中まで聞いた正人は、直感が働いて空を見た。晴天だ。雲はなく空は青い。その中に黒い点が一つあり、急速に大きくなっている。
「鳥形のモンスターだッ! 私が戦う。里香さんは影倉さんを安全な場所に避難させて!」
「わかりました!」
指示を聞いた里香は素早く影倉を脇に抱えると、川辺を離れて近くにある雑木林へ入った。これによって上空からの視界を遮り、急降下による襲撃を防ぐことができる。
的確な判断だ。とっさの動きとしては悪くない。
これで影倉の安全は確保できたはずだったのだが、運が悪いことに里香はゴブリンの集団と出会ってしまった。
数は三匹と少ないのだが、そのうちの一匹は肌が黒色だ。通常は緑色の肌をしているため、特殊個体だと一目で分かった。






