最悪……
雑木林の中を当てもなく歩いている。訪れた場所は脳内マップに記録されていき、地図が作られていく。マーカーは浮かんでおらずモンスターどころか人すらいない。邪魔な枝をナイフで切り落とし、地面を注意深く観察しながら進んでいくが、足跡はなく、モンスターや動物の痕跡は見られない。
村が占拠されてからは立ち入り禁止となっているのに、モンスターが徘徊していないことに疑問を持つ。
もし近づいてくる人間を警戒して待ち受けているのであれば、正人はダンジョン産のモンスターと同じように扱ったら痛い目にあいそうだなと感じていた。
しばらく山の中を進んでいると、川の流れる音が聞こえてきた。
里香たちがいる場所へ戻る前に確認しようと思った正人は、進行方向を変えて歩く。しばらくして川が見えてきた。水深は成人男性の胸ぐらいまである。意外と深い。透明度は高く底にある小石も見えたが、遠くからでは川魚といった生物はいないように感じた。
「あれは……?」
川岸に人が浮かんでいた。服装からして女性の探索者であるみたいだが、詳細は分からない。なぜなら体は水分を吸収してパンパンに膨れ上がっており、また周辺にはハエが群がっていて詳しく見たくないからだ。
戦いに慣れているとはいえ、人の死体を見るのはつらい。
それがひどい状況であればなおさらである。
とはいえ、モンスターに殺された形跡は残っているかもしれない。正人はすぐに立ち去るようなことはせず、袖で口と鼻を押さえながら少しだけ死体との距離を縮めるが、肉の腐った臭いが漂てきたので足を止める。
これが限界だ。
先には進めない。
立ち止まって死体を眺めていると、違和感に気づいた。
手首にロープが残っているのだ。しかも絶対にほどけないよう、複雑に結ばれている。
ゴブリンといった普通のモンスターが地上に出て知恵をつけとはいっても、高度な技術を手に入れるほどではない。もしできるとしたら、それは元から高い知能を持つモンスター――階層のボスが付近に居ることになる。
力ではなく知能に長けたタイプであれば、正人たちは不意を突かれてやられる可能性もあるだろう。スキルがあっても扱うのは人間なので、いくらでも隙の作りようはあるのだから。
スマホを取り出すと死体の写真を撮影して、考察と合わせて谷口に送りつける。グロ注意などとは書いてなかったので、メッセージを開いた瞬間に驚くことになるのだが、正人には関係なかった。
来た道を戻って二人と合流した正人は、使っていたスキルを解除すると川で見たことを伝える。里香は悲しそうな顔をしていたが、影倉の方は好奇心を刺激されたようだ。映像に収めたいとしつこく迫ってくる。最初は断っていた正人だったが、「死体には慣れている。他にも新しい発見があるかもしれない」と言われてしまい、納得してしまった。
実際、高度な知能をもつ存在がかかわっているのであれば、少しでも手掛かりが欲しい。ただ日中に村までたどり着きたい正人としては、さほど時間はかけられない事情もある。
「ドローンで撮影しましょう」
影倉の体力を考えれば、直接行かせるわけにはいかない。時間がかかりすぎてしまう。一方のドローンであれば、十分もかからず現場に到着するだろう。バッテリーの予備は大量にあるので、ちょっとした探索ぐらいなら影響はない。
「わかりました。すぐに飛ばします」
影倉は登山リュックから小型のドローンを取り出した。
手のひらに収まるサイズで、本体にカメラが付いている。偵察用に開発されてたため、プロペラを回しても意外と静かだ。またコントローラーにモニターが付属していて、慣れていれば本体が見えなくても操作はできる。
地面に置いたドローンを宙に浮かすと、森林の中へ進ませることにした。
正人が余計な枝を切っていたこともあって、邪魔するものはない。コントローラーのモニターを見ながら移動させていると、トラブルなく川までついた。
死体の位置は変わっていない。
相変わらず、ぷかぷかと浮いている。
だが一点だけ違うことがあった。
緑の毛皮を持つ狼のモンスター――グリーンウルフが三頭もいたのだ。首には鎖がつながっていて灰色の巨人が持っている。体毛は一切なく、身長は五メートル近い。筋肉は盛り上がっていて腕力はありそうだ。全裸であるため股間にぶら下がっている大きなイチモツ も、ドローンのカメラが映してしまった。
「最悪……」
嫌悪感を隠すことなく、里香が吐き捨てるように言った。
興味ある異性であったら別だったと思うが、物心ついてから初めてみる男性器がモンスターのものだったのから、この反応・発言も仕方がないと言えるだろう。
「あのモンスターはオーガとは違う。巨人系ってどんな種類がいたっけ?」
「発見された数はそれほど多くありません。森に住むジャイアントフォレスト、再生力の高いトロールの二種類だけです。ドローンの映像を見る限り、川にいるのは後者の方だと思われます」
気まずい空気を換えるため、正人はあえて疑問を口に出した。影倉もすかさずモンスターの種類を言い当てる。無言で行われた男の連係プレーによって、意識はイチモツ からモンスターへと話題が移り変わっていく。






