出発しましょう
烈火たちが高校生活を堪能している一方で、正人と里香は探索協会から一つの依頼を受けていた。
内容は、群馬の山ある農村がモンスターに占拠されたので奪還しろ、というものだ。動物や人型系のモンスターが襲い、数時間で村を壊滅させてしまったため、住民は生きていない。逃げる間もなく食べられてしまう。
エサがなくなれば、モンスターは建物を破壊し尽くして村から去ってしまうのだが、今回は少し様子が異なる。建物を利用して生活しているのだ。
早期に解決しようと探索協会が人を派遣して調査したが誰も戻ってこない。持たせていたGPS発信器は占拠された村にあるが、移動していないので殺されたと判断している。
さらに何度か調査のために人を派遣しているが、ことごとく失敗していた。レベル二の探索者が同行しても、生きて帰ってこないのだ。いつからか、探索協会は占拠された場所を人食い村と呼ぶようになり、危険な地域と指定していた。
こんな話を聞いた当初、正人は危険なので引き受けるつもりはなかった。当然の反応だ。しかし探索協会から、日本最強の探索者と呼ばれるための実績作りだと言われてしまえば拒否できない。
ダンジョンを利用した侵略者に対抗する準備を進めるためにも、首を縦に振って依頼を受けることにした。
* * *
登山リュックに食料や水、着替、キャンプグッズを詰め込むと、正人と里香は探索協会の車に乗って、人食い山の麓に到着していた。同乗していた男――影倉は、食料の他にビデオカメラと小さいドローンを登山リュックに入れている。
彼はドローンによる偵察と、正人の活躍を映像に収める仕事を任されてた。
人食い山から生還した後、日本最強の探索者に相応しい編集をして、ネットに流す予定だ。大きな宣伝効果が見込めることだろう。
そんな重要なポジションにいる影倉であるが、出発する前から汗を流し、疲れた様子を見せている。
「ジメジメして暑いですねぇ」
夏だというのに、三人は迷彩柄の長袖と長ズボンをはいている。その上にアダマンタイト製のブレストアーマーやブーツ、ガントレットを着けているのだから、暑いのは当然だ。せめて半袖にしたいところではあるが、森の中で肌を晒せばケガや虫刺されなどが発生してしまうため、我慢するしかなかった。
「山の中に入れば少しは涼しくなるかもしれません。早めに移動しましょう」
登山リュックを地面に置いたまま、正人は二人を見る。
「隊列ですが、私が先頭で真ん中が影倉さん、最後尾を里香さんになります」
「私のドローンはどこで使います?」
「占拠された村が一望できる場所があるみたいなので、そこで使って下さい。目的地に着くまでは絶対に勝手な行動をしないように」
「もちろんですよ。お二人の指示に従います」
探索協会から厳しく言われていることもあって、影倉は絶対に勝手な行動はしない。自分は影になって全てを映像に収める。ただそれだけが仕事であるという意識があった。
「ワタシは後ろを警戒するだけで大丈夫ですか?」
「うん。あとは影倉さんが疲れてきたら教えて。休憩を取るから」
「任せて下さい」
レベル三の里香、そしてレベル四にまでなった正人と、レベル一しかない影倉とでは、そもそも体力に大きな違いが出ている。さらに日頃運動していないこともあって、影倉は同じペースで登山できるとは思われていないのだ。
荷物を確認してから正人たちは登山リュックを背負う。ずしりとした重みが肩にかかり、影倉は立っているだけでもきついなと感じる。
「出発しましょう」
宣言と共に三人は無言で山を登る。占拠された村には一車線の道路はあるが、モンスターがコンクリートを破壊し、大穴まで開けている。
さらにタイヤをパンクさせるためにスパイク状の罠を置いているため徒歩でしか進めない。現代社会は道が整備されている前提で移動手段を用意することが多いため、こういった妨害には意外と弱いのだ。
正人たちは瓦礫の山を乗り越え、穴を迂回して歩いて行く。夏の陽差しは木々によって少しは遮られて多少涼しくなったように感じるが、三人は汗をかいていた。険しい道を進んでいることもあって、いつもよりも多くの体力を消費しており、特に影倉は息が荒くなっていて体力が尽きる直前である。
「はぁ、はぁ、はぁ」
影倉の息が荒い。もみあげから流れ出た汗が、顎を伝って地面に落ちると黒い染みをつくった。歩いてきた道には汗の染みが点々と続いている。
喉が渇いたので首にぶら下げている水筒の蓋をあけた。ボタンを押して口に着けると、冷たい水が口内一杯に広がる。影倉はすぐに飲まず、ひんやりとした感触を堪能してから、先ずは半分飲み込む。喉から胃に落ちた瞬間、体内に吸収される感覚があった。
少しだけ体力は回復したような気がする。
口内に残っている残りも飲み込み、水筒をしまう。
再び前を見て進むが、先ほどよりも多くの汗が流れていく。水分を補給したことで汗が出やすくなってしまったのだ。
またしばらくの間、暑さに我慢して歩いていると、少し目眩がしてきた。顔が火照り、視界がぼけてくる。足元がおぼつかなくなった頃にやって、ようやく里香が声を発した。
「正人さん。休憩しましょう」
「まだそんなに進んでないよ?」
振り返りながら影倉を見る。一目で限界だというのがわかった。
体力の差に驚きながらも里香の提案を受け入れると決める。
「そこで休もう」
モンスターが道路を破壊して積み上がったコンクリートに座ると、影倉はうなだれた。話す気力なんてなく、体力を回復させるために目をつむった。
里香は真っ黒な片手剣をぶら下げながら、水筒の水を飲んでいる。
「ちょっと探索してくる」
体力が余っている正人は、道路から出て木々が生い茂る場所に進む。地面は斜めになっていて歩きにくいが、『索敵』と『マップ』のスキルを使いながら周囲を調べ始めることにした。






