私たちはここで待機!
「ナイスアシスト! 訓練の成果が出たね!」
ヒナタが明るく褒めると春は頭をかいて照れる。
「二人がゴブリンを引きつけてくれたおかげですよ。それより、ケガはありませんか?」
「ヒナタはないよー! 烈火君は?」
「少しだけ拳がいてーな」
言いながら手を見せると真っ赤に腫れていた。『怪力』のスキルを使って全力で殴ったのだから、魔力で体が強化されていても耐えられなかったのだ。骨は折れてはいないがヒビが入っている。
「大変! 保健室に行かないと!」
「後で正人の兄貴に治してもらうからいいよ。それよりも、この状況どーすんだ?」
ゴブリンの死体が五つ、警備員の老人が一人転がっている。血だまりができていて悲惨な状況だ。
「探索協会に電話するから、後処理は任せて!」
薄い胸をドンと叩いたヒナタは、スマホを取り出して谷口に電話をかけた。
春はゴブリンの死体を興味深く調べ始めたので、時間ができた烈火は校舎を見る。
窓には多くの生徒が集まっていた。全員がこちらを見て手を振っているので、返してみた。
「すごーーーい! 格好よかったよーーー!」
女子生徒から次々と褒め称える声が出た。今までは距離を取られるばかりだったのに。嫌な気分ではないが、クラスメイトの反応ががらりと変わってしまい、烈火は気持ちが追いついていない。
世界が変わったら評価も変わる。
当然の出来事ではあるのだが、まだ高校生でしかない烈火には驚きの連続であった。
「すぐに回収する人が来るってー! それまで、私たちはここで待機!」
谷口との会話の終わったヒナタが、二人に指示を出した。
素材を独占したい探索協会は、最近になってモンスターの素材回収を主目的としたチームを作ったのだ。彼らのおかげで学校を襲撃しようとしたゴブリンの処理は任せられる。警備員は、死体回収チームとは別に警察官が対応する。
状況を説明するために三人は待っていなければいけないのだが、ヒナタはどうしても冷夏のことが気になってしまう。
近い場所で二件もモンスターの襲撃事件が発生したのだから、予想外の問題が起こってないか心配しているのである。
――念話(限定)。
電話だと戦いを邪魔してしまうかもと思い、スキルを使った。すぐに冷夏と繋がる。
『どうしたの?』
脳内に響く声は普通だ。焦っている様子はない。気にしすぎていただけかとヒナタは安堵しながら返事をする。
『学校の方にもゴブリンの襲撃があったんだよ!』
『え、大丈夫!?』
『うん! 春君や烈火君が良い感じに動いて倒してくれたよ!』
『へー。すごい。訓練の効果が出たね』
『そうなのーー! 師匠として弟子の成長は嬉しいね! お姉ちゃんの方はどう?』
『オーガも倒したし、後は弱いモンスターしか残ってないから私は待機しているよ。ケガしてないから安心して……ごめん。ちょっとまって』
急に冷夏との念話が途絶えてしまう。
気になりつつも待ちながら周囲を見ると、ゴブリンの死体を調べている春、そして校舎を眺めている烈火をがいた。
遠くからはパトカーのサイレンが聞こえてくるので、もうすぐ警察や回収班がやってくるだろう。
『ごめん。お待たせ』
『お姉ちゃんどうしたの?』
『また別の場所でモンスターの襲撃があったみたい。次の現場に行って欲しいってお願いされちゃった』
『人使い荒いーーー! 他の探索者にお願いすれば良いのに!』
『仕方ないよ。都内のモンスター襲撃が増えているみたいだから、人が足りないんだってさ』
ここ数日のモンスター襲撃事件は、一か月前に比べて十倍ぐらいになっている。明らかに増えているのだ。
探索者を総動員すれば対処できる数なのではあるが、一時的な増加か、それとも今後も長く続く傾向なのかすらわかっていない。もし長期にわたり頻繁にモンスターの襲撃が発生するのであれば、探索者の数はすぐに足りなくなるだろう。
『だったらヒナタも手伝うよ』
『それはダメ。烈火君や春君が変な人に襲われるかもしれないでしょ』
『むーーーー!』
『ということで、私はもう一稼ぎしてくるから』
探索協会の依頼によってモンスターの退治に協力すると、臨時のボーナスが出る。大物を倒せばより大きな金額が出る設計になっていて、冷夏のように大物を優先的に倒す探索者にとっては非常に美味しい仕事だ。
近代兵器による援護もできるため、ダンジョンに比べて安全性もある。上位探索者の中には地上で戦うことばかりを選んで、ダンジョン探索をしない人たちもでるほどだ。
『ちゃんと二人を守るんだよ』
『はーーい』
念話がプツッと切れた。それと同時にパトカーとトラックが近くで止まる。
車から降りてきたのは、警察官に二名と黒いつなぎを着たモンスター回収の三名だ。
「こんちやーす。モンスターの死体回収に来ました。これ、探索協会からの指示書です」
明るい声で死体回収の男がヒナタに書類を見せた。探索協会のサインがあるので間違いなさそうである。
「確認しました! 後はお任せしますー!」
「うっす。お任せ下さい」
アイドルを見るような目をしていたモンスターの死体回収の人が現場に戻ると、部下に指示を出し始める。死体袋に詰め込んでいき、十分もせずにトラックへ積み込んでしまった。作業が終わると、次の現場へ向かうためすぐに去ってしまう。
春の方は警察官に事情を説明していて現場検証は進んでいる。
午後の授業が終わるまでには全ての作業が無事に終わった。






