モンスターの種類はわかりますか?
「烈火も避難できたことだし、そろそろ消えてもらうよ」
初めて遭遇したモンスターであるため警戒していた正人だったが、生徒の安全が確保できたので反撃すると決めた。ナイフを二本取り出して左右の手で持つ。
――身体能力強化。
――短剣術。
狭い教室を走り、敵に近づく。三つ足の鳥は羽を動かして距離を取ろうとしたが、烈火の投げた椅子が邪魔をして僅かに動きが鈍ってしまう。
正人に対して致命的な隙を見せてしまったのだ。
刃を通さないと言われている柔軟性の高い羽毛ではあったが、スキルの前では無力である。淡く光るナイフを横に振るうと、三つ足の鳥の首を切断した。
ぼとりと頭が落ち、血が噴き出して体が倒れる。黒い霧になって消えることはない。実体が残っていることから、外で繁殖して産まれた個体だと分かる。
――索敵。
脳内にマーカーが浮かぶ。全て青い。モンスターがいないことを確認した正人はスマホを取り出して、探索協会職員の谷口に電話をした。
「今、どこにいるんですか!?」
二人で打ち合わせをしていた最中に正人は『転移』のスキルを使用して、谷口の前から姿を消していた。このような反応も無理はないだろう。
「弟が通っている学校に、モンスターが襲撃していると報告があったんで駆けつけました」
「それは……」
打ち合わせより家族の安全の方が優先度は高い、というのは谷口でも分かる。探索協会からは最上級のおもてなしをしろと命令されていることもあって、これ以上文句は言えない。
世界で最も多くのスキルを使いこなす才能といい、探索協会、そして日本から逃げ出さないように囲い込みたいという、老人達の思惑もある。隼人亡き今、正人の重要度は高まるばかりであった。
「モンスターの種類はわかりますか?」
「三つ足の鳥でした」
「八咫烏ですか。確か九州のダンジョンに生息していたはずなんですが」
また新しい種類のモンスターが地上に出てきた。
ここ最近、増えている。
ダンジョンの入り口を警戒してもモンスターを外に持ち出す犯人は見つけられない。とはいって、エネルギー資源となっている魔石の供給は止められないので、ダンジョンの封鎖は不可能。
組織としての管理能力を疑われる日々が続き、探索協会の上層部の人間は何人も首が飛んでいた。
「倒したんですよね? 実体は残っていますか?」
「残っています。持ち帰りましょうか」
「お願いします。羽毛は防具や寝具にも使えるんですよ」
八咫烏の羽毛は防刃性が高く軽いため、丈夫な防具を作る際に使われることがある。また羽毛としても性能が高いので、掛け布団にも使われる非常に人気の高い素材だ。
今まではダンジョンで倒した際に一定の確率でドロップするのを祈るだけであったが、実体が残っているのであれば必ず手に入れられる。
モンスターが地上に出て悪いことばかり起こっているように見えるが、素材が採取しやすくなったという点だけみれば、非常に改善されている。
「お金はいただけるんですよね?」
「当たり前じゃないですか。適正価格で素材を買い取らせてもらいますよ」
と、笑って返事している谷口ではあるが、無名の探索者であれば値切りの交渉が入っただろう。買取先が探索協会しかないため多くの人々は断れない。こうやって地味だが効果的な搾取は現在も続き、日本が混乱している状況でも体質は変わってないのだ。
大きな利権の前では、上が一人、二人交代したぐらいでは何も変わらない。もっと抜本的な変化が求められていた。
「よろしくお願いします」
通話を切ると今度は烈火に電話をする。
すぐに繋がった。
「無事か!」
第一声が兄を心配する声だった。荒っぽい言葉ではあるが他人を思いやれる優しい性格だと感じ、正人は自然と笑みがこぼれる。
「もちろんだよ。ちゃんと無傷で倒した」
先ほどの通話とは表情や声色は全く違う。親しい人にだけに見せる態度だ。
「さすがだぜ!」
「状況を説明したいから先生を呼んでくれないかな?」
「任せてくれ!」
烈火の声がしなくなると、雑音が聞こえるようになった。すすり泣く声や叫び声、罵声まで正人の耳に届く。混沌としている状況がはっきりと伝わった。
「お電話代わりました。私は烈火君の担任をしている河野です。正人さんでしょうか?」
「はい。兄の正人です。探索者をしていて、先ほど教室で暴れていたモンスターを退治しました」
「ほんとうですかッ!!」
担任の河野も探索協会襲撃事件の映像は見ていて正人の存在は知っている。あの人なら嘘はないだろうと簡単に信じてしまった。
「一応、証拠の写真を送ります」
自分が説明し回るよりも河野が証拠を見せた方が早いだろうと思い、正人はスマホで写真を八咫烏の死体を撮影してから送った。
「死体は私が回収するので、他の先生や生徒にモンスターは倒されたと報告してもらえますか?」
「もちろんです! すぐに対応します!」
「お願いしますよ」
最後に念押しをしてから通話を終了させた正人は、八咫烏の体と頭を手に持つ。もう一度『探索』スキルを使って赤いマーカーが周囲に存在しないと確認してから、『転移』してその場から消えたのだった。






