烈火君は!?
「みんな! まとまって行動しろッ!」
体育の教師が生徒に指示を出しているが、誰も話を聞いていない。校舎には入れないと諦めて、倉庫や体育館、または学校外へ逃げる生徒も出るほどだ。モンスターの襲撃に対する避難訓練なんて誰も受けたことがないので、適切な行動ができないのである。
「カァッ!!」
三つ足の鳥は口を開くと黒い塊を吐き出す。校舎に当たると壁を溶かしてしまい、烈火の教室に大穴が空いた。建物に入れば安心だと思っていた生徒たちは驚き、逃げ出す。
「どこに行けばいいんだよ!?」
「地下だ! 地下!」
「学校にそんな場所ねーよ!」
烈火のクラスメイトたちは教室から逃げていくが、一人の女生徒が転倒してしまう。運が悪く足をくじいてしまい立ち上がれない。
「た、助けて……」
生徒想いと言われている優しい教師や女性に優しいと評判の男子生徒、友人達は、声を聞いても止まらない。我先にと教室から逃げ出してしまう。
一人になった女生徒は絶望した顔をしながら、ゆっくりと首を動かして外を見た。
「ひぃ」
自らが開けた穴に、三つ足の鳥が立っていたのだ。目が合ってしまい動けない。殺されると感じて、目を閉じてしまった。
「てめぇの相手は俺だッ!!」
誰もいないはずの教室で男の声がした。女生徒がゆっくりと目を開くと、三つ足の鳥に椅子を投げている烈火の姿が視界に入った。
探索者でもない一般人に攻撃されても、三つ足の鳥にダメージは与えられない。椅子が当たる直前に、薄い膜が出て攻撃を弾いているのだ。
攻撃しても効果はないと判断し、即座に作戦を変更。烈火は倒れている女生徒の近くに立つ。
「烈火君!」
助けに来てくれた。それだけのことで、嬉しさと安堵を感じた女生徒は涙を目に溜めながら名前を呼んだ。
「大丈夫か?」
「うん」
「えーっと、お前は……葵だっけ」
「うん。覚えてくれてありがとう」
「それはこっちの方だって、それどこじゃねぇ! 立てるか?」
異性に存在を覚えてもらっていたことが嬉しく笑顔を浮かべた烈火であるが、すぐに危機的な状況だというのを思い出し、手を差し伸べた。
「ごめんなさい。足が……」
ケガをしていると気づいた烈火は覚悟を決める。
「俺が時間を稼ぐから、這いつくばってでも逃げるんだ」
腕なら動かせるだろ。そんな乱暴なアイデアを伝えると、机を盾のようにして持つ。コンクリート壁を一瞬で融解させた相手だと紙と似たような防御力しかないが、ないよりかはマシだろう。
「烈火君は!?」
「俺なら大丈夫だ! 今は自分のことだけを考えろッ!!」
見捨てることに抵抗感を覚えた葵に叱咤すると、机を持ちながら近くにある椅子を何度も三つ足の鳥に投げる。全て弾かれてしまった。
「カァ、カァ!!」
楽しそうに鳴いている。獲物が必死にあがいている姿を見て優越感に浸っているのだ。
食べるためではなく、人を殺すという本能に従って行動しているため、こういった態度をすることも珍しくはない。
三つ足の鳥が口を大きく開くと、黒い塊を吐き出す。机を盾にしたがすぐに溶解してしまい。烈火の腕や体を焼く。肌はドロドロに溶けて筋肉や酷い場所では骨まで見えてしまう。
肉の焼ける匂いが教室中に広がり、葵は恐怖で顔が引きつっていた。
「ぐっ」
想像を絶する痛みに気を失ってしまいそうだが、烈火は悲鳴を上げず、歯を食いしばって意識をしっかりと保っていた。
後ろにいる葵を不安がらせるわけにはいかないからだ。
「烈火君……」
「俺なら大丈夫だ。早く逃げろッ!」
似たような言動を繰り返しているため飽きてしまった三つ足の鳥が、また口を大きく開いた。今度は連発するつもりで、烈火だけでなく葵まで殺そうとしている。
さっさと処分して逃げた学生を襲おう、なんてことまで考えていたのだが、本能が危機を感じ取って動きが止まる。
「よく頑張ったな」
教室に正人が出現した。『転移』のスキルを使って駆けつけたのだ。ボロボロの烈火に近づくとスキルを発動させる。
――復元。
筋肉や皮膚が、攻撃される前の状態に戻った。
三つ足の鳥が黒い塊を吐き出すと、正人は『自動浮遊盾』を出現させて防ぐ。
「すごい……」
コンクリートを溶かすほどの威力がある攻撃を完全に止めた。
そんな光景を見て、葵は思わずつぶやいたのだ。
「烈火、彼女を運んで避難できるか?」
「もちろんだ」
振り向いた正人の顔を見て、葵は探索協会襲撃事件を解決した探索者だと気づく。
ネット上では英雄なんて言われている存在で、自分とは縁がないと思っていた雲の上にいるような人だ。
そのような人が烈火と仲よさそうに話している。それが不思議で仕方なかった。
「あの人と知り合いなの?」
背負われて廊下にまで出ると、葵は烈火に聞いた。
「知り合いというか、なんというか……」
恥ずかしそうに言い淀んでいる。
烈火のことを乱暴で怒りっぽく怖い人だと思っていた葵は、意外な一面を見てくすりと笑う。
「笑うなよ」
乱暴な口ぶりではあるが、身を挺して他人を守る優しさがあると知っているので、もう怖くない。
「じゃあ、教えてよ」
「……俺の兄貴だよ」
「え、すごっ」
まさか家族だと思っていなかった葵は、素で驚いていた。
正人のことは誇らしい。褒めてもらえれば烈火も嬉しくなる。
だからこそ、周囲の評価は自分に向けたものではない、勘違いしてはいけないと、自分に言い聞かせながら、体育館に向けて走っていた。






