油断するな! まだ残っている!
姿は見えないが付近にいるかもしれないと、正人たちは警戒をしている。
「お前の相手は、俺だ」
黒い仮面をかぶった川戸が『エネルギーボルト』を放ったので、横に飛んで回避する。正人は電柱の影に隠れると、蓮たちが一斉に拳銃を構え、撃った。
不意打ちではあったが半透明の盾に阻まれてしまい失敗する。しかし蓮たちは諦めない。何度も発砲を続けていた。
――水弾。
すべての銃弾は半透明の盾が受け止めており、正人が放った水球は防げない。
川戸は他のスキルを発動させて迎撃することも出来たが、あえて回避を選ぶ。横に飛んでやりすごし、立ち上がろうとしたら、背中に白い羽を生やした宮沢愛が突進してくる姿を捉えた。
全身が淡く光っている。『突進』のスキルを使っているのだ。
立ち上がっている途中なので川戸は動けない。蓮が率いる探索者の銃撃によって『自動浮遊盾』も動かせない。絶体絶命とはこのこと。待っているのは死だけであったが、諦めた様子はない。
――投擲術。
赤い槍が急に現れ、宮沢愛の横っ腹に突き刺さる。ユーリは『透明化』のスキルを使って姿を隠し、逃げたように見せかけて致命的な一撃を放ったのだ。
「逃げたはずでは……?」
蓮が連れてきた探索者は驚いて、銃撃を止めてしまった。
「おいおい。お前たち。まさか敵の言葉を信じたのかよ」
馬鹿にするように笑っている。ユーリは絶対的な強者だと見せつけるため、挑発しているのだ。
――短距離瞬間移動。
よそ見をしているユーリの背後に移動した正人が、ナイフを突き出す。川戸は気づくのが遅れて助けは間に合わない。吸い込まれるようにして腹に突き刺さった。
「ゴフッ、ガフッ」
仮面の隙間から大量の血が吹き出た。手応えはあるが、正人はこの程度で殺せるとは思っていない。回復系のスキルで治してしまうだろうと予想して、攻撃を続ける。
――投擲術。
持っているナイフを川戸に投げて動きを止める。
――格闘術。
――身体能力強化。
接近戦のスキルを発動させるとユーリの腹や頭を殴り、半歩下がってから左足を軸にして半回転し、かかとをこめかみに当てる。
勢いを殺すことなんて出来ず、ユーリは横に吹き飛ぶと道路を転がり、生け垣に当たって止まる。
意識は失っているのか立ち上がる気配はない。
「すげぇ! 勝った!!」
「油断するな! まだ残っている!」
正人の警告は少し遅かった。川戸はカーキー色をした円柱形の筒を二つ取り出すと、安全ピンを抜いてレバーを強く握る。赤い発煙が広がり、周囲にいる人の視界を奪った。
――探索。
脳内に青いマーカーが浮かぶ。
ユーリに近づいた川戸の存在までは把握できたが、捕まえに行こうと動き出す前に二人のマーカーが消えた。
「逃げた?」
重傷を負ったユーリがいる。今度こそ逃げ出したと思った正人だが、裏をかかれる可能性は捨てきれない。視界の悪い状況だからこそ、不意打ちを狙って攻撃してくるかもしれないと警戒し、下手に動けないでいた。
「ゴホッ、ゴホ」
近くから咳き込んでいる声が聞こえた。マーカーの位置からして蓮、もしくは他の探索者だ。ユーリや川戸ではなさそうだ。『自動浮遊盾』まで出して警戒していたが、赤い煙が消えても二人は姿を現すことなかった。
「どうやら、今度こそ逃げたみたいだな」
左右を見ながら蓮が近づいてきた。
正人も同様の判断を下し、警戒を少し解く。
「ありがとうございます。助かりました」
「市民の通報とお前の通話があったから、あのクソ野郎どもを撃退できたんだ。俺の方こそ礼を言わせてくれ」
モンスターの襲撃にあわせて出現したユーリは、今回の事件と無関係だとは考えていない。裏で何かがつながっていると予想していた蓮は、直接戦う機会を作ってくれた正人に感謝していた。
「それより、あの女、どうするよ」
赤い短槍が突き刺さったまま、宮沢愛は倒れていた。血は流れ続けており、痛みによって苦しみの声を上げている。
「回復系のスキルを持っている方は?」
「いない。病院に連れて行くか」
血が流れすぎていて医者に診せても助けられるか怪しい。蓮の判断は見捨てると宣言したのに等しかった。
「私が何とかします」
「おい、なんとかって……」
蓮が止めようとするが正人は足を止めない。倒れている愛の側につくとしゃがんで様子を見る。
血と汗で顔を汚しており、短槍が刺さったあたりの皮膚が紫色に変色していた。
「毒か?」
スキルはあるが、呪いは存在しない。
変色している原因は毒だ。
「助けて……仇を討つまで……死ねない……」
顔をゆがめながら、アイドルらしくない言葉を放つ。強い恨みを感じ、誰が見ても死んだ隼人と深い関係だったとわかる。
憧れの女性に男がいた。願いは叶わないとわかっていたが、正人はこっそりとショックを受けていた。
「大丈夫です。愛さんは死にません」
手を握ると冷たかった。時間はあまり残されていない。
――復元。
ものをあるべき姿に戻すというスキルの効果が発揮する。腹から短槍が抜けて変色した肌がきれいになる。穴も塞がり、失った血も戻った。
「すげぇ……」
傷と毒の両方を瞬時に戻す驚異的な力を目の当たりにして、探索者たちは感嘆の声を上げていた。
今、目撃したことは噂として広がり、多くの人が知ることになるだろう。しかも有名人である宮沢愛を助けたとなれば、一日もかからず拡散される。
もう誰も、正人のことは無視できない。
英雄への階段を上り始めたのだった。






