だとしたら?
「これは便利なスキルだな」
白いアラクネが残したスキルは『アラクネの糸』。粘り気の強い糸を網目状など、自由な形に放出して相手を捕獲、もしくは足止めに使える補助系の能力だ。敵の多いユーリには使いどころが多いだろう。
「横取りですか。探索者としてのプライドはなくなったんですか?」
「そんなもん。とうの昔に捨てたよ」
モンスターを日本中に放った犯人であるユーリと対峙していることもあり、正人の警戒心は高いままだ。会話をしながら魔力を回復させつつ、投げ捨てていたナイフの位置を確認する。
目測で一メートルの距離だ。今の正人なら拾い、投げるアクションを二秒で行えるだろう。
「警戒するなって。俺とお前との仲だろ?」
「そう思うのであれば、私の質問に答えてください」
「言えることなら何でも答えよう」
「あなたは、モンスターによる探索協会襲撃事件に関わっていますか?」
正人の質問を聞いて口角を上げた。
「だとしたら?」
人々、そして弟の安全を脅かすようなことをしたユーリを許せるはずがない。しかも反省しているどころか、さらなる混沌を求めているようにも見える。この場で倒さなければ大きな被害が出てしまうかもしれないと、正人は直感していた。
緊張感が高まるこのタイミングで、ブルブルと正人のスマホが震える。
「俺は何もしない。出ても良いぞ」
持っていた赤い短槍を道路に突き刺すと、ユーリは両手を挙げた。
攻撃する意思はないとポーズをとったのだ。
スマホはずっと震え続けている。すぐには切れない。何か重要な連絡だと思った正人は、ポケットから取り出して電話に出た。
「正人さん! その人、道明寺隼人さんを殺しました! 気をつけてください!」
声の主は里香だ。ビルの中から配信している人の映像を見て、電話をかけてきたのである。
「本当に殺したの?」
「ジュンジュンの配信で確認しました。目撃者は数十万人います! それと恐らくですが、転移系のスキルを覚えている仲間がいます。気をつけてください」
「わかった。ありがとう」
短く返事をしてから通話終了ボタンをタップした。
スマホをしまいながらユーリに話しかける。
「道明寺隼人さんを殺したんですね」
「俺が求める世界に不要な男だからな」
「ずいぶんと自分勝手な発言だ」
「他人に気をつかっていたら、求める世界は手に入らない」
「人の命を消費してでも手に入れたいんですか?」
「当然だろ。やられていたことを、やり返しただけなんだから」
本当に、本当に楽しそうにしながら笑うユーリを見て、正人は説得を諦めた。
一緒にダンジョンを探索してモンスターと戦った仲ではあるが、今は進むべき道が全く違う。お互いに相容れない存在なのだと嫌でも理解してしまった。
ユーリを野放しにすれば多くの人が死んでいく。言葉では止められない。であれば、とるべき手段は一つしかなかった。
――エネルギーボルト。
正人は十本以上の光る矢を放つと同時に走り出した。道路に落ちている二本のナイフを拾うとユーリの姿を見る。
立っている位置は変わっていない。光る矢は『アラクネの糸』で作られたネットに捕らえられてしまい、失速して道路に落ちる。すぐに実体を維持できなくなり、消えてなくなった。
「面倒なスキルですね」
糸を自由に扱えるのであれば、防御だけでなく罠にも使える。『短槍術』のように、用途が限定されたスキルとは違って応用力が高いのだ。
「お前と会わない間にレベルアップもして、俺はさらに強くなった。知り合いのよしみで見逃してやろうか?」
「お断りします」
――ファイヤーボール。
返事をすると共に火球を放った。アラクネの糸を出したとしても焼き切れるだろうと考えての選択である。ユーリの近くで爆発したので続けてスキルを使った。
――短距離瞬間移動。
――隠密。
瞬間移動をして車の影に隠れた正人は気配を消し、爆発した場所を見る。煙が晴れると無傷のユーリが立っていた。道路に突き刺していたはずの短槍は少し離れた場所で転がっている。
状況からして、ユーリが『投擲術』のスキルを使い短槍を投げ、『ファイヤーボール』を迎撃したのだと判断した。
「隠れんぼか?」
ゆっくりとユーリは歩き、落ちている短槍を拾う。警戒心が高く奇襲をしかけても失敗する可能性が高いため、正人は動けない。
「お前がどこまで強くなったのか確かめたかったんだが、つまらんな」
話ながらユーリは車の破片を拾い、続いて顔を上げてビルを見ると『投擲術』を発動させて投げた。
コンクリートの壁に衝突すると爆発したような音がする。貫通してビルの内部まで破壊し、離れた場所にいる正人からも悲鳴が聞こえた。
建物に避難している人々に当たってしまいそうになったのだ。
「暇だから隠れている正人を探してやる。どこに居るんだ?」
また車の破片を投げてビルに当てる。正人を探していると言っているが、実際は無力な一般人を攻撃しておびき出そうとしているのだ。
飛び出してはいけないと分かりつつも、正人の我慢は続かない。限界が訪れようとしていた。






