手を使っても良いか?
苛立った白いアラクネは正人に向かって叫んだ。自然と腕に力が入ってしまい、若い女性の首がさらに絞まる。正人は命令に従いゆっくりと膝をつこうとして、
「おっと!」
バランスを崩してしまい倒れてしまった。無理して起き上がろうとはせず、黙って白いアラクネの指示を待つ。
「カラダヲ、オコセ!」
「手を使っても良いか?」
「イイカラ、サッサトシロッ!」
ゆっくりと腕を動かして体を上げる。
ようやく両手を挙げ、膝をついた状態になった。
「この後はどうすれば良い?」
返事の代わりに白いアラクネから糸が出され、正人の体に巻き付く。顔まで覆われていまい、目や口が塞がる。
時間を稼ぐ努力はしたが誰もこなかった。通報を受けて探索者を派遣しているが、一分、二分程度では間に合わなかったのである。正人は最初の作戦が失敗したと察し、次の作戦を結構する。
——ファイヤーボール。
次の瞬間、白い糸で簀巻きにされていた正人が燃えあがる。アラクネの糸は熱に弱く、すぐに焼け落ちてしまった。
――水弾。
上空に水球が浮かぶと正人に向けて落下する。じゅわっと、水蒸気が発生して炎は消える。アラクネの糸は燃えて消滅していた。
目まぐるしく状況が変化し、白いアラクネは理解が追い付かず、動けない。高い知能を得てからの経験が浅いため、とっさの判断ができなかったのだ。
——短距離瞬間移動。
——短剣術。
続けてスキルを使い、正人は白いアラクネの背後に転移すると、ナイフを振り上げる。若い女性を抱えていた腕が切断された。
「きゃっ」
道路へ落ちる前に正人が抱きしめてから、後ろに下がる。
「ケガはない?」
「はい~~」
少し間が抜けた声だったが、無事であることは伝わった。
ようやく落ち着きを取り戻した白いアラクネは、多くのスキルを発動させても平然としている正人に対して怯えていた。本能が絶対に勝てないとささやく。
「俺が守るから、先に逃げて」
首を縦に何度も降ってから若い女性は道玄坂を下っていく。見送ることはせず、正人はまっすぐ白いアラクネを見た。
「待たせたな」
「………………」
もう逃がさないと意志をこめ、黙り続けている白いアラクネを鋭く睨みつけると、スキルをさらに発動させる。
――身体能力強化。
――格闘術。
――怪力。
気迫に押されて逃げ出そうとする白いアラクネは、糸を吐き出してビルの壁に付着させる。糸が縮まる力を利用して宙に浮いた。
――短距離瞬間移動。
正人が白いアラクネの下半身に乗った。
「逃がさないッ!」
背後から腕を伸ばして首を絞める。骨を折るつもりで力を入れていたが、ビルの壁に叩きつけられてしまった。意識が飛びそうになったが腕の力だけは緩めない。振り落とされないように正人はしがみつく。
「ハナレロ!」
ビルの壁を蹴って跳躍しているが、正人は離れない。ビルの屋上にまでつくと逃げるのをやめて、白いアラクネは叫ぶ。単独では倒せないので仲間を呼んだのだ。
「ピーーーーッ」
上空からハーピーが急降下してきた。逃げなければ歌によって状態異常が引き起こされてしまう。耳を塞げば耐えられるかも入れないが、白いアラクネが自由に動けるようになってしまうため、守りには入れない。
迎撃するか悩んだ正人は、いくつか取れる選択肢の内、確実に殺せる方法を選ぶ。
――短距離瞬間移動。
上空に移動した。眼下には渋谷の街が広がっている。屋上には取り残された白いアラクネがいた。
――エネルギーボルト。
ターゲットを見失って、滞空しているハーピーに向けてスキルを放つ。
いくつもの光の矢がハーピーを貫く。体や羽、頭に穴を開けて落下していった。続いて正人は白いアラクネを狙う。
マシンガンのごとく光の矢が放たれると、次々と白いアラクネに穴が空いていく。自己回復しても攻撃は止まらない。
魔力の総量が上がった正人と我慢比べをするが、白いアラクネの方が先に魔力が尽きてしまう。再生できなくなってしまったのだ。
「ニンゲン、キライ、ミンナ、シネバヨカッタ!!」
怨嗟とともに血をまき散らしながら転落し、車の上に落下した。
高所から落ちたのだ。常識的に考えれば死んでいるはずなのだが、確認はしなければいけないだろう。
――短距離瞬間移動。
屋上に衝突する直前でスキルを発動し、正人は地上に降り立った。スキルの連発で魔力が大きく減っており、少しフラつきながらも破壊された車を見る。
白いアラクネの姿はなく、大きな魔石、スキルカードだけがあった。
ダンジョンで生まれたモンスターであるため肉体は持たず、死亡と同時に黒い靄が発生して消えたのである。
「ドロップ品を取りに行かないと」
なぜダンジョンから出てきたのかは、後で調べれば良いことだ。スキルカードが他の人の手に渡らないよう、早く拾う必要があるだろう。
足を一歩踏み出すと、正人は声をかけられる。
「勝ったみたいだな」
先ほどまで誰もいなかったはずなのに、仮面をかぶったユーリがいた。手には白いアラクネの残したスキルカードがある。
「俺が倒したんですから、返してください」
「探索者のルールとして当然の要求だな」
「では……」
「断る。俺は探索者をやめたからルールに従う必要はない。そうだろ?」
手に持っていたスキルカードが消えた。ユーリが使用して覚えてしまったのである。






