必ず人類を滅亡させる
「目標の一つを達成だな」
隼人の死体を見ながらユーリは嗤っている。
組織のトップを殺し回っても次が生まれるだけ。探索協会が作り上げてきた仕組みを徹底的に破壊するためには、関係者を殺し回るだけではなく、その後も考えて動き続けなければいけない。
地上にモンスターが進出て人々の意識が変わり、探索協会を潰す。その先に彼の求めている世界があるのだ。
「さてと」
逃げることを忘れて配信を続けているジュンジュンに近づくと、ユーリは短槍を向けた。
「道明寺隼人は死に、探索協会はモンスターに襲われてしばらく動けない。いつまでも自分のいるところが安全だと思うなよ」
ユーリは最初からジュンジュンの配信を見ていた。いや正確には、今日この場で配信できるよう、匿名で情報を提供していたのだ。
情報に踊らされたジュンジュンは狙い取りにライブ配信を行い、視聴者たちと一緒に探索者たちが死ぬ場面をエンターテインメントとして楽しんでいた。モンスターが地上にいるのが日常となったのに、まだ他人事だと受け取っている人々が多い。
その事実を知ったユーリは、今よりも混乱と恐怖をまき散らせなければいけないと決意する。
「日本を中心にモンスターはもっと増える。特に人口が減っている地域から危険になっていくぞ」
短槍の穂先がジュンジュンの喉に突き刺さった。声は出せずに、何故といった疑問を浮かべた目をしながら抜き取ろうとして腕を動かす。
落ちたスマホを拾ったユーリは、その姿をカメラで映していた。
「よく見ておけ。お前たちの未来の姿だ。モンスターや俺は、必ず人類を滅亡させる。嫌なら力を付けるか、戦えるヤツらに頭を下げて守ってもらうことだな」
傍観者ではいられない。
何もしなければ死ぬと煽っていく。
命の危機にさらされていると本心から感じ続ければ、探索者を見る目は変わっていくことだろう。今までは魔石を運んでくる便利な人扱いだったが、世界の安全と平和を守る正義の職業にまで地位が向上する。もちろん、モンスターと戦える他の職業も同様だ。
またレベルやスキルを持った人々は個人差が大きくなり、組織的な動きをせずとも活躍する人は出てくる。
そんな世界にまでなれば組織になんて縛られない英雄が誕生し、探索協会の地位や影響力は低くなる。それがユーリの求める未来であった。
ジュンジュンが息絶えたのを確認してから、スマホを地面に落としてから踏みつけて破壊する。
「もうすぐ、探索者が中心となる世界が来る」
ゴミの様に使い捨てられてきた仲間たちが報われるには、日本が、そしていつか世界が探索者を崇拝するようにならなければいけない。ユーリはそう考え破滅に向かって行動を続けていく。
◇◇◇
白いアラクネの後を追っている正人は、道玄坂を走っていた。モンスターの襲撃によって外出禁止令が出ているため、逃げ遅れた一般市民は建物の中に隠れている。普段は騒がしい道も静かだ。動いている車はなく、みんなビルから外の様子を眺めている。
「ドウシテ、オッテコレル!」
糸を使ってビルの間を飛んで移動しているのに、正人は振り切れない。このまま移動しても逃げられはしないとわかり、逃走を諦めた白いアラクネは次の作戦を実行することにした。
ビルの壁に張り付くと窓ガラスを割ってオフィスに侵入した。避難していた若い女性が四人いる。そのうちの一人に近づいた。
「ひぃ」
恐怖によって腰が抜けてしまい立ち上がれない。涙を流しながら、来ないでと何度も繰り返している。
「コイツナラ、ツカエルカ」
若い女性に糸で簀巻きにして拘束すると、白いアラクネが抱きかかえて外に出る。
道路の真ん中に着地すると目の前に正人がいた。
若い女性は首を掴まれていて、白いアラクネが少しでも力を入れれば、へし折れてしまうだろう。
「人質を取ったのか」
己の力を使って戦うことしか出来ないモンスターが、人の弱点を的確に突く作戦を思いつき、さらに実行までしている。言語や武器を扱うだけでなく、相手のことを考え、想像し、行動できる能力まで備わっているとしたら、進化のスピードは恐ろしいほど速い。
今は優位に立てている正人ではあるが、一年、いや半年でも白いアラクネを放置していたら勝てるか分からない。この場で絶対に倒すと正人は決意する。
「ウゴイタラ、オンナ、コロス」
「要求は?」
「ブキヲステロ」
ビルの中には他にも人が残っている。きっと誰かが通報しているだろうと信じて、正人は腰にぶら下げているナイフを地面に投げ捨てた。
「これでいいか?」
「テヲアゲテ、ヒザヲツケ」
もちろん拒否はしない。言われたとおりに行動する。ただしゆっくりと動き、仲間を信じて時間を稼ぐ。
正人は手を上げながら、あえてスキルを使おうとする。魔力の動きを察知した白いアラクネは、若い女性の首を少しだけ強く握る。
「スキル、ツカエバ、コロス」
「分かった。使わない」
動きを止めて正人は悔しそうに言った。わざとらしい表情ではあるが演技だとバレてはいない。白いアラクネは見破るほどの経験を積んでいないからだ。
「ツギハ、ナイ」
動きを止めたまま正人は指示を待つ。
「ハヤク、テヲアゲロ」
「了解」
素直に従って両腕を完全に上げた。
「で、次は何をするんだっけ?」
「ヒザマズケ!」






