俺様がすぐに解決してやる!
急降下してくる正人に向けて白いアラクネは頭を狙い撃ちしたが、半透明の盾に邪魔をされてしまい、攻撃は当たらなかった。
距離が縮まり、このままだと不利になると察した白いアラクネは、スナイパーライフルを投げ捨てると地面に突き刺していた大剣を二本持つ。人間では両手で振り回すことすら難しい大きさではあるが、モンスターであれば片手で使える。
刀身を横にして正人が接触する直前で、二本の大剣を横に振るった。
半透明の盾が三つ移動して攻撃を防ぐが、勢いまでは殺せずに正人は吹き飛ばされてしまった。このままでは近くのビルに衝突してしまう。
――短距離瞬間移動。
スキルを使って白いアラクネの頭上に出現した正人は、二本のナイフを抜くと逆手に持つ。
――短剣術。
――怪力。
――身体能力強化。
複数のスキルを重ねて発動し、アラクネの両肩に突き刺した。
皮膚、筋肉、神経、そして骨までも貫いていく。根元まで深く刺さってから一気に抜くと、赤い血が噴水のように出る。返り血を浴びないよう正人は飛び降りて距離を取った。
「ニクイ、ニクイ、ヒトモ、ワタシヲツクッタヤツモ、スベテニクイッ!!」
白いアラクネの叫びは、衝撃波となって周囲にあるものを振動させた。
配信のために走って正人へ近づいていた男は、建物に隠れて攻撃をやり過ごす。ズーム機能を使って実況を続けることにした。
白いアラクネから流れ出ていた血は止まりつつあり、ナイフの傷は小さくなっている。回復系のスキルを持っているのだ。ナイフで肩を刺しただけでは倒せない。勝つためには、相手の魔力がつきるまで攻撃し続けるのみだ。
正人はナイフをしまうと近くに落ちている瓦礫を拾う。
――投擲:魔力爆発。
瓦礫は白いアラクネが持っている大剣に当たり、大規模な爆発を起こす。爆風が正人の肌を焼き軽いやけどを負ってしまったが、攻撃の手を止めることはない。『投擲:魔力爆発』のスキルを使いながら投擲を続ける。
大剣で身を守っている白いアラクネは爆発の度に刀身が欠けていき、五回目の瓦礫が衝突したときに折れてしまう。
「くらえッ!!」
たっぷりと魔力を込めて『投擲:魔力爆発』を使った正人が、全力で瓦礫を投擲した。
白いアラクネは使い物にならなくなった両手剣の代わりに腕をクロスさせて身を守る姿勢を取り、次の瞬間に衝突、最大の爆発が発生。周囲にあるビルのガラスは、すべて割れてしまいコンクリートの壁も爆風によって半壊する。中心にいた白いアラクネの上半身は千切れかけ、蜘蛛の足はすべて吹き飛んでいた。
「ユルセナイ」
それでも意識は保っていて生きている。戦意が落ちていないのは人間への深い憎しみがあるからで、自己回復しながら正人を殺そうとスキルを使う。
――眷属召喚。
地面に魔法陣が浮かぶと大蜘蛛が出現した。数は三十。今の正人なら一分以内に殲滅可能だ。早く倒して白いアラクネにトドメを刺すべく、正人は動こうとする。
「どけぇぇぇぇッ!」
上空から男の叫び声が聞こえた。
見上げると、肩まで伸びた蒼い髪をなびかせ、野心に溢れた瞳でモンスターを睨みつけている道明寺隼人がいた。
低空飛行しているヘリコプターから飛び降りたのである。地上から十メートル以上は離れているため普通であればケガは避けられないが、隼人は『突風』のスキルを使い着地直前で落下速度を抑えて無事に着地した。
隼人は一瞬だけ正人を睨みつけてから、すぐ大蜘蛛と対峙する。
「俺様がすぐに解決してやる! 任せろッ!!」
今もイヤホンを着けながらライブ配信を聞いている隼人は、正人を日本最強の探索者という立場を脅かす存在だと警戒している。大勢の前で誰が強いのか、頼れる探索者なのかわからせるために、ここで活躍しなければいけないという焦りもあった。
だからこそパーティメンバーを他の探索者のフォローに回し、単独で乗り込んで来たのだ。
強力な助っ人が登場して盛り上がっても良い場面でもあるのだが、周囲の反応は冷ややかである。
『お前がいなくても、もうすぐ解決するんだけど』
『遅すぎ。場を混乱させるだけなので来ない方がマシだった』
『偉そうなくせに大遅刻。だせぇ』
ライブ配信の視聴者は、辛辣なコメントばかりを書き込んでいた。配信者も同調するような意見を連発しており、イヤホンを通じて隼人にまで伝わる。プライドを大きく傷つけられて怒りは高まるばかりだ。
「うるせぇ! 俺は最強なんだッ!!」
正人から見れば、隼人は一人で急に怒鳴りだしたのだ。
モンスターを前にして興奮しすぎだと不安になり、ベテラン探索者だから大丈夫だとは思いつつも声をかけてしまう。
「落ち着いてください! モンスターが近づいていますよ!」
警告しながら正人は『エネルギーボルト』を放って、付近にいる大蜘蛛を数匹貫く。
まったく悪意のない言動ではあったのだが、隼人は見下されたと受け取ってしまった。反発心が強くなる。
「うるせぇ! 役立たずは後ろで見てろッ!」
会話は終わりだ。隼人はスキルを使う。
――武人。
両腕につけている蒼いガントレットが淡く光る。身体能力及び格闘技術や接近戦の能力が大きく上昇する複合スキルだ。日本で覚えているのは隼人だけ。
「世界中に俺様の強さを見せつけてやる!」
地面がえぐれるほど踏み込んだ隼人が飛び出した。
大蜘蛛を殴りつけて砕く。
衝撃に耐えきれずに体が破壊されてしまったのだ。
次々と大蜘蛛を倒していく姿は、トップレベルの探索者として相応しい能力を発揮しているが、やはり正人が登場したときほどのインパクトはない。
あの絶望的な瞬間に駆けつけ、逆転のきっかけを作った姿と比較すると、どうしても見劣りしてしまうのである。






