アイツ、コロス
『まさか、まさかの大逆転ッ!!』
『天使は実在したんだ!(なお男)』
『あの探索者って道明寺隼人より強いんじゃね?』
ライブ配信の視聴者は相変わらず好き勝手なコメントを書き込んでいる。配信者もはしゃいでいおり、一種のお祭りのような盛り上がりを見せていた。
一方の正人たちは、戦場とは思えないほど静かだ。
攻撃を警戒したモンスターは、危機を感じて進行を止めており睨み合っている。その間にも天使の羽から発せられる光の粉によって探索者の傷が癒やされていく。時間は人間側に味方していた。
「アイツ、コロス」
モンスターの群れを操っている下半身が真っ白なアラクネは、人間から奪い取ったスナイパーライフルを構えた。目標は宙に浮かんでいる正人である。スコープを覗いて照準を合わせてから、息を止めてトリガーを引く。銃弾が放たれると着弾は確認せずに、すぐさま続けて放つ。
不意の一撃ではあったが、自動浮遊盾が危険感知して正人を守る。一発でヒビが入ってしまった。
「銃弾ッ!」
姿は見えないが、正人は逃がしてしまった白いアラクネの存在を思い出す。片言ではあるが人の言葉を使っており、銃を扱えるほど知能も高かった。あのモンスターであれば探索協会襲撃事件の主犯、群れを操っているボスである可能性が高いと直感する。
「モンスターが銃を使っています! 隠れていてください!」
周囲の探索者に警告していると追加の銃弾が正人を襲う。半透明の盾にあたり、砕けてしまう。威力を落とした銃弾は防具、そして正人の腹にめり込む。
血が流れ落ちる。『苦痛耐性』スキルが効果を発揮して、痛みはほとんど感じていない。次の攻撃を警戒して半透明の盾を修復しながらスキルを使う。
――自己回復。
肉がせり上がって銃弾が排出され、腹に空いた穴が跡を残さず消えた。
スコープを覗いて様子を確認していた白いアラクネは、攻撃が失敗したと判断して次の行動に移す。
「ゼングン、トツゲキ」
知能は高いとはいってもモンスターに限っての話だ。細かい作戦など考えることはできず、物量で押しつぶそうとする。
先ほどとのモンスターの種類もほとんど同じだが、一点だけ違いがある。飼い慣らしていた女性の頭を持つ鳥型のモンスター、ハーピーが含まれていた。飛行するために体重が軽く重い物は持てないが、声に関する特殊なスキルをいくつも使うため油断できる相手ではない。
状態異常への耐性を持っていない正人にとっては、スナイパーライフルよりも危険だと言えるだろう。
ベテラン探索者でもある蓮は、そんなハーピーの能力を熟知していた。
「発砲の許可をする! ハーピーを正人に近づけるなッ!」
先ほど連発してスキルを放ったため、探索者たちに魔力は残っていない。
限られたメンバーにだけ特別に支給されていた銃を取り出すと、残り僅かになった銃弾を詰め込んで撃つ。
パン、パンと乾いた音が響き渡り、ハーピーの胸や羽に当たる。命中率は40%といったところだろうか。極限の状況で発砲したと考えれば悪くはない数字だ。
移動性に特化していることもあってハーピーの防御力は低く、銃弾が直撃した個体は地面に落下していった。
「残りは私が何とかします!」
援護射撃によって数は減ったが、それでも数十は残っている。正人に向かって真っ直ぐに進んでおり、数秒でスキルの範囲に入る。一匹でも精神を狂わせる歌を聞かせてしまえば、モンスター側の勝利になるだろう。
だがスキルの出し惜しみをせず、全力を出すと決めた正人に、そのような未来は絶対に訪れない。
――短距離瞬間移動。
さらに上空へと移動した正人は、眼下にいるハーピーに向けて攻撃をする。
――水弾。
正人の周囲に水の弾がいくつも浮かび上がる。通常は球体なのだが、今回は横に広がるように変形させて、範囲を広げている。
腕を振り下ろすとの同時に水球が落下した。
重力の勢いが加わり、空気の抵抗を受けながらも矢のように早く動き、急旋回しようとしているハーピーに衝突。羽が折れ、悲鳴を上げながら墜落していく。
勝利した瞬間の隙を狙ってスナイパーライフルの弾丸が飛んできたが、半透明の盾が動いて正人を守る。
「圧倒的強さだ! もしかして日本最強じゃないか!? 道明寺隼人は確実に超えたなッ!」
ライブ配信者が道明寺隼人を超えたと叫ぶようになった。
追従するようなコメントが多く書き込まれる。日本最強は目の前の男だと賞賛の嵐だ。異常なほどコメントの流れる速度が速い。だから……。
『違う。俺の方が強いね』
移動中の道明寺隼人がコメントを書き込んでも、誰も気づけなかった。
「モンスターを掃討するぞ!!」
優位になった今、バリケードの中にいる必要はない。『天使の羽』が散布する光の粉によって探索者たちの傷が癒えていることもあり、戦意は高い。さらにライブ配信を見て優勢になったと気づき、応援に駆けつけた探索者が合流して、モンスターの残党との戦いが始まる。
戦況は大きく変わった。
上空から全体を俯瞰してみている正人は、探索者側に有利に動いていること知り、援護の必要はないと判断する。自分しかできない役割を全うするために地上に向けて降下する。向かう先はスナイパーライフルを構えた白いアラクネだ。






