正人っ! そこは危ない!
探索協会の前に作られた半壊したバリケード。その近くに正人は立っていた。
後ろには建物を守っている探索者質が数十人いる。その中には、アラクネ討伐時に知り合ったモヒカン男の吉田蓮もいた。彼が部下を率いてアラクネや大蜘蛛と戦っていなければ、探索協会は早期に落とされていただろう。防衛戦、最大の功労者である。
「正人っ! そこは危ない!」
頭から血を流しながら蓮が叫んだ。
バリケードの近くにはアラクネの他、大蜘蛛やゴブリンなど多数のモンスターがいるのだから、当然の反応である。仲間を無駄死にさせたくない、その一心で蓮は正人を助けたいと思っていた。
「この程度のモンスター、すべて焼き尽くして見せますよ」
目の前には数十、いや数百ものモンスターがひしめいている。しかも全ての視線、そして敵意は正人に集まっており、普通の神経をしていたら冷静ではいられない。何度も死線をくぐり抜けた探索者であってもプレッシャーに負けて逃げ出してしまうだろう。
たった一人で、何が出来るのか。
現場にいる探索者の誰もが同じ思いを抱いていたが、ライブ配信を見守っている視聴者は違った。
『大蜘蛛をファイヤーボールで焼き殺した探索者だ!』
『きたー! これで勝てる!』
『すげータイミング! 狙ってたのか!?』
過去、探索協会がドローンを使って、正人が大蜘蛛をまとめて焼き殺した映像を流していた。モンスターと戦ったことのない一般人にとって、強烈な印象を残していたため、視聴者の多くが覚えていたのである。
きっと、この探索者なら何とかしてくれる。
戦いを安全な場所から楽しんでいた人たちの方が、探索者よりもはやく希望を見いだしていた。
――ファイヤーボール。
数々のスキルを覚えて魔力の総量が膨大になったこともあり、正人が作り出した火球は五十近くある。周辺の気温が数度あがるほどの熱量を持っていて、さきほどまで叫んでいた蓮が黙り込んでしまうほどの圧倒的な光景だ。
「あの数を一人で……?」
傷を負って後方に運ばれていた探索者が、この場にいる全員を代表してつぶやいた。
ファイヤーボールを同時に二つ作るだけでも高度な技術が求められるのに、五十個もどうやって作れば良いのかまったく想像できない。自分なら三つ目で魔力を使い果たして倒れてしまうだろうと結論を出すと同時に、正人の底知れぬ力に畏れを抱く。常識で考えてはいけない相手だと、負傷した探索者は本能が理解した。
「恨みはある。死んでいった仲間たちの仇討ちだ。全員消えろッ」
正人が叫ぶと火球がモンスターに向けて放たれた。直線で進むわけではなく、密集している場所にぶつけ、大きな被害を出している。
大蜘蛛やゴブリン、最前線で暴れていたアラクネが炎に包まれながら、のたうち回っていた。助けようとしたゴブリンが光の矢――エネルギーボルトで頭を打ち抜かれる。正人が放ったのだ。
助けようと動けば殺されるが、後方には恐ろしいボスがいるため、モンスターたちは撤退できない。前に進むしかなかった。
「すげーーー! 探索者ってあんなことできるのか!?」
戦場をライブ配信している男が興奮気味に叫んでいる。
『普通は無理。ってか誰も出来ない』
『道明寺隼人でも?』
『たぶんね』
視聴者はコメント欄で突っ込んでいるが、すぐ他のコメントが書き込まれてしまい流れてしまう。画面に映った映像を疑うコメントもあったが、多くは正人を賞賛する内容ばかりだった。
「おお! モンスターが動き出したぞッ!!」
生き残った大蜘蛛が正人を攻撃するために走り出した。上にはゴブリンが乗っていて弓を構えている。
――自動浮遊盾。
――天使の羽。
正人の背中に白い翼が生えた。ほんのりと光を発していて、光の粒子がキラキラと待っている。周囲には半透明の盾が四つも浮かんでいて、幻想的な光景であった。
「あれは宮沢愛のスキルじゃないか」
ベテラン探索者でもあり隼人のパーティと何度か行動したことのある蓮は、『天使の羽』の存在を知っていた。ユニークスキルと聞いていたため、なぜ正人が使えるのか疑問を抱く。
だが今は、そんなことを考えている余裕はない。
待ちに待った反撃の時が来たのだ。
正人がふわりと宙に浮かぶ。百メートル近くは上昇しただろう。走っていたモンスターの動きが止まった。
「なんでもいい! 遠距離攻撃をしろッ!」
命令を出したのと同時に蓮は『エネルギーボルト』を放った。最前列にいる大蜘蛛に突き刺さり、足を数本吹き飛ばす。バランスを崩して転倒すると、上に乗っていたゴブリンが落ちた。
そこにボウガンの矢が殺到し、ゴブリンは絶命する。
少し遅れて火球や光の矢、さらには岩や氷塊などが放たれてモンスターを叩く。溜まっていたストレスをぶつけるかのごとく、探索者たちは後のことなんて考えずに全力を出している。余力なんて残すつもりは毛頭ない。最初で最後の反撃だと思い、誰もが必死である。
他の探索者だって正人と一緒に戦っているのだと、襲い来るモンスターとライブ配信を見ている視聴者へ伝えるには、充分な攻撃であった。






