読める……
「これはすごいですね……」
正人の隣に立った冷夏が驚いていると、続いてヒナタが部屋に入る。
「映画みたい!! かっこいいね!」
非現実的な光景に目を輝かせながら喜んでいた。
里香は正人の隣に立つと周囲を観察している。椅子と台座以外は何もなく、自然と浮かび上がっている地図に視線が行く。
「地図しか表示できないんでしょうか?」
「どうだろう? 少し触ってみよう」
椅子に座ると、正人は台座を軽く触れてみた。
「おお!?」
目の前に地図とは別の半透明の画面が現れた。文字が隙間なくびっしりと詰められている。日本語でも英語でもなく、未知の言語であるため誰も読めない。
「なんて書いてあるのかな……」
文字を読もうとして里香の顔が正人に近づいた。汗と甘い匂いが鼻腔をくすぐり、ふと女性として意識してしまう。このままでは集中できない。危険を乗り越えた後と言うこともあって、どうしても本能を抑えにくいので、少し離れてもらうことにした。
「私は文字の解読をしてみるから、皆は部屋の調査をお願い」
「わかりました」
指示を聞いた里香は冷夏、ヒナタと合流すると床や壁を触り、調査を始めた。ようやく一人になった正人は、深呼吸をして気持ちを落ち着けてから画面を見る。
一番近い文字としては英語だろうか。
読み進めていくと、特定の文字が何度も使われていることに気づく。
「これは母音か? で、この塊は単語で……」
つぶやきながら考えをまとめていく。この程度で文字を解析できたら誰も苦労しない。普通は長い時間をかけて徐々に理解を進めていくのだが、解読しようとした努力がスキル昇華のアシストによって、スキルに変わる。正人の脳内に大量の情報が流れ込んだ。
『多言語理解(読み)、未知の言語が読める』
頭を抑えながら、正人は新しく覚えたスキルを使う。
「読める……」
日本語のように、半透明の画面に映し出された文字が読めるようになったのだ。未知の単語が出てきても、スキルが情報を補足してくれるので、内容は全て理解できてしまう。
「なんか変な部屋を見つけたよー!」
調査をしている里香たちの方にも変化があった。
持っていた大剣が邪魔になったヒナタが大剣を壁に立てかけると、取っ手のないドアが開いたのだ。つなぎ目すら見えずに壁と一体化していたため、眺めていただけでは発見には至らなかっただろう。
隠し部屋の奥は暗く中は見えない。罠を警戒した三人は安易に入ることはしなかった。
「こっちは、新しいスキルのおかげで、文字が読めるようになった」
「ええ! すごい! なんて書いてあったのー!?」
隠し部屋の報告を後回しにて、ヒナタが駆け寄った。
「ねーねー。教えてー! 教えてー!」
抱き付こうとしたので、冷夏と里香が肩に手を置いて止める。
二人とも鋭い目つきをしていた。
文字が読めるようになり興奮している正人は周囲の些細な動きには気づかず、三人に向けて話かける。
「地球にダンジョンができた理由、それが書かれている」
「「「…………」」」
衝撃的な発言によって、三人は黙ってしまった。視線は正人に集まる。
誰も知らない情報を知るワクワクした高揚感と、良くないことが書かれているんじゃないかという不安感。この二つが混ざり合い、聞きたいけど聞きたくない。そんな感情がわき上がっていた。
「どうやら異世界からの侵略、その一環でダンジョンを作りだしているみたいだ」
「ダンジョンのモンスターを使って、人類を滅ぼすんですか?」
「いや、ちょっと違う。魔石やスキルといった便利な道具を提供して、俺たちに依存させる計画らしい」
今はクリーンエネルギーとして世界中で利用されている魔石。電気に変わって魔力で動く家電製品も増えてきた。発電所はいくつも停止となり、世界が脱電気に向けて動いているのだ。
ダンジョンを送りつけた侵略者達は、何も知らずに思い通りに動いている人類を見て笑いが止まらないだろう。
なんて愚かなヤツら、なんて見下しているはずだ。
「でね、重要なのはこっからなんだ。社会が完全にダンジョン産業に依存したところで、全ての提供を止めるらしい。すると、どうなると思う?」
「原始時代に戻る!!」
元気よく答えたヒナタに正人は優しい笑みを向けてから、記載されていた一つ目の計画の続きを話す。
「交渉が決裂したらそうなるかもだけど、最初は資源を人質にして一部の土地を譲渡してもらう交渉をするらしい。その後は異世界からの移住が始まり……ッ!?」
説明している途中でダンジョン内が揺れた。部屋の壁にはヒビが入り、地図の上に赤い文字が浮かぶ。部屋中にサイレンが鳴り響くと四人の緊張感が高まる。
「なんて書いてあるんですか?」
異世界の言語だったので読めず、里香が正人に聞いた。
「崩壊プログラム起動……」
ダンジョンを使った移住、その先にある地球侵略計画が漏れないようにと、ダンジョン管理者の死亡をキーにして自壊が始まったのだ。
通ってきた道は使えず、帰り道はない。
覚えたばかりの『転移』を使えば正人だけは生き延びられるだろうが、仲間を見殺しにできるほどの冷徹な判断は下せない。逃げ道がないか、ダンジョンの地図を見ていく。
文字は書かれていないが、司令室の中に門のようなマークと数字が描かれていることに気づいた。
「外部につながる道があるかもしれない」
「隠し部屋のことですか?」
脱出の手がかりがあるかもしれないという希望を持って、正人たちはヒナタが偶然にも発見した隠し部屋へ向かうことにした。






