手に入れた? どういうことだ?
「もちろんです。任せてください」
臆することなどなく里香は飛び出しアイアンアントクイーンと接敵すると、片手剣を振り上げる。魔力が切れているためスキルは使えないが、関節部分を的確に狙い、足を一本切断。返す刀で頭部を当てようとしたが、ヴァトールが吐き出した酸性の水球が近づいてきたので後ろに下がる。
じゅわっと煙を上げながら床の一部が消失した。
ヴァトールは体の半分ほど再生が終わっていて、二本であれば大剣が振るえそうな状態だ。アイアンアントクイーンは半回転して腹部を里香に向ける。毒霧を噴射する兆候だ。
「ボスは任せてくれ!」
正人が『短距離瞬間移動』を使って、ヴァトールの頭上に現れた。逆手に持ったナイフで首筋を突き刺す。再び各種スキルを使っているため、外殻を打ち破り、頭部付近の関節から緑の血が吹き出る。さらに体へしがみつくと、頭部をがっしりと掴んだ。
「何をするつもりだ!」
大剣を手放して正人を掴んだが、『格闘術』『肉体強化』を使用している彼には勝てない。攻撃はできず、もがくだけだ。
余裕のできた正人は里香の方を見る。
アイアンアントクイーンから距離を取って、毒霧を回避していた。紫の煙が消えると里香が特攻する。今度は誰もにも邪魔されることなく、剣を振り続けて足を切り、腹部も斬り裂く。レベルが上がり強くなった里香は、スキルが使えなくてもアイアンアントクイーンを圧倒する実力を持っていた。
さらに冷夏やヒナタも加勢したので、負けることはないだろう。
「後は、お前だけだ」
さらに力を込めて締め付けながら、ヴァトールの頭を横に回す。抵抗を感じたが、長くは持たない。ふと力が抜けてクルリと一回転した。
「この俺が、素手でやられるとは」
ねじ切られて頭部が切り離されたというのに、ヴァトールは口を動かし、声を出していた。
生命力と人とは違う体の構造に驚きながらも、正人は頭部を離すことはしない。モンスターの話を聞く貴重な機会だと思い、会話を試みる。
「人間だと馬鹿にして、油断したからだ」
「……俺は特別な力を手に入れて、強くなったと勘違いしていた。お前の言う通りなのかもな」
「手に入れた? どういうことだ?」
種族として元から備わっている能力であれば、手に入れたなどといった表現はしない。何かきっかけがあって、特別な能力――スキルを手に入れたんだと、正人は直感的に理解した。
「勝者の権利として教えてやる」
ヴァトールの声が小さくなってきた。
残された時間は僅かで、もうすぐ力尽きてしまうだろう。
「技術者によって肉体改造された。腕を増やしてもらい、脳をイジり、新しいスキルを強制的に覚えさせられる。さらには再生能力までもらったのだ、絶対に負けないという自信があったんだがな……」
モンスターを手術によって改造する。そんな技術は日本どころか海外にもない。モンスターの解剖ぐらいは各国でしているが、構造や生態系は不明のまま。何もわかっていないのが現状だ。
明らかに人類よりも高い技術力を持っている。それがいったい誰なのか。気にならない人間はいないだろう。
「技術者とは誰だ? どこにいる?」
「安心しろ。ここにはいない。もっと遠い場所だ」
「だから、そこはどこなんだ!」
勝者の権利だと言った割りには、肝心なことを誤魔化されている。苛立った正人は怒りの言葉をぶつけたが、ヴァトールは変わらない。
「この星とは別の場所。それ以上は……教えられない……」
最後は聞き取るのがやっとだった。瞳から光が失われていく。
アイアンアントクイーンを倒し終えた里香たちが、正人の周りに集まってきた。
「俺が死ね…………ば奥にドアが……好きなだけ………」
話している途中でヴァトールは力尽きた。黒い霧に包まれて、消えていく。残ったのは、人間の頭ぐらいの大きさもある真っ黒な魔石と、大剣だった。スキルカードはない。
「みんな、体調は?」
あれだけの強敵を倒したのだから、レベルアップするかもしれないと考えて正人は質問したのだが、三人は首を横に振って否定した。
「そっか。ではすぐ動けそうだね」
「ヴァトールと何を話していたんですか?」
「里香さん、それは後で話すよ。それよりも今は奥へ行こう」
先ほどまでは壁だった場所に、クリスタルで作られたドアが出現していた。
ゆっくりと話すのは、周囲の安全を確認してからでも遅くはないだろう。正人は魔石をリュックに入れてから立ち上がる。
スキルを使って罠を警戒しながら歩き、ドアの前に立つ。自動で開いた。
小さな小部屋になっていて、中心には台座のようなものがある。空中には立体的な映像があり、正人の脳内に浮かぶ地図と同じ形をしていた。視線を少し横にずらすと革張りの椅子もあり、映像をじっくりと見ていられる環境だ。
「何がありました?」
正人の後ろから部屋を覗き込んだ里香が聞いた。隣には冷夏がいて、ヒナタは大剣を引きずりながらゆっくりと歩いている。
「わからない……けど、司令室みたいに思える」
椅子に座ったヴァトールが、地図を見ながらダンジョンの侵入者を監視する。そんな姿が思い浮かんで出た言葉だった。






