暗いだけでたいしたことないねー
モンスターが消えたことで、ここがダンジョンだというのは確定した。さらに新種も目撃してしまった。非常に価値のあある情報を手に入れたことになり、引き返す理由としては充分だが、モンスターは強くないため、余裕はある。
もう少し情報を集めても問題ないだろうと、正人は判断した。
「奥に行こう」
小部屋には何も置かれてなかった。『ファイヤーボール』の明かりを頼りにして、小部屋にあるドアを開いて歩いて行く。『暗視』スキルのおかげで、正人は通路の奥まで見通せる。
時折、アイアンアントソルジャーが単体で歩いて姿を見つけると、遠距離のスキルを使って即座に消滅させた。
未踏のダンジョンとは思えないほど順調に進んでおり、トラップすらないため正人たちの歩みを止めるものはない。
「暗いだけでたいしたことないねー。やっぱり赤ちゃんなのかな?」
頭の後ろに両手をおきつつ、ヒナタが楽しげにつぶやいた。緊張感が薄れて注意が散漫になっている。
「ヒナター。ここはダンジョンなんだよ? 油断したらダメなんだから」
「お姉ちゃんの言いたいこと分かるどさー。ここには何もないよー」
などとのんきなことを言ってフラグを立ててしまったのか、生まれたてのダンジョンが正人たちに牙をむく。
パラパラと天井から小石がいくつか落ちてきた。
四人は視線を上に向ける。
亀裂が入っていた。
「これって……」
先ほどまで笑っていたヒナタの頬が引きつっている。
甘く見るなよ、なんてことをダンジョンに言われているよう感じていた。
「全員、急いで戻ろう!」
天井が崩れてしまうからといって先に進んでしまえば、帰り道を失う可能性がある。逃げ道を最優先にして行動するべきだと判断した正人は、大声で指示を出しながら後ろを振り返った。
「アイアンアント……」
壁や床からアイアンアントの集団が出現していた。運悪く地下に作られた巣がダンジョンとつながってしまい、続々と出てきて通路を埋めていく。遠距離のスキルを使ったところで倒しきれない上に、自然繁殖したモンスターは死がいが残るので、通り抜けようとすれば邪魔になってしまう。
逃げ道がなくなり動きを止めている間に、天井の亀裂は拡大して岩が落下してきた。
『自動浮遊盾』
一瞬の躊躇が、千載一遇となるチャンスを逃してしまった。
撤退は不可能だと判断して、正人は守りを選んだ。
四人の頭上に半透明の盾が浮かび石を防ぐ。この場にとどまれば怪我はしないだろうが、前後の道が落盤によって塞がって生き埋めになってしまう。
帰り道を失うよりも最悪な未来を避けるべく、半透明の盾に石が当たる音を聞きながら反転してダンジョンの奥へ走り出す。
が、すぐに足が止まってしまった。
目の前にアイアンアントソルジャーが二匹立っていて、短槍の穂先を正人たちに向けていたのだ。
「馬鹿にしたことは謝るから許してーーーー!」
こんな状況では戦えないとヒナタがダンジョンに抗議するが、当然のように無視される。
「バカなこと言ってないで戦うからね!」
突っ込みながら冷夏が手を前に出しながらスキルを使う。
『ファイヤーボール』
三つの火球がアイアンアントソルジャー向かうと、仲間を庇うように一匹が前に飛び出して衝突した。小規模な爆発と共にアイアンアントソルジャーの体は粉々に砕かれたが、後ろに残っていた一匹は健在である。もう一度、遠距離から攻撃すれば倒せるだろうが、落盤によって道が埋まってしまうかもしれない。
「みんな走って!」
ヒナタの声がした。正人が走り出すと里香や冷夏も続く。
『縮地』
覚え立てのスキルを三回連続で使用すると、ヒナタは瞬時にアイアンアントソルジャーの後ろに回り込む。姿を見失った敵は隙だらけだ。願ってもないチャンスである。
『細剣術』
右手に持つレイピアが淡く光った。鋭さが増した刀身をアイアンアントソルジャーの腹部に刺し、体内の魔石を砕く。正人たちが近づいたときには黒い霧に包まれて消滅しかけているところだ。
「ちょっと失礼するよ」
スキルを連続使用して魔力が枯渇気味になり、動きの鈍ったヒナタを正人が抱きかかえた。
「え、え!? 汗臭くないですかっ!」
思ってもみなかった行動を取られてしまい、ヒナタは戸惑っている。冷夏や里香の視線も気になるところではあるが、落盤が止まらない状況で暴れるのは危険だ。荷物のように動かずにじっとしていると、気がついたら周囲が静かになっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
足を止めて短い呼吸を繰り返している正人が、ヒナタを優しく地面に置いた。振り返ると落盤によって通路が埋められていて、後戻りはできないようになっている。
「できたばかりのダンジョンでも危険だね……」
先ほどの発言とは真逆のことを言ったヒナタは、力なく倒れて仰向けになった。抱きかかえ続けていた正人も汗を拭いながら、地面に座る。
「少し休憩にしよう」
脳内の地図には青いマーカーのみが浮かんでいる。油断はできないが、呼吸を整えるぐらいの時間ぐらいなら問題はならない。正人は体力の回復を努めなら、この先のことを考えることにした。






