メイ宅配便ですー!
「そう言われると暗視のスキルは使えそうですね」
「だろ? 私が覚えておくことにしよう」
今回はダンジョンではないため『スキル昇華』が使えない。他人に覚えさせる余裕はないので、正人がスキルカードで覚える予定だ。
タブレットを操作して暗視のスキルを選ぶと、他にも掘り出し物のスキルカードがないか探す。
ページをめくっても手に入れたスキルか、もしくは今回の依頼には使えないものばかりだった。
「咆吼のスキルを覚えてもなぁ」
大声を出してモンスターの注目を集めるスキルだ。遠くにいる敵もおびき寄せてしまうというデメリットもあり、不人気である。今回は声が反響しやすい場所で探索するため、デメリットの効果はより大きくなるだろう。
自爆するときの道連れに、モンスターを呼ぶぐらいしか価値がない。
「微妙ですね」
「うん。他のスキルは不要だね」
顔を上げると、正人はタブレットを谷口に返す。
「この程度で良いんですか?」
予想していたより選んだスキルカードの数が少なかった。倍以上のスキルカードを選んでもおかしくないだろうなんて思っていたので、質問したのである。
「不要なスキルを覚えたら協会に怒られちゃいますからね」
「確かに」
正人と谷口は同時に小さく笑った。
探索協会の怖さは身を以て感じているため、嫌われないように誠実でいようという考えは、二人とも共感できたのである。
「スキルカードはいつとどきますか?」
「五分程度ですね」
タブレットを操作しながら谷口が答えると、正人は驚いた顔をした。
例えバイク便を使ったとしても、もっと時間はかかる。一般的な常識から考えると、あり得ない速さだ。
「そんなに早いんですか? 明日ぐらいに届くと思っていました」
「移動系のスキルを持っている探索者に依頼するので、多分もっと早い……て、着いたみたいですね」
話していた谷口が、横幅数メートルはある大きな窓の方を見たので、正人たちも続く。一人の女性らしき人物が立っていた。
「メイ宅配便ですー!」
緑色の帽子と白い仮面を付け、つなぎを着ている。服のサイズがブカブカで体型は分からず、仮面に付けられたボイスチェンジャーで声を変えている。正人は髪の長さから女性だと推測したが確信はない。
メイ宅配便と名乗った人物は片手に白い封筒を持っていて、ヒラヒラと前後に動かしている。貴重なスキルカードが入っているとは思えないほど雑な扱いだ。
谷口はスキルカードを受け取るため、窓を開けながら話かける。
「早いですね」
「協会のおじいちゃんが急げってうるさかったから!」
「そういうことですか」
和やかな雰囲気のまま、谷口は白い封筒を受け取った。
「言えたらで良いんだけど、何が入ってるの?」
どうやらメイ宅配便と名乗った人物は、何を運んでいたのか知らされてなかったようである。興味本位で谷口に聞いてみた。
「知りたいですか?」
「ううん。やめておく。知らない方が良いことってあるからね」
協会絡みの問題だと直感したメイ宅配便と名乗った人物は、答えを聞かずに白い封筒を渡すと、後ろに数歩下がった。
「またのご利用をおまちしておりますねー」
手を振りながら別れの挨拶をしている途中に姿が薄くなり、しばらくして完全に消える。
高速移動や飛翔でもない。正人が覚えた『短距離瞬間移動』の長距離バージョンだ。行きたい場所を思い描けば、地球の裏側まで移動可能であり、人類が未踏の場所でも、衛星からの画像があればスキルの補助で転移可能である。
ダンジョン内では機械が動作しないため利便性は大きく落ちるが、地上では恐ろしいほどの効果――独裁者の暗殺等――を発揮するため、探索協会はスキル所持者の個人情報は徹底的に隠していた。仮面をかぶり性別をわかりにくくしている理由も、ここにある。
「希望されたスキルカードが全部入っているか確認してください」
詳細は何も聞くな。そんな圧力をかけながら、谷口は正人に白い封筒を渡す。
普通なら、これで話は終わるはずなのだが、転移で消えるまで魔力の動きを凝視していた正人には『スキル昇華』がある。
ダンジョン内で魔力の動きを再現すれば、今回見た『転移』を覚えることもできるだろう。
探索協会は無茶な仕事ばかり依頼してくるが、見方を変えれば貴重なスキルを観察するチャンスとも言える。道明寺隼人のときもそうであったが、奥の手とも言えるスキルを覚える機会は今度も訪れるだろう。
スキルを覚えれば総魔力量も増えていき、使用回数も増加する。今の正人は、探索者の中で最も魔力量が多く、対抗できる探索者はほとんどいない。本人、そして周囲の誰も気づいていないが、最強探索者といっても過言ではない状態になりつつあった。
「ありがとうございます。確認しますね」
白い封筒を開けてから、スキルカードを取り出す。タブレットで選んだと同じ枚数だ。絵柄を見ながら里香、冷夏、ヒナタに配っていく。
受け取った三人は手に持って、覚えると念じるとスキルカードは光って消えていった。
「皆、覚えた?」
「はい。いつでも使えます」
代表して里香が返事すると、正人もスキルカードを持つと新しいスキルを覚える。
これで準備は整った。すぐにでもアイアンアントの巣に入り、地上に出てくる前にアイアンアントクイーンを討伐する予定だ。






